「清算上手」
     『Esコア』第20号(2010年12月)掲載



  夏ごとに見ゆる部位あり鮫肌と知りつつついになでやらざりし

  戦場であっても同じ まだ生きているものだけが順繰りにゆく

  バカヤローはひとりで叫べ往年のテレビの中の青春のごと
            も
  一生の不覚と思えば初恋の記憶も明日は消すことにする

  未来へと踏み出すためにあらかじめ出口の先で別れる手はず

  もう顔も見たくないから後ろからこれで終わりだみたいに見つめ

  帰るにはもう遅いけど移りゆく雲の影よりはみ出し歩く

  覚悟とか誇りの類言うときは嘘でいいから泣きながら言え

  あとになって気づくにしても手遅れは何にでもある人生のほか
                        ひ と ごと
  愛なども残りておればとりあえず他人事として書きとめておく

  面白い奴だ、ゲームの中なのに熱く戦う負けないために

  角あれば角突き合わす物なべて円き世界の闘牛場で

  言葉知らぬ獣の恋にあらざれば腹と腹とをそのたび重ね
                  か
  佳人ゆえの天命あれど描かれたる眉の形で少しは変わる

  本物とはこれのことかと死んでから誰の手にでもさわらせてやる

  それもまた悪くはないな 見下ろせば死に顔だけがこんなにきれい

  喩えにはあらず回れる走馬燈 いちいち中を覗いちゃダメだ

  無意味なる生などなくて日も夜もひるあんどんのままにて灯る

  冬枯れの樹下にぐるりを見て立てば老いぬものあるこの世にいくつ

  山ひとつまた越えてきし鳥たちのしきりにうたう異国の歌を

  恥部なるが人にはありてそこだけを布や木の葉でちょちょいと隠す

  品種ごとにふさう季に咲くさくらばな長期的には退化もまたある

  何にでも敵と味方の別があり見ればわかるさ帽子の色で

  邪魔しないための努力がまだ足りぬ小人の国のガリバーとして

  打算なき愛のドラマであったとは事実関係だけでは言えぬ

  キスだけなら犬とでもする運命の出会い二つとあるはずもなく

  夢ん中でときどき測るこの爪でつけた気がする傷の深さを

  責任は負わなくていい 朝起きて雨なら首をちょん切ればいい

  賽の目にまかせて進むぴったりでなくてもあがりとするルールにて

  棄てるしかなかった明日と引き替えに運を天から今日返される