「杜撰な話」       上田秋成『雨月物語』より
      『Es廻風』第21号(2011年5月)掲載
         
−「特集・古典との遭遇」参加作品−



    余たまたま鼓腹の閑話あり。口を衝きて吐き出す。雉雊き竜戦ふ。みづから
    もつて杜撰となす。則ちこれを摘読する者も、もとより当に信と謂はざるべき
    なり。あに醜脣平鼻の報を求むべけんや。      「雨月物語序」より (注)



       巻之一 白峯
   ご せ
  後世にては魔王となりて呪はむぞ花の下にて死なざりければ

  永遠に生きながら死ぬ まだ尊師だった昔のつぐないとして

            菊花の約

  悪事とは縁なき直きもののふの死して千里を走らむとすも

  消されても消えないように「ではまた」で終わるメールでさよならを言う

       巻之二 浅茅が宿
         みたま
  七とせを御霊となりて待ちくれし汝に手児奈の悲話など捧ぐ

  悔しくないことはないけどよしとする別れさせ屋とおまえの恋も

            夢応の鯉魚
   にほ         なます        いまは
  鳰の海にいづれ鱠となるまでの今際の夢と知りつつ遊ぶ

  可愛くて憎いあの子は魔法でねエロい人魚にしてからいただく

       巻之三 仏法僧
                          ぶつぱん
  亡者らが付け句なすらし夜な夜なを仏法ゝゝ鳥啼く秘地に

  追悼歌会つつがなく果て歌一首作者不明のままにて残る

            吉備津の釜
                               もとどり
  はらされし怨みのしるし軒端より垂るる主なき髻ひとつ
     つら
  身も面も寄ってたかって刻まれるまでは終わりにできないジゴロ

       巻之四 蛇性の婬
                       あて
  化生にても事の始めは同じうて貴なる見目に焦がるる習ひ
     にく          によしやう  なり    け
  あな惡とひたに迫り来女性たる形もつ怪しきをろちの声が

  追っかけとはちょっと違うがアイドルの墜ちてく先まで歩こうクラブ

  愛の巣が壊れるたびに何かいるらしい気がする部屋に住んでる

       巻之五 青頭巾
   あ じや り
  阿闍梨にも愛恋あれば極まりて鬼たらむまでなきがら喰らふ

  結局は捨てるしかない 重荷だし食べちゃいたいほど好きでもないし

            貧福論
                    わうごん
  富めるものは卑賤ならずと黄金の精霊とふが夜来うそぶく

  目の前に落ちてたしょぼいばら銭がカネゴンの繭になることもある


         (注)「雨月物語序」(原典では漢文)の読み下し文は、大輪靖宏訳注『対訳古典シリーズ 雨月物語』
                (旺文社文庫、1988)によった。