「蝶と風」 
      
『遊子』第19号(2012年12月)掲載


  そこだけが揺れいる世界 おぼろなる蝶の翅より起こりし風に

  当人のつもりとしてはどちらかと言えばガよりもトンボに近い

  カと違い血には興味はないけれど甘い汁ならいくらでも吸う

  生きるために必要なればしかるべき場所にぐさっと刺さるストロー

  アオムシのときが断然可愛くてたまらんらしい人によっては

  平凡とばかにしたのが運の尽きモンシロチョウをそれきり見ない

  蝶の中の蝶なるアゲハ蜘蛛の巣にかかってからがなおさらきれい

  貴種なるは何にでもあるあかねさすアサギマダラやオオムラサキや

  蝶ですと言えない気持ちイチモンジセセリがいちばんよくわかってる

  手に着いてしまったあとは何となく毒のある気がしてくる鱗粉

  たかが蝶なれどやさしく傷つかぬように殺してからなら売れる

  罪なんて言わないけれど楽をしてサナギで採るのはやめにしておく

  昆虫で何が悪いの 気まぐれな羽ばたきひとつが歴史を変える

  やるときはやってみせると目指すのは韃靼海峡以外のどこか
                 ひと け
  異国より来たりし風か人気なき春いちまいの花弁を散らす