「空の恵み」
『サラン橋』第8号(2010年2月)掲載
くだ
天水の降れる地表ひえびえとかつて寸余の魚も泳ぎし
か と
希少なる生き餌であればいち早く四肢なき蝌蚪のうちにし捕らう
みなそこ
水底の砂中に住まうひとつにて腰よりスイと沈む川えび
蚊柱の遠目に見えて立ちのぼる此岸彼岸の境目あたり
ものなべて左右に割るるあかときを薄き翅にて飛べかぶとむし
らん
晩秋はすすきの茎にへばりつく卵あり 卵にちちははあらず
まだ出て行くときではないとこの国の春までをひたに眠れるさなぎ
せいれい
未来世の空見ゆらむか蜻蛉の舞えば真青きめがねのむこう