「星の終わりの夜」
『遊子』第30号(2023年12月)掲載
月並みにしてまた今日もポチという犬、タマという猫には逢わず
鎖されて久しき市営パーキング傾かずあり坂の途中に
とびら裏の凹みの列に十(とお)買いし卵を生のまま落としゆく
曲がりきゅうりタワシたくわん片手鍋……。皆正しいとは思っていない
無垢としか見えぬ笑いを浮かべいる人を赦せり亡き人ゆえに
人は人、犬は犬用に作りたる輪にて繫がむ主人(あるじ)たるもの
突きつけないでくれよ己(おの)れを護るには拒むしかない真実ばかり
擬態語で言えば「ぼうぼう」幾星霜やまぬ戦火がゲームの中で
何度でも洗い流せる戦いに両手そのたび血塗られたれど
やったあとのどいつもこいつも似たような顔なんてもう覚えちゃいない
国ひとつ滅びゆく見ゆ年ふりてまくなぎ飛べる視野の彼方に
幸せに誰もがなるの 見えぬ目や聞こえぬ方の耳からなるの
世にお花畑と云われ善き人のめぐり善き人ばかりが集う
夜光るものらも棲めるこの星に明けない夜のないわけがなく
万物の始めは宙(そら)を降(ふ)りながら燃え尽きざりし石の一粒