形成外科・美容外科について


目次

はじめに
 皆さんは、形成外科とはどのような治療をする科であるか御存じでしょうか?
 たいていの病院には整形外科という科があり、読みが似ているのでよく間違われるのですが、形成外科と整形外科とは全くと言っていいほど治療内容が異なります。整形外科は骨や関節の障害(骨折や痛みなど)を主に治療するのに対し、形成外科は主に身体の表面の奇形、腫瘍や傷跡などの目立つ障害をより目立たないように治療する、すなわち整容的な治療を行う科です。整容的な治療と言うと難しく聞こえますが、分かりやすく言うと、身体の表面の何らかの目立つ障害を手術治療を用いて、より美しく、目立たなくすると言うことです。
 形成外科が治療の対象とする身体の部位は、頭のてっぺんから足のつま先まで、すなわち全身です。また、治療の対象となる障害は後で述べますが、非常に多くのものがあります。ほとんどが病気やケガの患者さんですが、健康な人を対象とするのも形成外科の特徴です。ほくろを取りたい、二重まぶたにしたい、鼻を高くしたいなどという、いわゆる美容外科の手術も形成外科の一分野です。
 形成外科が治療の対象とするものは、@外傷、A奇形、B腫瘍、C美容 の4種に大別できます。これらについて、簡単に説明しましょう。


@外傷
 外傷とはケガのことですが、熱傷(やけど)もこれにあたります。さらに、新鮮外傷と陳旧性外傷(外傷が治った後に生じた変形のことです)に分けられます。新鮮外傷には、切り傷、擦り傷などがありますが、切り傷は縫合処置をした方が早くきれいに治ります。形成外科では非常に細い糸を用いて傷を丁寧にできるだけ細かく縫います(1pの傷でも5針くらい縫います)。また、抜糸も早めにします。これらは、傷跡をできるだけ目立たないようにするための配慮です。やけどは、浅いものでは手術をしなくても治りますが、深いやけどは植皮手術をしなければ治りません。
 先に、骨折は整形外科が治療すると書きましたが、骨折の中でも顔の骨の骨折(顔面骨骨折)は形成外科が担当します。顔面骨骨折には、鼻の骨、顎の骨、頬骨などの骨折がありますが、いずれも治療せずに放置してしまうと、歯がうまく咬めないといった機能障害や、顔の形が変わってしまうなどの美容的な障害をのこしてしまいます。 陳旧性外傷には、外傷が治った後の瘢痕(傷跡)と変形があります。目立つ傷跡は形成外科的に手術を行い、傷をもう一度きれいに切り直して、細い糸で丁寧に縫合するとかなり目立たなくなります。
 深いやけどの後で、ひきつれ(瘢痕拘縮)が生じ、関節の動きが制限されてしまうといった時には、その部分に植皮手術を行い、皮膚に余裕をもたせなければなりません。顔面骨骨折で顔の形が変わってしまった場合には、骨を手術で切り直して治します。外傷により手の指を切断してしまい、指が短くなってしまった、あるいは指がなくなってしまった時には、足の趾を手に移植して指を再建します。


A奇形
 奇形とは生まれつきの形の異常ですが、これは全身どこにでも生じる可能性があります。形成外科が治療の対象とするのは主に、体表の奇形ですが、手や足の奇形や兎唇(唇裂)などが最も多くみられます。
 手足の奇形では多指症や合指症(指と指が離れていない奇形)が多く、通常1歳前後に手術を行います。
 唇裂・口蓋裂はおよそ500人に1人という比較的頻度の高い奇形です。この奇形では、口唇が割れているという外面的な障害だけではなく、言葉の発音や歯ならびなどの障害も起こる可能性が高いため、形成外科だけではなく、耳鼻科や歯科との連携の下で治療に当たらなくてはなりません。また、顔の形は思春期まで変化してゆくので、これらの治療は生まれてから15年から20年続けねばなりません。この様に形成外科の奇形の治療は、一人の患者を長期間にわたって定期的に診て行かなければなりません。
 その他の奇形としては、耳の奇形や、頭や顔の骨の奇形などがあります。顔の骨の奇形では、眼球突出をきたすクルーゾン病、眼と眼の間が離れる眼窩離開症、顔の形が左右非対称となる斜頭症などがあります。以前はこの様な顔や頭の奇形を治療することは不可能でしたが、15年ほど前に、頭蓋顎顔面骨切り術という新しい手術法が開発され、この分野の治療はかなり進歩しました。これは手術で頭や顔の骨を切って、正常な位置に動かし、そこで新たに固定し直すというものです。簡単にいえば、手術で顔の形を変えてしまうということです。


B腫瘍
 形成外科が扱う腫瘍は主に皮膚の腫瘍です。腫瘍には良性のものと悪性のもの(癌)とがありますが、ほとんどは良性の腫瘍です。腫瘍は手術をしないと治りませんし、それどころかだんだん大きくなりますので、早いうちに手術を受けないと手術がおおごとになりますし、手術の傷も大きくなってしまいます。小さい腫瘍はそのまま切りとれますが、大きくなると植皮手術が必要となります。中年以上の方で、非常に治りにくい皮膚潰瘍があるばあいには、皮膚癌の可能性もあるので、できるだけ早く形成外科あるいは皮膚科で診察を受ける必要があります。


C美容
 わが国では、重瞼(二重まぶた)術と隆鼻術が最もポピュラーですが、そのほかに豊胸術、顔のしわとりや腹部の脂肪とりなどの手術があります。また、ほくろをとりたい、わきがを治したいなども美容外科手術の分野といえるでしょう。さらに、傷跡をきれいにする、アザをとる、肌の色を白くすることなどもこの分野です。
 先に述べましたが、最近、顔の骨を切って移動するという技術が進歩したため、顔の形を変えることもできるようになりました。この手術の良い適応としては、下顎の発育のしすぎによる下顎前突や歯の噛み合わせの異常(反対咬合)などがあげられます。この様な異常があると、顔の印象(特に側貌)に不自然さが目立ちます。これを改善させるために、骨切りを行って上顎骨あるいは下顎骨を移動させるのです。


おわりに
 以上述べてきましたように、形成外科の手術には非常に多くの種類があります。しかし、形成外科の歴史は比較的新しく、日本では約40年前に初めて独立しました。それまでは外科や整形外科で同じような手術が行われていたのですが、物質文明が進歩し人々が豊かになると、ただ単に奇形や傷を治すのではなく、より美しく治したいという欲求が高まり、形成外科がその専門の科として独立したのです。最近、医学診療において ”生活の質(quality of life )” という言葉が注目されていますが、形成外科はまさにこの ”生活の質” を向上させることを目的とする科であると言えるでしょう。



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