![]() ![]() (09年1月31日午後一時半佐藤撮影) はじめに千代田区長選挙は決着した。結果は、石川まさみ氏(67歳:自公推薦)の三選が決まった。 1 結果を冷厳に見る。 結果は以下の通りである。 ************************** <千代田区長選挙の投票結果> 候補者氏名 党派 21時55分確定 下田 武夫 無所属 7,251 石川 まさみ 無所属 9,254 合計 16,505 開票率(%) 100 有効投票数 16,505 無効投票数 240 投票総数 16,745 持ち帰り票数 0 不受理票数 0 投票者総数 16,745 ○当日有権者数(人) 男 女 計 今回(平成21年2月1日) 18.738 19.613 38.351 前回(平成17年2月6日) 16,837 18,616 35,453 ○投票者数と投票率 投票者数(人)投票率(%) 男 女 計 男 女 今回 前回 7,929 8,816 16,745 42.32 44.95 43.66 43.15 ※期日前投票・不在者投票は、最終(確定)に含まれます。 ○当日有権者数(人) 男 女 計 今回(平成21年2月1日) 18.738 19.613 38.351 前回(平成17年2月6日) 16,837 18,616 35,453 (以上はいずれも千代田区選挙管理委員会発表) ○今回(09年)の選挙と前回(05年)の比較 <09年> 下田武夫 7251票(43.95%) 石川まさみ 9254票(56.07%) 有効投票数 16505票 総投票数 16745票 期日前投票数 2721票 無効投票数 240票 投票率 43.66% <05年> 下田武夫 6071票(40.54%) 石川まさみ 8901票(59.44%) 有効投票数 14974票 総投票数 15299票 期日前投票数 2030票 無効投票数 327票 投票率 43.15% ************************** ![]() 2 ”山形からの風は千代田に吹かなかった?! 今回の区長選は、当初、当初3選をむかえる現職石川まさみ氏の楽勝と見られていた。しかし急きょ立候補を決めた区議会議員の下田武夫氏が、石川区政からの「チェンジ」を掲げて立ち上がったことで、事態が一変した。 朝日新聞は2日の東京都版で、争点ははっきりせず盛り上がりに欠けていたと、ばっさりこの選挙を切っているが、筆者は下田武夫候補の立候補により、現石川区政の8年のアカのようなものが、はっきりと浮きが上がってきたことは、大きな成果であり、意味があったと思う。 ただ投票率が前回と同じ43%台と低い状況では、やはり組織選挙を展開した現職候補が勝つべくして勝ったということかもしれない。その意味では、準備が足りなかったというマスコミ各社の指摘はその通りである。 折りから、1月25日、山形県知事選挙で、2期目の再選は固いと見られていた現職候補が、ギリギリのタイミングで立候補を決めた女性候補に、敗北を喫したこともあり、現職石川陣営、下田陣営ともに、もすかすると、という緊張感がでたことは確かだった。 下田陣営は「山形の風を千代田に、ばらまきや皇居周辺に高層ビルがどんどん建っていくような区政からのチェンジを」と勢いづいた。一方石川陣営は、「国政と区政は違う」と石川区政二期8年で「千代田はきれいになった」と訴えた。それでも前回の選挙での基礎票の差を覆して、下田候補が当選すためには、投票率という風が吹かなければはじめから難しかった。 千代田区は、元来保守地盤の地とされる。しかし現状では、麻生内閣の支持率の急低下や山形県知事選の逆風を受けて、石川陣営は、相当の危機感をもって、最後まで懸命な選挙戦を展開した。 今回の選挙結果を見る限り、自公ががっちりと手を組み、組合の「連合東京」が推薦に回った時の強さをまざまざと見せつけられた。 前回(05年9月)の衆議院選挙は、小泉政権下で「郵政解散」→「郵政選挙」と言われ、与党自公が、まさに地滑り的な勝利を収めた。