「端役ぐらし」
     『遊子』第17号(2010年11月)掲載



  しどけなき肢体を濡らす天井の木目から降る音なき雨が

  脱ぎ捨てしくさぐさのこと思うとき動くものありタンスの中に

  名優たる所以のひとつ 決めゼリフも夢の中ではたびたび忘る

  それだけの幅あるゆえに改札は人身大のままにて抜ける

  いっそきれいに水に流さむ力では止まらぬ蟻の行軍なども

  ペンギンはすぐ立ち止まる永遠に前にしかない未来に惑い
             ごうりき
  山ひとすじたりし強力下界では人生だけが重くて落とす

  追いすがる手の痕があるついさっき背から下ろしたばかりの荷にも

  捨てきれぬプライドありて戻り来し王はいつでも帽子から脱ぐ

  太刀捌きほんに巧みな剣士いて小手先だけでしばらく生きる

  いつまでも無心でいてはルビなしで読めるようにはならぬ心経
             レーゾンデートル
  それがすなわち存在意義 故さえも忘れしのちの恨みといえど

  言うときはことさらに言う飲む前のビールの上の泡の多寡など

  これもまた悪しき性分死ぬまでに一度ぐらいは治しておくか

  まんまるな地球のどこか 特定の誰かと誰かが始めに出会う