「白洲」
     『Es蝕』第18号(2009年11月)掲載



  ありきたりのシナリオなれば迷うなく悪しきらは桜吹雪でさばく

  罪状の定まらざるは不憫にてかつて重たき石を抱かせき
  
         い                      うちわ
  うっちゃりは異なる荒技 正しさのためなら回し軍配もありうる

  決戦の終わりはいつも王様が生きてるうちに投げ出す決まり

  圧殺にはゆめあらざれば公衆の面前でだけ使うギロチン

  静粛を守れぬときは是非もなく木槌で叩く国もあるらし

  日柄よく今朝は出で立つ自らはさして望まぬ裁きの場所へ

  公平を至上となして決すべし たとえば目には目を歯には歯を

  どん底が見える気がする壇という常よりもやや高きに坐せば

  理非曲直あれど最初の言い分は大上段にどちらも掲ぐ

  モニターは眼前にあり身も蓋もなきものこれが証拠と言われ

  とりあえず一度か二度は撥ねてみるこんな平たい俎板のうえ

  しかと刺すとどめの場所は揺るぎなき正論などで決めてはならぬ
  
             き め
  唇を曲げて言うとき肌理粗き皮膚につかのま兆せる戦意

  真偽にはよらず弾かる肉声は二重螺旋の無限の列に

  生まれつき以外はあらず非凡とはちがう福耳左利きなど

  捌かるる鶏のうなじに血脈の盛り上がる見ゆ 青天直下

  主観にてすばやく写す聴衆に混じれる白き絵師の右手が

  秋の日の暮れないうちに深々と皆でかぶせる罪なるものは

  選ばれしひとりとしては合理的ならざる疑義は挾まずにおく

  どの指も天与の丸みその気さえあれば害なき虫でもつぶす

  引き抜きし舌の報いか夜な夜なをひとつ声にて啼けるこおろぎ

  殺生は人の性なり白魚の躍り食いなど一部を除き

  両の手の自由なうちは降りかかる火の粉ぐらいは自分で払う

  隅という隅いくたびもつつきおり疑わしきをいかにかしたく

  決めるなら今だ。やさしい神様が誤ちはあとで教えてくれる

  勝ち負けは何にでもあり罰もまた楽し一夜の座興としては
  
       じん
  迂闊なる仁多かりしそのむかし狐狸の競える良夜もありき

  外光が塵かがやかす夕つ方窓ある部屋と今し気づきぬ

  人ひとり殺すと決めた今日よりは強く正しく生きてゆくのだ