特に東京では、小選挙区で当選したのは、菅直人現民主党代表代行ただ一人だったが、その強さが、けっして単なる小泉劇場の風だけでもたらされたものでないことが、今回の千代田区長選で証明されたと見る。もっと言えば、都市部の選挙において、以前として「自公選挙ネットワーク」は機能しているということである。 今回の選挙の優劣は、投票率が上がり、無党派と呼ばれる層が動くか動かないかに容易にかかっていた。世論がいかに麻生自公政権を支持しなくても、無党派という風が吹かない選挙においては、自公は予想以上に強いということである。 風を吹かない理由を、単純に戯画化すれば、かつてエンゲルスが「イギリスの労働者階級の状態」(1840年代父の工場で働き始めた若きエンゲルスが発表した古典)という市民社会の階級分析の論考の中にあるような気がしている。 その中で、エンゲルスは、こんな発言をした。「何故現在資本主義がもっとも進んでいるイギリスで革命が起きないか。それはイギリスの労働者階級が、資本のおこぼれを頂戴しているからだ」というものだ。批判を恐れずに言えば、千代田区民は、山形県民と比べ、総体的に豊かなのである。 また昨今の「地方の民主、都市の自民」の対立構造は、道路を中心とする公共事業が頭打ちになり、PFI事業に代表されるような新しいタイプの「大規模都市開発」に路線をシフトしていることと無関係ではないと思われる。 総体的に本当に貧しい地方である山形のような地で政権交代が起こるのは、やはりこのエンゲルスの言辞が背景にあるためではないだろうか。 またこれによって、本来の政治スタンスで言えば民主党を応援してきたはずの「連合東京」が、石川陣営の応援に回った利害の状況も説明できる。はっきり言えば、石川区政の手法が、区政の実務をこなす組合関係者にとっては、なにがしかのメリットがあったと考えられる。 もう一度、山形県知事選をふり返れば、現職は県議会全体のコストカットを1期4年の間に相当行ってきた。しかしそれは組合側にとっては、自己生活を脅かされることに他ならなかった。 少し長くなったが、千代田区という場所は、東京の顔であり、日本の顔である。市役所だって、国が「PFI事業」( (※注1))などを通じて、提供してくれる恵まれた場所であることは事実だ。恵まれた場所には、必ず利権が発生する。 今後は、大丸有地区で行われるエセ民活公共事業を、市民がチェックし、それが本当に必要な事業であり、そのデザインまで、それは周囲の景観とマッチするものであるかの評価を市民が行う仕組みが必要である。そのためにも、千代田区政が、景観行政団体になることは是非とも必要である。 ![]() 3 石川区政8年のアカ 千代田区長に三選された石川まさみ氏は、都のエリート役人であり、湾岸開発などを推し進めてきたらつ腕と言われている。二期8年の石川区政で実行されたことを、自身は、ものすごく過小評価している。「過小評価?」そうである過小評価で、区民のための政策を行ったことを彼は概ねこのように言っている。 「ポイ捨て条例などを定めて、千代田区をきれいにした。今後とも高齢者や生涯者、子育て支援、環境を重視し、日本橋川、神田川の浄化に務める。大地震に備える、商店街が地域の骨格となるまちづくり。」 ここでは、漠然とした政策へのロマンを語っている。この中では、石川まさみ氏は意図的に隠しているものがある。 それは一般に「皇居周辺の景観問題」と言われる「大丸有」(大手町・丸の内・有楽町)一帯で急激に進められている大型都市開発の推進のことである。 石川氏にとっては、シークレットなのである。どのようなカラクリがあるかとすれば、この大規模開発は、PFI事業という新しい民活型公共事業というべき手法で現在粛々と展開されている。 周知のように、現在、大手町(合同庁舎)地区で150m級の高層ビルが三棟建てられていて、もう直完成される運びにある。