「命脈」 
   
『現代短歌新聞』2016年3月号掲載


                  
 安らけく人住まうべきどの家にもあらむ曰くのひとつやふたつ

 一世代めぐる頃おい骨も身も持たざる霊として帰りたり
                    つの
 月夜見の露かと紛う廃市には角に眼のあるものばかりいて

 ででむしは夏の季語にてひっそりと変異ののちの夏を歩めり

 庭ごとにいよよ深けれ かの日より人触るるなき樹々の緑は