Pale Blue Eyes


この一見シンプルなラブ・ソング… でもいざ翻訳してみようと思ってみると難しい。 曲が書かれた時期を考えてみよう。 この曲が収められた III はそれ以前の I & II に比べて非常に静的な印象が強い。 当然 John Cale の脱退、そして Doug Yule の参加による結果だが、スタジオでしか演奏されなかった曲(The Murder Mystery, After Hours 等) の存在が今ひとつの側面をあらわしているようにも思える。 つまりパフォーマンスから曲への回帰である。
Moe はこの時期の Lou の Doug への過剰評価に対して、醒めた視点から「Doug はすばらしいけど、すごいって程じゃない」とコメントしている。 思うに Moe が感じた違和感は Lou Reed の John Cale に対する錯綜した劣等感への反発だろう。 実際 Doug Yule は次作の Loaded 程に自分の音楽性をここに注ぎ込んでいるとは思えない。 しかし Lou Reed にとっては、逆にそれが自身の世界を忠実に再現することに幸いしている。 ジャケットで白けたメンバーの中ひとり雑誌を手にうれしそうに笑いかけているのは象徴的だ。 Lou Reed はこの時期 John Cale の影響からの意図的な脱却と、自身の作曲家としてのベースの再確認を模索している時期だったのではないだろうか。
そしてこのシンプルなラブ・ソング… でも単なる失恋の歌と捉えてもいいのだろうか? まずは訳してみよう。
ここで語られている彼女とはどんな女性だったのだろうか?下記は PEEL SLOWLY AND SEE のライナーノーツに発見した Pale Blue Eyes についての短いコメントである。
"Pale Blue Eyes" is arguably Lou Reed's greatest ballad. He wrote it about a woman who, he confessed in Between Thought and Expression, in fact had hazel eyes. "Pale Blue Eyes" はたぶん Lou Reed の最高のバラードである。彼が『Between Thought and Expression』という本で明かしているように、実際は薄茶色のひとみの女性について書かれた歌だ。
あいにく 『Between Thought and Expression』って本は読んだことがないので想像するしかないが、或る時期 Lou Reed が恋した実在の女性であることは間違いなさそうだ。 また UPTIGHT さんから 「いなくなって本当に寂しい思いをした人のためにこれを書いた。彼女の目はハシバミ色だった/L.Reed」、「Louの大学時代の彼女のことを歌った歌だ/S.Morrison」 というメンバーのコメントを教えていただいた。
ひとつだけ Linger on... という繰り返されるフレーズについて弁明しておくと、本来は「ぶらぶらしている」という意味になる。 それを『君の蒼い瞳に魅せられながら…』と訳したのはわたしの完全な意訳である。

by seven 19,Feb'00


さてこの曲で一番わたしが迷っている "Skip a life completly... " からはじまる節について、特に "She said money is like us in time. It lies but can't stand up" の部分で morgue さんから It lies の lies はlie と stand up の組み合わせから『うそ』の lie ではなく、『横たわる』の lie ではないかとの指摘をいただいた。
最初はどうもピンとこなかったのだが、良く考えてみると紙幣は通常寝かせて置くのだから、その意味ともとれる。 でも『お金は時にはわたし達みたい』なのだから、it lies の it は『お金』でも『わたし達』でも意味が通じなくてはいけないハズだ。「わたし達は寝てばっかりで、立ちあがれない」???  
こんな時には詳しそうなヒトのいるMLに投稿して聞いてみるのが一番はやい。早速 droneon ML に(native speaker には多分)たわいない質問をしてみた。以下は Jim Flannery 氏からいただいた返答である。  
> this "lie" means "tell a lie" or "lay" ?

Um, both, unfortunately ;-) ... the pun is important. It's in this pairing with "can't stand up" where both have double meanings:
It lies but can't stand up
lies down can't get to one's feet
tells a lie can't maintain (the lie)


The tension in "what goes with what" is based on the difference between
"money" and "us" -- money tells a lie; we lie down; money can't maintain
the lie; we can't stand up; but also, we can't maintain the lie.

Really, the pun is for comic effect -- when we hear

... money is like us in time
It lies

we hear it as "tells a lie", since that's the only meaning that makes
sense for "money" ... but "can't stand up" twists the meaning humorously
(while making the meaning all "us", since there's no *literal* meaning
to "can't stand up" for "money" -- & it's a bittersweet humor since
there's a hint of death to it, esp. given the "in time") ... but to make
the analogy work we need to find a meaning for "can't stand up" that
*does* work for "money", & when we do, that works for "us" too & that
adds a note of bitterness (or sadness) to the humor ...

My reading, anyway :-) ...
> この "lie" は 『嘘』または『横になる』を意味するのでしょうか?

ウム、どちらもですね、あいにくだけど ;-)...
この語路合せは重要です。 "can't stand up" との組み合わせには両方に二重の意味があります。

It lies but can't stand up
lies down can't get to one's feet
tells a lie can't maintain (the lie)


"what goes with what"という点における緊張は『お金』と『わたし達』の違いに基づいています。-- お金は嘘をつく; わたし達は横たわる; お金は嘘を続けれない;わたし達は立ちあがれない; しかし同様にわたし達は嘘を続けれない。

実際、語路合せはおかしな効果があります。-- わたし達が聞くとき

... money is like us in time
It lies

わたし達は(この lie を)『嘘をつく』と聞きます、なぜならばそれが『お金』という言葉から受ける唯一感じることのできる意味だからです。しかし "can't stand up" はおもしろく意味をねじまげてくれます(すべてを『わたし達』の意味とうけとっているあいだは-- なぜなら『お金』に対する字義どおりの意味は "can't stand up" にはないのですから-- そしてそれはちょっとほろ苦いユーモアです。なぜならそこには死へのヒントがあるのですから-- 例えば『時には』という一節で与えられるような)
... しかしわたし達は "can't stand up" が『お金』についても意味をなす類似点を見つける必要があるのですが 、そしてわたし達は探していると同時に、それは『わたし達』についても同様に意味をなさなくてはいけなく、そしてそれはユーモアへの苦くて甘い(または悲しい)調子をあたえます。

どちらにしろわたしの読み方ではありますが ;-)...
 

by seven 20,Feb'00