怠け心を剥ぐ

 
なまはげ小論
 

怠け心を剥ぐ

秋田の男鹿地方に「なまはげ」と呼ばれる奇妙な風習が残されている。「なまはげ」の語源は、仕事もせずに囲炉裏にあたってばかりいる怠け者の足のすねに火形が付くが、このことを方言で「なもみ」と言い「なもみを剥ぐ」、つまり人間の怠け心を剥ぐためにあると言い伝えられている。

その行事が、行われるのは、大晦日の31日。鬼の形相に身を固めた若者が、男鹿の各家に荒々しく、手には大きな出刃包丁を片手に、どやどやと入ってくる。「云うことを聞かない子はいねガー」「勉強すねーこはいねがー」「怠け嫁っこはいねがー」と大声を出す。すると小さな子は、親や爺さん婆さんにしっかりとすがって、恐怖の一瞬が過ぎるのを、ただ待つしかない。

子供たちを追い回し、散々わらクズを振りまいて、暴れ回った鬼たちも、家長になだめられると、酒などをごちそうになり、最後には餅をもらって、退散する。後に残ったワラはケラといって御利益があるとされる。

人間というものは、不思議なもので良い習慣とはなかなか身に付かないものだが、悪い習慣とは、たちまち身についてしまう。寒い地方で、火に当たっていると、外になど出ていきたくなるなる。コタツに入り、ミカンでも食べていると、とても吹雪の中を仕事になど、行きたくない気持ちになるのは自然なことだ。

しかしそんな怠け心がある家の家運は下がってしまう。怠け心を戒める目的を持って「なまはげ」は新年を迎えるその日に各家庭を訪れてくれるのである。その意味で、この場合の鬼とは、敵としての鬼ではなく、地元の守り神にして、新しい実りと幸をもたらす福の神なのである。

残念ながら、我々には「なまはげ」のような怖い存在はない。自分の心の中に、自分なりの「なまはげ」のイメージを持って、己の怠け心を、自力で剥ぎ取るしかない。

辰年の西暦2000年も10日が過ぎたが、その中で働いたのは、僅かに二日だけ、あとは全部休みである。これでいいのか日本人。佐藤
 

 


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2000.01.12