鏡像段階

荒野の外れ、快楽の外れに、とても小さく見える
あの石たちは怒れる神によって抛たれた
日の出の向こうの高台をいかに日の光が静かに射すとしても
石たちは凍り付いた微笑みのようにじっとしている

だってわたしは手元に置けないものを愛しているんだもの
それはわたしが去った訳も気付かない

うまくいくのもしくじるのも、いつまでも続きはしない
この高みは落ちていくより素早く立ちのぼる
ここから何が見えるのかは誰も知ることはできない
あるいは、終わりのときの前に一体なにを感じるのかは

だってわたしは手元に置けないものを愛しているんだもの
それはわたしが去った訳も気付かない
どんなに知恵を絞ってみても、それでもどうしようもない
あなたにもう一度会いたくて仕方がない


新世界

あなたが波を眺めて立っているのを見たかしら
船がやって来るのを待ちこがれながら
あなたが波を探し求めて立っているとき
すべてが洗い流されてしまったとは思わなかったかしら

あなたの天国が大きくなっていくのを想像してみたかしら
あなたの触れたものがみな黄金に変わるのを
あなたの子供たちが見つけだすのを想像してみたかしら
あなたの諦めた全ての夢を

あなたへの祈りは唱えられた
高い山の寺院で
あなたの決して知ることのなかった人たち
かれらがあなたのために祈るのを聞いたかしら
あなたの心の平安のために


ユダとマカベア一族(いちぞく)

ドアの陰から覗き込んだ
そして見た、ずっと昔に消えてしまった世界を
目に当たる光を遮って
自分でも分からない言葉を言う
そしてユダとマカベア一族がやって来て
歌う

ドアの陰から見た
昔の預言者の目を
自分が発する光を隠して
知っているはずの祈りを唱える
もしエリヤがやって来て隣に腰掛けたなら
わたしは歌う
そしてユダとマカベア一族がやって来て
歌う


巨大な壁

海は広く、潮の流れは深い
どうやってこんな壁を作ったの
その中にあなたが隠しているのは、かつてはわたしたちの一部だったもの
ずっと長いこと
でも岩は、転がって砕かれ、石になってしまう
壁を作ったときにはそのことは忘れていたの
その中にあなたが隠しているのは、かつてはわたしたちの一部だったもの
まだ隠している

海は広く、潮の流れは深い
あなたの壁は砂になってしまった
あなたがその中に隠していたものが岸辺で波に洗われていた
ずっと後になって
長いことかかって


コーカサスを夢見て

今のわたしは祖先たちより決して優れてなんかいないという
そんな考えをものにした
わたしはただ
水が地面に流れるようにしてこうなっただけ

塔は半円形でそんなに高くない
その中には出口は見あたらない
でもわたしは降りていく
水が地面に流れるようにして

塔は半円形でそんなに高くない
誰に向かってなぜわたしが見出されたと尋ねているのだろう
でもわたしは泣いてはいない
それは水が地面に流れていくようなもの

誰に向かってなぜわたしが見出されたと尋ねているのだろう
わたしは地面に降り注ぐ水のようなものでしかない


忘れないで

連中は彼の頭から帽子をたたき落として彼を嘲っていた
彼は連中に敬意なんか求めてはいなかった
ただ平安を望んだだけ
遠慮がちに、彼はわたしたちに呼びかける
忘れないでと

連中は彼の頭から帽子をたたき落として彼を嘲っていた
彼は胸のショールを引き裂き、叫んだ
私は死ぬだろう、でも太陽は照り続ける
きみたちは忘れないだろうと

短歌

二つの鏡が空を映す
ひとつははっきりと明るく、それは嘘だ
どちらも堕ちてしまう
二つの鏡が夜を映す
ひとつはひび割れ暗い、それは嘘だ
どちらも堕ちてしまう