Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space
Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space (June 1997) | |||||||||
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Additional musicians:
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紆余曲折を経て(とはいえ)なんとか、やっと出た Spiritualized の最新アルバム。最初のテイクは実際には2週間程のスタジオ録音で終わっていた様だが、その後に1年程のミキシングを重ねて音が出来上がり、最初は97年の始め頃にはリリースされるハズだったが、ここでタイトル曲の "Ladies And Gentlemen..." に、エルビス・プレスリーの "Can't Help Falling in Love" の1フレーズがバックに皮肉的に使われているという事で訴訟問題に巻き込まれて、また遅れてしまった様だ。
裁判の結果がどうなったかまでは知らないが、なんとか97年6月末に発売されたアルバムでは、この問題のフレーズ "fools rush in" はタイトル曲からは削られてはいない。またこのアルバムは、CDで2通りのジャケットでリリースされている他に、アナログLPとテープでもリリースされた様だが、アナログLPでは一部の曲にCDとは別テイクが使われている様だ。
このCDの2通りのジャケットだが、私がなんとか手に入れた方は、800枚限定の
cardboard box という事で、一体どんなジャケットなんだろうって期待してたら、なんと錠剤なんかの入っているアルミのタブレットの事で、CDサイズの大きなタブレットに錠剤のかわりに1枚CDが収まっている訳だ。音を聞くにはこのタブレットを破ってしまわなくてはいけない訳で、誰かが
Jason は俺達に2枚買わせようって気でいるっていっていたのはこの事だった訳だ。 |
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で、一応このジャケットにはちゃんと注意書きも載っていて、 For aural administration only Each tablet contains 70 min Store in a dry place まあ、凝ったジョークではある。 |
ところで音の方だが、昔懐かしいサザーン・ロックのピアニスト Dr.John が入っていたり、ゴスペル・コーラスが入っていたりと、クレジットで見るだけでも従来の spacemen 3 〜 spiritualized の音の路線からはちょっと信じられないラインアップだが、実際従来ようりはかなり熱く暑く、そして分厚く演奏している。
出だしに多分 Kate の "Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space" のアナウンスから曲が始まると、随分とロック(それもアメリカ南部的な)演奏におどろかされる。2曲目の "come together" は多分ビートルズの同名曲を意識しての jason なりの演奏なのだと思うのだが....3曲目 "I Think I'm In Love" は前半がちょっとクイックシルバーの初期を思わせるオフ・ビートの曲調から、一旦ブレークした後にオンビートにブラスが重なってくる。当然背景に jason とおぼしき効果音が流れているのだが、受ける印象は意外と Rolling stones の "Exile on the streat" に近い様に思える。
4曲目の "All Of My Thoughts" は出だしが "Pure Phase" 的だが、やはり唄が抜けるとすぐにブラスがくわわり、そしてまた静かな唄、そしてその繰り返しって感じだ。 次の "Stay With Me" も同様に、そして徐々に曲調がもりあがっていく。こうなってくると確かに jason が Otis Ledding が好きだって事は真実の様だ。受ける感じは違うがやっている事は確かにR&Bそのものなのだから...
6曲目の "Electricity" はちょっと初期のビートルズ的なギターのリフから始まる本当に分厚い南部R&Rサウンドの曲だ。これは本当に "Exile on the streat" からキースリチャードのギターを jason に置き換えたって感じの曲だ。 やけに鼻声の唄から始まる7曲目の "Home Of The Brave" は歪んだハプシコードの音に徐々に音塊が背後から押し寄せて次の "The Individual" へと移る。これは殆どサン・ラといおうか、マイルスのビッチェスブリューといおうか、暑くうだったNYの交差点でサックス吹きが即興演奏してるって感じの曲だ。
さて、曲の紹介はこれくらいにして(後はこのアルバムを手に入れて楽しんで欲しい)、全体の印象として spiritualized は本当の意味で spacemen 3 ではなく spiritualized としての音を徐々に獲得しはじめている様に思う。これは明らかにあのどんより曇った Rugby からの決別であるし、すこぶる全体がPOPな仕上がりになっている事は、目的ではなく、彼らが曲を作るという事に固執した結果の様に思える。 まあ間違いなく spacemen 3 を期待して、このアルバムを聞いた人は失望する事だろうが、新たなリスナーにはこの何者とも形容し難い音は新鮮だろう。 そしてよく聞くと全ての曲にこれまでのPOPミュージックのあらゆる良質な要素がごった混ぜに煮詰められ、彼らなりに咀嚼されて曲の中に散らされている事に気づくと思う。ちなみに、Dr.John のピアノは最後の "Cop Shoot Cop" に聞かれるのがそれだと思うのだが、この曲なんてピアノの音がなければ私には The The の "Mind Bomb" と聴き間違えてしまいそうな感じだ。
がしかし Jason Pierce はまだ宇宙服に身をつつんでNYの街を歩き回っているんだろうか?