「もうひとつの双葉の物語」   ── テレビドラマ『それでも、生きてゆく』より
             
『Esクレプシドラ』第22号(2011年11月)掲載



  いつも一緒に見てた気がする 窓ごしの陽を、ほんものの闇の深さを

  くいこんだ指の湿りとぬくもりがこの喉首に今も残るの

  ひと袋の種だったのにこんなにも殖えて一面の弔い花が

  世界へと返すその日がやがて来る 兄よ、あなたが奪ったものを

  償って終わりにさせぬためにならどんな罪でも一度は赦す

  食卓をまた囲みたい ばらばらになるまえからの家族の顔で

  大切にする だいすきなひとだったから住む場所が違ったあとも

  生まれてきてよかったんだよ 悲しすぎるおはなしの中のあの子も犬も

  理解などできるわけない 手を下すその瞬間の祈りのこえは

  捨て猫の誰のせいでもない死さえひとり占めして泣いてたくせに

  わたしではついになかった犠牲者がただうつくしく浮かぶ湖

       *

  大事なもの失くした日から動かない時計ばかりを見つめていたの

  言わずにはいられなかった本当のこと そこからが始まりだから

  とりあえずここでしばらく見ていたい近づかなければ見えないものを

  告げたくて、でも告げられぬことばかりたまる小さな水槽の中

  恋なんかじゃてんで足りない絶望の大小までがふたり似すぎて

  引け目とは違うけれども自分からつなぐわけにはいかない手と手

  明日への窓かとみえて夏みかんひとつ机上に灯る夕暮れ

  デュエットは叶わないから自分には似合わぬ愛の歌など歌う

  もっと歩きたかった細道 ふたりしてですます調で語らいながら

  川はまた逆へと越える傷つけた側のひとりとして生きるため

  もう遅いような気がして伝言は聞かずに取っておくことにする

  捨てたくて捨てるのじゃない石ころは空のバケツを目がけて抛る

  ナポリタンとまた言ってみる本当はちょっと悲しい思い出だけど

  ふれあわぬ木馬同士でいつまでも同じ所をくるくる回る
       ひとひ
  吉凶は一日限りのものとして花の咲かない小枝に結ぶ

  少しでも光のほうにいてほしく土足でどんと押しやる背中

  結局はわからなかったそのことをわからないまま覚悟に変える

  どこにでも朝日の見える窓はある同じ時間を生きてくかぎり

  もう一度抱きしめてほしい過去よりも遠い未来の記憶の中で