「正しい未来」 
   
『Es光の繭』第29号(2015年5月)掲載



 金メダルの余韻もさめて明日からはくちびるだけで歌う君が代

 
子供たちの未来のために教科書じゃ本当みたいな噓も教える

 禁止区域以外どこでも行っていい ええと一応自己責任で

 避けられぬ差別であればされるより先にするのがいちばんつよい

 守ってほしい。なーんて甘えるそぶりしてみんなあげちゃう 命も基地も

 馴らされてしまったあとはいそいそと飼い主にしかふらないしっぽ

 列島に原子炉あまた平時より雄々しくも海と空に向かえる

 卑怯な手ばかり繰り出す 弱者ゆえの大義あらざるはずなきテロル

 難しくて大事なことはエイヤッと後腐れなく二択で決める

 丁か半しか出ませんがよござんすかよござんすねと言うて振る壺

 未来志向まことよきかなさっぱりと自分の過去は水に流して

 誰にでも見せたりしないいつまでも良き民草でいてほしいから

 多数とは全部ではなく邪魔ものをぷちぷち指でつぶしたくなる

 後ろから支えてるのが気持ちいいいずれ尾として切られるまでは

 迷いなく仕留めるために欠かせないルールを先に決めとくだけだ

 勝つことは負かすこと 泣いて悔しがる敵あればこそ愉しゲームは

 自己犠牲はないほうがよくいつだって塀は内から外へと壊す

 もし死んでも間に合うようにとりあえず少し余分に揃えておくさ

 新しき朝へ踏み出す制服に一本一本包んだ足で

 人としての誇りとともに出でゆかむ人みなかつてさありしごとく

 それ決して滅私にあらず国のため国のためとぞ言い聞かせやる

 悪魔でも鬼でもなくて人の子のままの手だけが引ける引き金

 撃ち方は大切だから人間のかたちの的を撃って覚える

 好んでは殺さぬように 徴さるるものとしてのみあれ兵なるは

 差別なき世であるからは睦まじく征けよ日本男児も女児も

 負け戦とわかっていても死にに行くなんてさらりと比喩で言うなよ

 焼くために戻されてくる中身ある限りはどんな柩といえど

 弱虫のくせしてやつら正義は勝つなどとそろそろ言い出すころだ

 戦列は崩さず進め、退くな、平和の旗は前に掲げろ

 こうなればやるしかないね そのうちにきっとまた来る戦後のために