「進化のふしぎ」
     『Esそらみみ』第19号(2010年5月)掲載



  一命は賭してこそ花 サクラしか咲かなくなりしまほろばのため

  誰だって迷うしかない他ならぬ猿と人との分かれ道では
                             も
  親譲りの生き方として昼日中目のみ水の面に出すアマガエル

  神様の差配おそろし手も足も出ないうちから尾のみで泳ぐ

  せせらぎに群れるメダカのすべてではないが流れに逆らい泳ぐ

  ミリ単位と聞けば意外と大きなるミジンコは目とくちばしを持つ
                うつ
  貝を食う貝もあるらし虚せ貝いつよりぞかく口を閉じいる
                               えい
  自らに欠かせぬ部位のひとつなるエイヒレを鱏はひろげて泳ぐ

  安息の場としてあらむ岩棚に蛸は手でなく足でつかまる

  軟弱が武器とばかりにへばりおり脆き殻のみ背負える蝸牛

  のたうちて地を這う類のいくつかはあるならむ 蛇、ミミズのほかに

  目も鼻も口も持たない木や草が天災だけは心底こわがる

  自覚なきままにてとまる一寸の虫は虫食うコケの葉先に

  新たなる歴史は興るしるべなき空中都市に蝶を放つ日

  あの空を飛べたらという夢ありて叶いぬヤゴでなくなる朝に

  海よりは先へ行けないあまつさえここが北限のサルと決められ

  目の色が人に似てくるいくたびもいくたびも足に蟻踏む象の

  犬らしく第一声を上げておく弱い獣の代表として

  エレベーターでしか昇れない高さよりこのごろ人は鳥を見下ろす

  正統にあらざる使者であることも恥じ入るなけむトキの真顔は

  文化とは思いもせぬが昔から臭いイルカは味噌にて煮込む
            よ
  遠からず次の代来る 神々の時計どおりに進化はすすみ

  夢乙女うつつの海に見しという古来稀なる人魚のオスを

  地上には生まれそこねし子らなどもまじりてかごめかごめで遊ぶ

  生きがたき時代たりにきしろたえの目玉おやじに妻ありしころ

  残すなら淡き宵闇あやかしも人も等しく暮らせるように

  架空世界というもまたよし負けそうで負けない正義のヒーローもいて

  首長き竜の歩める草原もありなむ遠き湖水の底に

  来む春に柳絮飛びゆくいにしえの爆心よりの風と競いて
            あ
  科学なき世に生れしより自らの意思で林檎は落ち続けたり