「加護なき神へ」
『詩と思想』2011年7月号掲載
−「特集・Evilの詩学」参加作品−
引きこもるほどでもないが世間とはズレた時間の澱みで生きる
厨房は一家にひとつ 食後には皿も刃物もまとめて洗う
汚点ひとつなき父だから自分には決して向けないホースの先を
ぬか
今生の最後とばかり容赦なく母が指にてはじくこの額
か
魚の香をふと匂わせるときどきは赤の他人とまぐわう姉が
何もかも真似したがったあのころのこと 弟の嗜みとして
どうせハモニカみたく吸われた唇でおにいちゃんとか言うな妹
見ていればわかったはずだ家族らが日々むつまじく散らす火花も
えにし
断ち切るべきものとしてある血の縁憎しみだけではなかったけれど
粛々とやり遂げるため、やる役の自分以外を先に寝かせる
神聖な儀式であればあらかじめ研ぎ澄まされねばならぬ切っ先
動機だけもう決まってる恨みではないとほんとは知ってはいても
や
餓鬼のくせに仏心にかこつけて犯りたくないなど言ってちゃだめだ
確実を期すならそことわかってたひとりにひとつずつの喉笛
誰からでもかまわないけど一撃で終わらす小さなやさしさとして
もう少し急所は強く突いてみるこれじゃあんまり控えめだもの
ろくでなしのおまえであればハートではなくて乳首や陰部を攻める
しそこねた罰としてならおのずからとどめを刺すということもある
つ
小玉球点いてるだけの明るさじゃさして赤くは見えぬ血の色
いらなくなったものはあとあと惜しくないように細かくばらして捨てる
人間て最終的に骨だけが残る固くて切れない骨が
怖くなんかないぞ今さら この顔を映すテレビが待たれてならぬ
(正邪理非曲直モナクヤルトキハタダヤルダケダドデカイコトハ)
罪深き夢の成就は端なくも天の災いありて絶たれき
憎しみはあったのだから神様より先にこの手で殺しておけば
食うためではなくて焼かれる彼らみな生き物とはもう呼べなくなって
よご
見苦しい生き残り方 うつつには汚せなかった手をもてあます
かばね
踏み越えてゆくよ鬼畜と言われても泥にまみれた屍のうえを