2000年8月28日、高円寺は阿波踊り・・・でもわたしは・・・UPTIGHT


マズイ、財布を取り出してみると二千円しかありゃしない!・・・でも、そういえば最近はキャッシュディスペンサーって結構夜遅くまでやってたっけ・・・そんなつまんない事心配しながら仕事場を7時前には出て、近くの銀行窓口に駆け込むと・・・セーフ、これでなんとかなりそうだ・・・さて今夜は高円寺の SHOWBOAT まで UPTIGHT を見に行くんだっけ・・・

中央線のホームに降り立った瞬間、左から右へけたたましいチンチンって音が空間をよぎっていく・・・おや?高円寺の阿波踊りってこんな時期だっけ?そういえば一度も遭遇したことがないや・・・ 案の定、改札口付近から人だかり、駅前からヒトに押されて出てみると・・・しまった、逆の出口じゃない・・・元に戻るのも大変そうで、なんとか人波の途絶えてるあたりを掻き分けながら・・・見るといなせな浴衣姿のお兄さん、その後をついていくとなんとか SHOWBOAT への横丁にたどり着く・・・「 ウチのビールはこの通りで一番大きいよ」、「向うのビールは200円だったのに」 よせよ、こんな人ごみの中を自転車に乗るなんて・・・「ウチのビールは100円+αなんだよ」・・・ 飲み屋街の全部の飲み屋が通りに屋台を出しながら・・・どこぞの馬鹿がそんな通りに車を乗り入れようとしてて・・・屋台のおばさんそれ見て 「間違っても通りぬけられないよ」・・・そうだよ今夜はお祭りの夜なんだから・・・

SHOWBOAT の一画はそんなお祭り気分とは別世界の様子・・・階段を降りていくと、女性客がひとり入り口で今料金を支払っているところ・・・中からスゴくガレージな音が響いてる・・・後ろに並んで「UPTIGHT を聞きに来たんですけど・・・多分 seven って名前で・・・」、「え?・・・あ、これですね」、「今どのバンドですか?」、「2バンド目ですから、次ですよ」・・・ 中に入ると客は未だ20人ちょっとってところだろうか? 演奏してるバンドはヤケにテンポの速いガレージ系、でもこういうの好きだな・・・ カウンターでウィスキーを手に入れるとステージ前がポッカリ空いたフロア−の少し後ろ目に立って・・・ 曲が終わると少しのシャベリ、「・・・ブルース・・・」 客から「え!ブルース・バンドなの」なんて声がもれる。 そうだねブルースっていえば shadows of knights だってそういえるかもしれない・・・ そう思ってると I'm a man なんてやりだした。いや、ボーカルはナニいってんだか・・・でも曲は多分 I'm a man に違いない・・・ よく見るとベースレスのギター2本+ドラム+KB+ヴォーカル、そうかうすっぺらい音にはベースは必要ないよね・・・これもありかもしれない・・・ でもナニがやりたいのかわからないままに最後の曲が終わっちまった・・・これはちょっと減点だよ・・・

休憩時間に再度カウンターで、今度はウィスキーのダブルを手に入れて・・・スピーカーからは SUICIDE が流れてる・・・この街で聞く SUICIDE って何故かポジティブな感じ・・・ 客も少し増えて、でも結構空いてるから、後ろからイスを取り出して座ってたら・・・「すいません今日はイスは遠慮してください」って店員・・・なに、これからそんなに混んでくるワケ?・・・なんだかライブ・ハウスも居心地が悪くなってるね・・・ 丁度空いてた壁際に移動して、座り込むとグラスをテーブルに・・・ まもなく UPTIGHT の始まり・・・

出だしから思わずドキッ・・・ 重いベースとドラムの模様の上にギターが滑り出す・・・ リズム隊は驚く程に沈んでる・・・ ベースは持続音を充分に効かせて・・・ドラムはタムの低音域をうまくその中に埋め込んで・・・ギターはその曲線上に音をなだめながら・・・ 思わず立ちあがって聞き出した瞬間・・・「闇の」・・・ウッ何か聞き覚えのある声・・・そうこれ水谷氏の唄いかただよ・・・いや決め付けるのは未だ早い・・・大体ラリーズなんて思い出しちゃうこっちが悪いんだから・・・見ると UPTIGHT 氏はギターを弾きながら軽く飛び跳ねている・・・あるときは音にうごめきながら・・・あるときは音を蹴散らそうと・・・あ、いけないストラップが取れちゃった・・・いや余計なお世話、ギターを取りかえたかったダケなんだね・・・ あるパターンの繰り返しの上に絵を描くとき、実は一番大事なのはその繰り返しのパターンの美しさだ・・・ 今夜の UPTIGHT はこれが最高にいかしてる・・・ もしこれ以上を求めるならきっとそれを上から覆い尽くすフリーキーな音のベールだろうか・・・いけないまたラリーズを思い出している・・・

実は昨夜なんとかじゃがたらの本を読み終えたばかりで・・・その中の『身体のビート』って事を考えながら・・・でも実はじゃがたらも『身体がシンクロナイズ出来るビート』で実は『こころが問題』なんだってナゼか自分で納得してたりして・・・例えばラリーズは(また出ちゃった)全員がつったったママだったけど、すごく強烈なビートをかもしだしていたし・・・灰野君が一番いい時代はそれに身体を泳がせていた・・・ビート、ビート・・・そう UPTIGHT の音にもそんなビートが見える・・・『存在の限りない軽さ』・・・その動きはナニかを模索しているのだけれども・・・そのナニかは人間の飛翔時間の内には実現しえない・・・為し得たのはニジンスキーだけ?・・・こころは身体を乗り越えるベキなのだろうか?それとも捨て去るベキ?・・・ そんなタワイもない考えの軌跡をわたしの頭に残しながら・・・しかし曲はあと少しの飛翔の幻影をちらつかせ・・・ 最後の曲は I'm waiting for the man の様なブンブンとうなるビートの上にはじけ出す・・・最高だよ・・・一拍の上に重さがかさねられる時、それはテンポの問題じゃなくってスピード感の問題だ・・・ この音が永遠に続けばいいのに・・・

ステージが終わって見渡すと客も倍くらいには増えてて・・・カウンターで再度ウィスキーを頼むと、さっきのことを覚えてたのか店員の彼女『ダブルですか?』・・・いえいえ、次はシングルでお願いしますよ・・・楽屋の出口あたりでまっているとなんとか UPTIGHT 氏と会うことが出来た・・・ もう次のバンドが始まってて(いやこれは勘弁・・・せめて私的には彼らに IGGY POP はやって欲しくない)あまりお話しも出来ないまま・・・ しばらくして我慢が出来なくなって店を出ようとすると再度 UPTIGHT 氏に遭遇・・・ これがとてもシャイなヒトなんだな・・・ でもわたしもそんなタイプなので、なんとなくわかる気分・・・ 早々に握手をしてひきあげながら・・・あ!言い忘れてた「デモ、今日は本当におもしろかったよ!」・・・

高円寺は未だ阿波踊りの騒然さの中だった・・・ 中央線の駅に向かいながら・・・ アケミの言葉を思い出しながら・・・「もっとゆっくりと急げ」・・・ でも『デモ』は余計だったよな・・・などと後悔しながら・・・

by seven 28,Aug'00