「縄文舞台」
     『Es白い炎』第17号(2009年5月)掲載



   生まれつき魂持てる人形を夜ごと日ごとに吊してあそぶ

   背徳というには遠く求愛に始まりたぶん行為で終わる

   従順な犬ならざればさしあたり両の手首はうしろに束ね
                                  きれ
   言葉など要らない そんな仲になるまでの我慢と布を嚙ませつ

   飼育には欠かせないもの。餌、しつけ、鎖、お仕置き、一人用檻

   ねんごろに着せかけておく生身より先に引き裂くための薄衣

   敏感な部位より責める真偽とは関わりのない声を聞くため

   縛めるならば麻縄やわらかく白いところにとりわけ似合う

   少しずつ手なずけてゆく愛という名の鞭は八の力でふるい

   腕利きの縛師ならねどひしがれし胸の谷間に結い目を定む

   見上ぐれば十字の形 罪深き者は等しく空へと引かれ

   おのが身をしかと見ておけ 曇りなき鏡の中のこの恥知らず
                              せな  ほぞ
   地に足の着かぬが憾み 動かざる木馬の背が臍を突き上ぐ

   下向きの芯より放れ劣情は熱き雫となりてしたたる
               こご
   赤きまま落ちては凝る頻りなる蝋は冷たき人魚の肌に

   人手にて籠められしより身の内の無垢としてある繭玉ひとつ

   くすぐりを入るる手練が心にもあらぬ笑いをきりなく誘う

   ねちねちと塗る惚れぐすり皮下深く清き泉の湧き出づるまで

   言わざるをえなくしてからこの耳にだけは聞こえるように言わせる

   煩悩も恥をも雪ぐ 朝まだき楚々と降り敷くゆまりの雨に

   触感が大切なれば目隠しはすべて終えたるのちに外すも

   必ずややさしく解かむこの先も弱い小鳩でいてくれるよう

   生の証の朱を集めおりほどかれし縄の文目が五体に残り

   小さなる花咲き盛る総身にあまた靡ける産毛の穂先

   顔向けのできぬ気分を鼻ばかり目立つ天狗の面にて隠す
        つぼ
   鍵穴の窄みの奥に天国はあるか 地表をカナヘビ走る

   朝が来てまた主と従が入れ替わる長き歴史の続きのように

   シェルターより地上に至るドアがあり開くときには勝手に開く
                        くす
   荒野へと出でゆくふたり端なくも奇しき神の似姿となり

   虚空よりロープ垂りきて新たなる世界ここより始まらむとす