Jonathan Richman and the Modern Lovers
わたしにとって the Modern Lovers は、かなり厄介な存在だ。 大体わたしは当初 『パンクってものはいかがわしい』 と思っていた。 Pistols が 『女王が XXX』 と叫ぼうと日本に住んでる自分の知ったことではない。Crash が 『ロンドンが燃えている』 とアジテートしてても、だからどうしたの? という感じだ。 ところがそれから Televison の 1st や Patti Smith の Radio Ethiopia を聞いて考え直しちまった。それは‘70年代前半にすでにメジャーな存在として君臨していたロック・バンドとはナニか違うテイストを持ってる。 それに気づくと、それまで只ヘタくそなだけなんて思ってた Pistols ですら『音はいいじゃない!』なんて思い始めちまった。 まあそれだけいい加減なヤツだったのだが、それでもなお歌詞は 『自分の事』 ではなかった。 さて Modern Lovers はというと、当時は Velvet Underground または John Cale というフィルターを通して聞いていたし、彼の歌の中に感じる自閉性も、そういうセンスというくらいにしか感じていなかったのだが...或る日ふと Jonathan Richman のこんな歌詞が耳に入ってきた。『君が病院から出てきたら、また僕を君の生活の中に入れておくれよ・・・』(Hospital) 何故だかすごく落ち込んだ。 何処にも救いがない。 ナニかが自分のココロを反射してくるのだが、そいつは 『どうしようもないケド、おまえはそうするしかないのさ』 って突き落としてくれる。 だめだよ、これ聞いてても気持ちよくなれないゼ。 そしてしばらくわたしは Modern Lovers から遠ざかる。 確か‘80年代の中頃だろうか、たまたま吉祥寺の古レコード屋で見かけた Jonathan Richman and the Modern Lovers のLPを何気なく手にしたのは… Jonathan sings!(1983 Sire Records) ってこのアルバムは、何故かとても心地よかった。 気分がふさぎこんでる時、以前なら Modern Lovers なんて聞く気はしなかったのに、これはまるでそんな時にこそココロに染み込んできた。 以降わたしのレコード・プレーヤがお釈迦になるまで、こいつは何度も聞いたね。 で、つい最近なのだが… フト CDNow で Jonathan Richman を検索して、一番新しそうな CD を注文しちまった。 何故だろう? あのドロッとした悪寒と、その後のさわやかな癒された感触… それを思い出したのかもしれない。 そうだよ最近彼はナニしてるんだろう… って感じだ。 さてこの送られてきた'98年リリースの i'm so confused って CD はやっぱりとても心地よい。 いやそればかりか以前にも増してクリアーに、そして余分なモノがそぎ取られたサウンドだ。 で彼はまだ(また?) 『僕は困惑してるんだ』 なんて歌ってる。 いや困惑はわたしの方にこそあるのだ。 彼の歌やサウンドにあるナニかに、ナゼわたしは落ち込んだり、癒されたりしてしまうんだろう? それは一体わたしにナニを語り掛けているんだろうか? そうだよ、わたしはあの 1st アルバムのどこかに、まだ引っ掛ったママのものを残してきちまったに違いない… |
少し Jonathan Richman という男の背景を想像してみようじゃないか… Jonathan Richman : 1951年5月15日 Boston 生まれ 10代の頃は、ラジオから流れてくる音楽に孤独をまぎらわせている、そんなゴク普通の少年だったようだ。 時代はすでに激動の‘60年代に入っている。 しかし東海岸の北部に位置するこの白人社会は、きっと未だアメリカの黄金の時代‘50年代の繁栄を色濃く残していたに違いない。 アメリカ人が夢見た理想的な父親と母親のいる家族、きっとこのナイーブな少年もそんな家庭に育っていたのだろう。 しかしラジオから流れてくる音楽はこの頃 R&R という革命を迎えている。 すぐに Beatles がやってくる。 西海岸のピッピー・ムーブメントだって耳に届いていたハズだ。 そして彼が選んだ革命の旗手はすぐ南の大都会 New York の Velvet Underground だったわけだ。 15歳でギターを手にし 1969年18歳で Lou Reed にあこがれて New York に出てきた Jonathan は Velvet Underground のマネージャの部屋に寝泊りしたりしながら、この大都会で自分の音楽を築こうとするが、しかしそれは失敗に終わったのだろう。 結局翌年1970年に Boston に戻り、自分のバンド the Modern Lovers を始めている。 さて 1st に収められたデモ・テイクが録音された時期は大体‘70年代前半だが、とすると丁度この頃の作品になる。歌詞を読んでみると、そこに描かれている 《彼女/恋人/ガールフレンド》 には共通した女性像が見えてくる。 彼女は 《自虐的》 で 《ピッピーの恋人》 がいて 《ドラッグ漬け》 で、しかも 《性格破壊》 されてすらいる。 そしてそこにいる Jonathan はいつもそんな彼女が理解できないのだが、と同時にどうしても彼女への思いを断ち切ることができない。 彼は古い世界の良識が、すでに廃墟と化している事を理解はしている。 また新しい世界が新しい考え方を展開し出している事もだ。 しかし彼はそのどちらも捨てる事が出来ないし、またどちらからも抜け出す事が出来ない。 まさに Modern な Lovers なのだ。 それは『今』のことでもあり『ちょっと昔』でもある。 Old World という曲では、彼は 『古い世界はもう滅びる』 ことを歌いながら、その古い世界の住人である『両親を愛してる』ことを告白する。 新しい世界『New York にガールフレンドがいる』のだが『彼女には僕が理解できない』ことも知っている。 そして彼は結局古い世界に別れを宣言する。 そして Modern World という曲では‘60年代後半の若者の多くがそうしたようにドロップ・アウトしてみせるのだが、それはナゼかゼンゼン楽しそうには響かない。 Pablo Piccaso では、この一時代前の芸術家を持ち出して、New York の前衛芸術家達を揶揄してさえいる。 『ピカソはケツのアナなんて絶対に呼ばないぜ』 そして例の Hospital である。 彼女は今病院にいる。 どうして? それはドラッグのせい? それとも自殺未遂だろうか? Jonathan は彼女がなぜそうなってしまったのか理解している。 またそれを自分のせいにしてしまってもいる。 いや彼女はきっと Jonathan などどうでもいいのだ。 彼女は多分 Cracked している。 多分誰が相手でも彼女は同様に自分を傷つけただろう… でも Jonathan は彼女のひとみの中の空虚を見てしまったのだ。 自らを破壊したいという願望は誰のこころの中にでも潜んでいる。 タダ共鳴することで呼び起こされるだけだ。 そして Jonathan は彼女のひとみの奥に共鳴してしまったに違いない。 |
さてヘタな解釈をしてしまったのかもしれない。 そうだ don't wast our youth go to waste って曲があったよね。 どのアルバムに入ってたんだっけ? わたしには Jonathan Richman を理解することなんて出来ないけど… でも彼がとってもイイやつだってことは信じてもよさそうだ。 だって今でもとっても素敵な Rock'n'Roll を聞かせてくれるんだから。 |