DIP 11May2000 at Shibuya Yaneura


ビートが一瞬輝きを帯びる時を感じことがあるだろうか? ロック・バンドという形態はすでに太古のティラノザウルスのごときものかもしれない。でもそれがキバを剥くことは起こり得る。

天気予報では雨がふるというので、バッグの中に雨傘をしのばせながら・・・つい二日前に自分もライブをやった渋谷屋根裏へと向かう。7時スタートという事で、どうせ少し押して始まるとは思いつつ、ジャストに店内に入ると、DIPにしては店内は未だヒトの隙間が目立つ。山路から招待客に入れくれるとの事で、でもわたしの名前はないので三浦君の名前で入ってしまったが・・・他にはなんの前知識もなく・・・最初に出てきたのは福岡のバンド、ロンサム・トーン・ベンダー(?)・・・これが中々いかしてる。どちらかといえばわたしがDIPに抱いていたイメージに近い音のバンドかもしれない。兎に角イキがいい・・・それは結構楽しませてくれたのだけれども・・・曲が進むにつれて気分が滅入ってきてしまった・・・誓って言うが、とてもイカかしたバンドだ。曲の構成も、また仕込みもよく心得ている。ベースも地を這っているし、繊細にアレンジされたギターはよくボーカルを引き立たせている。とにかくいかしてる・・・でも気が滅入ってきてしまった。ワケなんてわからない・・・


さて「孤独な音のうねり」が終わって、DIPの登場だ・・・出だしは・・・はっきり言って今まで聞いたDIPのライブでは最悪かもしれない。いや、彼らの出だしは常にそうなのかもしれないが、この日は特に前のバンドと対比してしまって、見かけのリズムの強弱の差がより一層印象を悪くしてしまったのかもしれない。「これはバッド・ブッキングだよ」などとこころで愚痴ながら・・・2〜3曲目でササさんがやってきた。彼はこんな時は遠慮がない・・・「なんだよ、メリハリが無いなあ」・・・しまいには大声で「DIPももう終わりだ」などと吼えまくる。イヤ彼は正直なのだ・・・わたしよりはDIPに愛情を持っている・・・だからこれが我慢ならないのにちがいない・・・にしても横でうるさいヤツだね・・・最後列で座り込みながら、今夜は最低の気分になっちまいそうだ・・・などと・・・
そんな事を思いながら・・・何曲目からだろうか・・・突然ナニかが急にに生まれ出した。いや、ナニかが三人の中で有機的に絡み始めたのだ。ついさっきまで無意味にかき鳴らしているようにしか感じれなかった三人の音が、突然支点を見つけだして・・・それはさっきまでのタダ大きいだけの音とはまったく異質のビートをはじき出している・・・おい、まってくれ・・・わたしの知っているDIPはこんな芸当ができたっけ?・・・ナニかが始まり出した。それは太古のビート・ミュージックが時として成し得たマッジック?・・・ビートは小節に区切られた点ではない・・・それはある空間が時として得ることがある鼓動だ。そしてそれが未だ弱弱しくも脈打ちだしているのが感じられる・・・歌詞の内容がどうだって・・・そんなのは今は関係ない・・・心臓が脈を取り戻し出してるんだ、言葉の問題はこのさい後まわしさ・・・

曲はなおも発見された支点をテコに、次の段階へと飛び出し始める・・・『支点を与えよ、さすればわたしは地球を持ち上げて見せる』そんなことを言った数学者がいたっけ・・・ミディアム・テンポの曲ももはや最初の頃とはまったく別のうねりを生み始めている。そうなんだ・・・わたしが山路やナガッタチ、中西君に惹かれるのは、彼らがもっているこの音への集中、そしてそれを創り出すことが出来る彼らの才能だったんだろうか・・・彼らが型どおりのアレンジをこなすだけのバンドじゃないことは知ってる・・・また彼らが自分達の出してる音がどう鳴っているかを的確に把握出来しながら演奏できるメンバーなのは知ってる・・・でもそれをどうドライブするか、それを知ってるとまでは思っていなかった・・・
レールはしかれた・・・何処に続くかまでは構うことじゃない・・・中西君は加速しながらその上を走り出し・・・ナガッタッチはそれを後ろから蹴飛ばす・・・山路は噴煙を吐き出し、それは波打ちだした空間に七色に拡散し始める。もう当初の弱弱しさはかけらもない。雛は殻をやぶって今野生の雄叫びを上げようとしている・・・突然山路のギターが歌いだした。そう・・・彼が卓越したギタリストであることは見とめていたけど、ソリストとは思っていなかった。今まで見たステージ、また一緒にやったセッション&ライブでも、彼は常にビートとメロディーを同時にこなしていた。それは常人の出来る技ではないけれど、でもソリストはそんなことをしなっくっても他のメンバーを操ってもっとすごいことが出来るもんさ・・・でも今の彼のギターは唄い出している・・・そしてナガッタッチと中西君の作るビートがその中で輝きはじめたんだ・・・すごいぜ!・・・ロック・バンド!・・・


ステージが終わり、アンコールもなく・・・でもわたしは興奮したまま、ちょっと楽屋に出向くと、急いで山手線に飛び乗った・・・いや、この体験したことを、それが鮮明なうちに書き記したい欲求でいっぱいだったのだから・・・それがどんな意味があるんだって?・・・そんなことはしったことじゃない・・・でもナニかが生まれた・・・それに立ち会えたことを・・・またそこで見えたことを少しでも形あるものとして残したい欲求でいっぱいなのだから・・・

ハハハまったく1000分の1も表現出来なかったけど by seven 11May2000