「貝である」
『Esそらみみ』第19号(2010年5月)掲載
−「特集・中毒」参加作品−
ひとたびを殻より出でし身のほどは酢めしの上に載るためにある
本体が食われしのちも用済みの鎧にへばりつく貝柱
あたら とう
命なきものとしてある生牡蠣の鮮しければ丸ごと食ぶ
あた
安価なるネタとはいえぬ青柳は馬鹿のくせしてときどき中る
みそ汁の具となすためにまず砂を吐かす静かな湖畔の宿で
珍味なるながらみの身は信管を外す手つきに引き出ださるる
真っ先に捕らえてしまえ漁夫よりもどうせのろまなハマグリなどは
ニナ タニシ
敵味方の区別のみある戦地では蜷も田螺も泥ごと漁る
人前で焼かれたくなどなかったと恥ずかしそうにアワビは踊る
いくさ
戦狂いと呼ばれてもいい 大義ある限りどこまででも行くアサリ