「傾城異聞」
       『ことばの翼・ 詩歌句』 12月・2008年1月合併号掲載



  
生き身より引き剝がしたるヒモなども嚙みて今宵は麦酒が進む
         
かつぶし    ついしょう
  
小判より鰹節だなと追従は軽くいなさる猫なで声で

  
とりあえず交わす盃たよりない人と人との固めのために

  
懇親は後回しにて突き出しのあら煮をつつくひとりがひとつ

  
他人同士の戯れとして楽しまむ二人羽織の手の役回り

  
目にしるきことが肝要 気も急いておればたやすく集まる血判
               
ひず
  
それもみな歴史の歪み誤字脱字も爪の間に溜まるほこりも

  
昇天には遠きうつしみ点睛を欠きたるままの龍を背負える

  
今日一日の健康のためよく首を回せ 見上げる空はなくとも

  
鴻鵠の誇りもあらで鳩たちの捨てた希望を地べたに拾う

  
口ほどに目でものを言う群ありて神の投網は天より打たる
     
よ ごと
  
吉事には縁なき身にてちはやぶる喧嘩神輿は高みより観つ

  
丁半の二つに一つ決めかねて夜ごろ小手先のみに振る壺

  
馴らされてみるも一興じゃじゃ馬の胸に忽然と邪心は起こり

  
権力のきらいな王に気兼ねして城はたちまち傾きはじむ