「再生譜」
     『遊子』第16号(2009年11月)掲載



  夜々ひそと波の寄せくる翼なき者のみ残る半島の辺に
  
                                   みなも
  こぞりてぞ海に入りゆく鼠らのまなこしばらく浮かべる水面
   ひ                              そびら
  氷のごとく注ぐ月光いずこにやあらむ墓場の象の背に

  おおよその死は糧となり鳥たちはその目の黒いうちについばむ
  
     もと
  大空の下にてあれば隔てなく浮き名ひとつも持たぬ亡骸

  この世にて業をそそぐにふさわしく雪は降りおり真白き骨に

  木いっぽん立てる地表を粛々と影は長さを変えつつめぐる

  霊あまた召されゆく朝わたなかに神知らぬ青き魚類を残し

  水流のはたてに今もあるという生きた化石の泳げる海が

  地に立つを知らざる軽き蝙蝠は足もて上下逆さにとまる
  
                              みみず
  人絶えしのちの世紀のささめきは夕べ地中に蚯蚓の鳴くも

  うたかたの汐にたゆたう死に遠くまだ透明の皮膚もつ種族

  あたらしき地上の春に這い回るかたち妙なる幼生たちが

  おしなべて事の始めは密かにてオオルリシジミ火口湖を越ゆ
  
                         すえ
  源流にあふるる真水そのかみの草の裔なる種子芽吹くまで