「わたしが海であったころ」
『Es白い炎』第17号(2009年5月)掲載
−「特集・異種交配」参加作品−
あの朝にわたしが蝶であったならあなたの蜜を吸ったでしょうか
あゝ、春の終わりの思い出の
さみしい湖(うみ)の公園で
過ぎゆく時を嚙みしめて
わたしに似てるセロ弾きが
哀しみの歌奏でます
あの午後にわたしが雨であったならあなたは傘を捨てたでしょうか
あゝ、北の岬の思い出の
日ざしまぶしい棧橋で
夢のかけらを蹴散らして
あなたに似てる海鳥が
蒼い翼を広げます
あの夜にわたしが夜叉であったならふたり森へと飛べたでしょうか
あゝ、風吹く街の思い出の
閑古鳥啼くスナックで
空のグラスを置いたまま
ふたりに似てる酔いどれが
指と指とをからめます
とき よ
あの海にアンモナイトの生まれたる時世は知らず さかなも人も