PFI事業は、前記事で明らかにしたように、民活とは、名ばかりで、民間企業が中心になって行われる新しいタイプの公共事業だ。 このPFI事業の本質は、地元住民の意見をショートカットして、計画から完成までのスケジュール短縮することにある。 もっと言えば、はじめからPFI事業には、地区住民の声を反映する機能は付いていない。むろし市民の声をスルーするためにある。 これは民主的手続きを無視した経済合理性最優先の考え方だ。 現に千代田区では、石川区政の2期8年の中で、旧大蔵省の現在の土地を利用し、清水建設の計画が入札で選ばれ「221億円」のファイナンスが民間銀行からついて、わずか3、4年で、完成したものである。 どのように考えても、皇居周辺の景観に似つかわしいデザインとは思えない。この建物の完成までのプロセスを洗っていくと、区議会には、この合同庁舎の計画に意見を言う機会はなかった。これでは、千代田区景観条例があっても、ザルそのものである。今でも都は、千代田区を景観行政団体としては認めていないが、その理由が、千代田区民が、反対派を組織し、デザインに口を挟むことを許さないために、故意に焦らしているとしか思われない。 以上、今回の千代田区長選挙を通じて、2期8年の石川区政の本質が明らかになった。したがって今回の千代田区長選について、争点がなく盛り上がらなかったという朝日新聞の総括は、一面当たっているようで、石川区政の8年間のアカに目を瞑るひとつの感想であり、評価に値しない。 4 千代田区長選の獲得票を読む 今回の千代田区長選挙の結果が、国政に影響を及ぼすかどうか、その可能性について考えてみよう。 その前提に、今回の両候補の票の分析を試みる。 今回の千代田区長選挙は、4年越しで同じ候補による対決だった。前回二人の投票は、ぞれぞれ、「石川候補:8901票」、「下田候補:6071票」で、その差は「2830票」だった。この時は、石川候補圧勝と言われた。 それが今回は、「石川候補:9254票」、「下田候補:7251票」で、その差は「2003票」に差が縮んだ。 まず今回の石川候補の票を筆者流で大雑把に分解すれば、自民党の基礎票(約6500)+公明党の基礎票(約1500)+石川候補応援の民主党候補票・連合東京の基礎票(約500)+その他の票(754)と推定される。 一方下田候補の票は、民主党の基礎票・中間派の基礎票(約4000)+共産党の基礎票(約2000)+市民運動の基礎票(潜在的期待票)(約800)+その他の票(451)と推定される。 今回の千代田区長選で、見逃されがちなのが、民主党推薦の下田候補に、共産党が支持にまわったことだ。 ちなみに、今年の総選挙で、共産党は、全地域に立候補者を擁立していた方針を変更し、民主党と選挙協力する地区もあるという。この共産党の方針変更は、国政を考えた時、民主党にとっては政権交代への追い風、自民党にとっては大きな打撃だ。 この四年間で、千代田区の人口は増えていて、有権者の数も、「35,453→38.351」と2,898名増加している。およそ3千人だ。最近、都心にマンションなどを購入する都心回帰現象が起こっているというが、千代田区でも、その傾向はあるようだ。 普段、民主党候補ないしは推薦候補を応援する「連合東京」が、自民党を応援したという姿は、下田候補にしてみれば、イメージダウンだ。ただ得票数から見て、「連合東京」が、石川候補の応援に回ったことで、それほど票を増加させたという見方は意外なほど見えて来ない。 むしろ、投票率が前回とほとんど同じ43%台なのに、得票差が2003票まで縮んだことは、若干だが、両陣営の基礎票に変化の兆しが出たということになる。その理由は、自民支持層の中にも、個人的に石川区長離れを起こしている層が出て来ているためか、それとも異動してきた新区民が今回下田候補支持に回ったためか、結論を出すまでには至っていない。 今回の選挙結果から、今の時点で、はっきり言えることは、千代田区の場合、何らかの風が吹かない状況では、自民党系候補が、やはり強いということである。 ![]() 5 過去の与謝野VS海江田対決を見る 以上の千代田選挙結果の認識を踏まえて、今年行われる予定の第45回衆議院選挙小選挙区東京第一区の選挙に、どのような影響を及ぼすかについて考えてみる。 東京第一区は、千代田区・新宿区・港区のエリアが含まれている自公・民主がっぷり四つの激戦区地区だ。 過去三度の選挙では、いずれも自民党与謝野馨氏と海江田万里氏が激突している。その結果は下のようである。 ○前回の44回(05年度) 当 149,894 与謝野馨 自由民主党 101,396 海江田万里 民主党 21,794 堀江泰信 日本共産党 この時の総選挙は、小泉首相が「郵政解散」をして、無党派層が自民党に票を入れ、自民党が全国的に地滑り的な勝利を飾ったものだった。したがって、この4万8千票の差は、かなり加算された数字と見てよい。風は自民党に吹いたのである。投票率は、小選挙区全体で67.51%と高かった。全体としては、自民党が296議席(237議席から)、民主党は113議席(177議席から)へ。特に東京25区では、自民23勝、公明1勝。民主党1勝(菅直人氏)という惨敗だった。岡田克也民主党代表は、選挙結果の責任をとって直ちに辞任。前原誠司氏が代表となる。 ○前々回の43回(03年度) 当 105,222 海江田万里 民主党 103,785 与謝野馨 自由民主党 当(比例) 20,640 佐藤文則 日本共産党 この選挙も第1次小泉政権の下で行われた選挙だった。全体としては、風は、民主党に吹いていて、自民党が議席増減でー10で「237議席」に対し、民主党は+40議席で「177議席まで迫った。東京25区で見れば、自民と民主は、「12席」対「12席」で引き分けた。全体で投票率は、小選挙区で59.86%。とくに東京では、どちらにも風は吹かなかったとみる。 ○前々々回の42回(00年度) 当 93,173 海江田万里 民主党 90,540 与謝野馨 自由民主党 36,525 大塚淳子 日本共産党 この時は、森内閣の時の選挙で、民主党と自由党が合併する前だった。 この三度をみても、直近の第44回総選挙の結果は、小泉旋風が吹き荒れたためと見てよい。現在、千代田区長選挙において、自民党、民主党、どちらにも風が吹かない状況がはっきりしている現況では、前々回(03年度)、前々々回(00年)同様の接戦状況が続いていると考えられる。 ![]() 6 最新の当落予測を読む 次ぎに、週刊朝日(09年1月23日号)の最新の「衆院300選挙区完全当落予測」を参考に見る。評者の森田実氏(政治評論家)と野上忠興氏(政治ジャーナリスト)は、東京第一区を、森田氏(与謝野▲、海江田△)、野上氏(与謝野△、海江田▲)と評価している。 評点は、評価の見方は、◎(有利)、○(やや有利)、△(当落上)、▲(追い上げれば当選可能)の順であるから、与謝野VS海江田の争いは「どっちが当選してもおかしくない」、「引き分け」という結果である。概ね筆者もこの考え方に賛成だ。 最後に余談になるが、東京25区の票取りについて、両氏の見方で言うと、自民党12議席、民主党10議席、公明党1議席、引き分け(2:このうちの一つは東京一区である)である。筆者は、1議席ないし2議席、自民党に流れる可能性があると考えているが、ほぼ東京全体の予想値も現実とそう遠い数字ではないと思っている。 <結論> 今回の千代田区長選挙で、自民党は「やはり都市部でわが党は強いぞ」と、幾分自信を取り戻したかもしれない。自民党は、かつての地方を地盤とする政党から、都会型の政党になっていることは確かだ。しかし、今回の千代田区長選挙が、その結果を見る限りにおいて、間もなくやってくる総選挙での与謝野、海江田の激突に影響をもたらすかどうかについて、その影響はほとんどない、と筆者はみる。その根拠として、各メディアの世論調査を見る限り、日増しに「政権交代」を求めるの風が吹いて来ていることを強く感じるからである。(佐藤弘弥記) |