「正しき所業」 
    
『遊子』第28号(2021年12月)掲載



 読経のこえ響かう堂に年経りし死者のことなど忘れて祈る

 敵機なき夜々のつれづれうつつにも夢にもあらぬ羊を数う

 人ならぬものら潜めるどの闇も闇でなくなるまで焼き尽くす

 真実(まこと)
なる言葉の毒はひっそりと風の噂に薄めて流す

 降り積もる塵のつぶやき致死量にまだ遠ければ風評と呼ぶ

 傍観者たらざらむため禍いは見ぬふり(でなく)見ぬことにする

 平和とは永久(とわ)
なる絆切れ目なき輪と輪と輪と輪と輪でつなぎおく

 戦うは獣の性か知恵よりも技よりもまず力で競う

 同じくらいがんばったから 試合後のしばしの間(かん)
は敗者も讃う

 そのかみよりヒト属ありて巨きなる石はかならず円くならべる

 盛り上がる二つのこぶのどちらでもなくて間の低きにまたがる

 各々に塒なけれどはぐれ鳥あつめられてはどこへもゆかず

 明快なるルールに則しまっすぐに進みて敵の歩兵をはさむ

 逃げなかった虫や魚は生きたまま元いた場所に帰してあげる

 
戦なき世にぞあまねき無駄死にのひとつといえど永く忘れぬ