「人体戯画」 
      
『遊子』第20号(2013年11月)掲載


  夜、月の光に曝す海よりも青き鏡の中の主体を

  無心たれと念じておれば奇怪なり眉だけが上下左右に動く

  ビー玉とは優しき喩えふつふつといくつ瞳に人は過去もつ

  寝技師でありし昔を思い出す沸きたるままの耳のかたちに
         あした
  世の中の明日のことは見えそうで見えない鼻の尖で探るよ

  真顔なる頰白々と自らを撃つべく清き指誘いおり

  人ならぬ感にふふめりゆでたまご口径よりも大き一個を

  茫々と過ぎ来し月日おのが背にかかれる長き髪のうしろに
            さが
  うつむくは人の性にておのずから見えざる糸にあごを引き上ぐ

  腋窩より流れし汗のひとしずくやわき脾腹のほとりにて消ゆ

  おもんみれば最も硬き部位にして日ごろ匿されいたる足爪

  うつくしく直く姿勢を支えいる肘と膝なるほのかな丸み

  恥ずかしきことにてあれば恥部陰部秘所などと称ぶ 他人事ならず

  ロボットから人へと返るスイッチをみぞおち深く押し込む心地
                          かげ
  手のひらをそっとひらけば浮かびくる光あり浅き窪みのうえに