「花は咲く」 
    
『遊子』第27号(2020年12月)掲載



 花言葉は平和 ちいさき白きその花にて埋めむ永き戦後を

 慰霊などしきれぬまでに刻まれてあまたある名の数のみを言う

 軍神も神のうちとて挙りてぞ敗れしことは忘れて禱る

 須く同じことわりならざるに死したるはみな天を向く顔

 少しずつ記憶薄れてめぐりくる春の日 花は、花は咲けども

 めでたきは和して祝わむいつにても斉唱でしか歌わぬ歌で

 前へだけ風を作りて回りおり羽根のすきまの見えぬ速さで

 進物となりて届けりつやつやのL玉ばかりのみかんの箱が

 タピオカなるあやしき粒の沈みいる飲料ありて粒ごと呑み込む

 各自注文制といっても乾杯はほぼ絶対に全員でする

 焚書なき世の地下書庫のすみっこに火気あらば火はガスにて消さる

 異(い)なる芽は早めに摘まむ百年後を美(は)しき正しき庭となすため

 密林はほどよき暗さ伸びるほどに曲折多き枝も混じりて

 平和への祈りとともに終わりたるのちをすべてのデモは散りゆく

 おおかたは虹の旗にはなき色の鳥たち さればバラバラに飛べ