「万物の霊長」
       『Es間氷期』第16号(2008年11月)掲載
            
−「特集・もの」参加作品−



   科学者の目にのみ見ゆるものごとの根っこあたりにあそぶ素粒子

   心あらぬ雛の目鼻はほそぼそと描くべく指につまむ米粒

   あやふやな視界のかなた飲む前と同じ形に立てる酒瓶

   月ごとにめくりてみればたてよこに並ぶ数字でしかない暦

   戦あとに遺されしまま東へと陽射しをはじくごとき砲身
                                 
    いわお
   いつよりか楚々と地にあり燃え尽きることなくそこへ隕ちたる巌 

   宇宙にも稀なる大き環の中にその身ぷかりと浮かべる気球
           
 さか          ボイジャー
   家郷よりはるか離りて星間を往く航海者という名の機体
          
 ひぎょう                  すだま
   人界を夜ごと飛行す始まりは太古の森に生まれし霊 

   限りなく伸びゆく枝もあらなくに 命を産み継ぎゆかむ人はも