野間道場・道場訓

1.正心

凡そ剣道に志すものはその心を正しくし、苟も技巧に慢心し、私心を挟みて、浮華軽佻に流るる如きことあるべからず。私心を去り小我を捨て正道をこれ道として勇往邁進する心ありて、剣道の達成は初めてこれを望むべきなり。古人曰く「心正しければ劔又正し」と、又曰く「兵は正を教へて奇を教へず」と。即ち心本にして技は末なりの意なり。肝銘すべきことなり。

2.信義礼譲

礼紀に曰く「夫れ人に礼あれば安く、礼なければ危うし」と。惟ふに礼の大本は人に敬するに存す。然れば各自敬虔の心を以て師長を敬するは固より、相互に礼儀を重じ、敬して離れず、親しみて押れざるれざるは士の道なり。交るに信義を重じ、相互に指導啓発し、公明正大を旨として、苟も人を誹謗するが如きことあるべからず。

3.心身一致

剣道は決して技芸技巧を目的とするにあらざれば、苟も一時の勝負に快を貪り技巧に拘泥して武芸の末葉に走るが如きことあるべからず。剣道の要訣は体を練り心を磨き、進んで剣なく人なく敵なく、我亡き心身一致の妙境を悟道するに存す。若しそれ、かかる妙境を悟道して、心静かに体胖に正道を勇往邁進するか、手足は自由に動きて、臨機応変虚実の妙技茲に現れ、初めて剣道の極意を体得するを得べし。深く心すべきなり。

4.平素の心

凡そ剣道に志す者は、道場にあると否とを問わず、平素油断なく精神の練磨修養を計り、その目的を貫通せんことを期すべし。又自ら工夫することは肝要なりと雖も、即断して、我流に執着するは剣道の最も忌む所なれば、苟も疑わしき処あれば、何時も躊躇せず、直ちに師長に就いて教へを受け、之を了得するよう心懸けざるべからず。

5.真剣の心

近来剣道を学ぶ者の中、動もすれば、戯れてこれに従い、技巧の末にのみ拘泥して、軽佻浮薄に傾くものなきにしもあらず。斯の如きは武術を弄び、剣道を毒し、又決して自ら上達し得るの道にあらざれば、厳にこれを戒めざるべからず。凡そ事に処して真剣なるよる尊きはなし。又物に上達悟道するは、真剣真面目を以て第一義となす。然れば常に一意専心、実戦に臨む覚悟を以て、剣道の要訣を体得し、百折不撓練磨の功を積み、以てその目的を達成するの心なかるべからず。



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