歌集 『アンドロイドK』 より自選35首

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   やさしいね どうせきみより先に死ぬ蝶をお空へ放したりして

   王様のきまぐれ、ではなく都合により美人コンテストは中止です

   始めからなかった 世界拒みたる少女の瞳に映らぬものは

   枯葉掃き集めおり今はもう寒き息しか吐かなくなりし火男

   かつて神童たりし科学者どこまでも交わらぬ線延ばしてゆけり

   イコン展行きそびれ心憧るる背くべき神います荒野に

   白き細き手より硬貨を恵みやるとき胸逸らし隠すロザリオ
                   
   ぬか           
   みどり児の定まりがたき首押さえ額にするどき聖水を点つ

   そっと瞼閉ざしてやりぬ人形師硝子細工の眼を磨き終え

   滅びの日の媾合のこと週末のラボにきちがい博士夢想す

   身も心も醜き者ら窓に来て僕たちも人間になりたいと言う

   人質を殺しえざりしこと悔いてピカレスク隠し読む未決囚

   身も凍る寒さ逃れて地下駅に夕刊紙広げいたる放火魔

   時を駆ける少女と知らず青年は来るべき明日の夢を語りき

   頭なでられながら心はうわの空 もうやめてイヌという差別語は
       
ひび
   憎悪さえ韻きとなして肉厚き十指に揉まれいたるピッコロ

   歩むものみな人にして人拒むための横顔誰もふたつ持つ

   出会うべくして出会いたる僕らゆえこんなにも作り笑いは弾け

   補欠とて生まれ来たればあの世まで梨のつぶてを拾いに走る

   ほかならぬ天使のきみは天使のまま人ひとりたやすく殺してみせる

   安バアにて爆発する今日いくたりの硬きもみあげ截りし理髪師

   聖誕祭前夜気高き魂がケチな悪魔に買い叩かれる

   年ごとに祓う煩悩まさりきて除夜の鐘新年にずれ込む

   おじさんは少女が好きでそこだけが少し大人の腿をまさぐる

   真面目少女真理に目覚む一介の絵描きたるエッシャーに騙され

   三の家来悟浄いささか弱ければ戦わなければならず法師も

   チャットルームに夢ものがたりくり返すきみは特攻隊員志願

   弱ケレバ誰デモヨカッタ 強くない僕がはじめてささえるために

   脚よわき踊り子だから僕のほか誰も愛さないから愛した

   無二なるといつしか決めて、その人をいつか裏切る前に殺した

   はじめてだったからいくたびもいくたびも生き返らないように殺した

   愛の結晶などと言われてあらかじめありふれた過去を持って生まれた
                            
     あお
   ぶくぶくと腹太らせて致死量に満たぬ美味なる毒を呷った

   いちばんいい時代もあったあの日々を忘れてしまおうとして、殺シタ

   バモイドオキ 僕だけのための神だから僕だけのために僕が名づけた


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