呼吸器感染症その予防と治療


   ●呼吸器感染症
   ●呼吸器感染症の症状
   ●原因と対策
   ●RNS


呼吸器感染症

 細菌が動物のからだの色々な部分に感染すると、それが原因でさまざまな病気 を引き起こすことがあります。細菌は、雌雄がなく、どんどん二つに分裂してい くという二分裂により増殖するため、爆発的ないきおいで増えます。ただし、細 菌の中には、病原性の低いものもありますし、健康な個体であれば、自らの抵抗 力でこの細菌の増殖をおさえることができますので、発病にはいたりません。
 細菌感染によって発病するのは、病原性の強い細菌に感染した場合か、その個 体の体力が弱っていて、免疫力が弱まっているときです。

 その、細菌による感染症ですが、感染するからだの部位によって、さまざまな 呼び名があります。口の中であればマウスロット、甲羅であればシェルロット、 そして、鼻孔・気管・肺などの呼吸器に感染するケースを、まとめて呼吸器感 染症といいます。
さらに、感染した部位により、
鼻孔炎、気管炎、肺炎
などの名前もついています。呼吸器感染では大抵の場合、外部に近い鼻孔炎から始まり だんだん内部に進み、悪くすると、肺炎へと移行します。
 リクガメを飼っていて、もっともよく経験する病気のひとつが、この呼吸器感 染症です。(呼吸器感染症には、細菌以外にもウィルスも関与していますが、詳 しいことは、まだ研究中のようです。ここではカットします。)
 人間で、【カゼ】という言葉を使いますが、これは言ってみれば、呼吸器感染 症のうち軽度のものをさす俗称です。
 人間のカゼは、たいてい治るものなのに、なぜカメの「カゼ」は厄介なのか? これは、カメの呼吸器のつくりを解剖学的に考察することで、理解できます。
カメには、「横隔膜」がありません。
横隔膜は、呼吸をつかさどるものですが、これがないために、カメは能動的に排 気をすることができません。そのため、意図的に咳をすることができません。また、 肺の中に溜まった滲出物を、啖やつばのかたちで意図的に対外に出すことができません。 つまり、呼吸器に入ってきた細菌を対外に出すしくみが、人間などに比べ、不十分なのです。 そのため、一度、感染してしまい、処置が遅れると、肺炎に移行してしまう場合も多いので す。ですから、少しでも感染症の兆候が見受けられたならば、すばやく適切な処置をとるこ とが必須となってきます。


 呼吸器感染症には、急性のものと慢性のものがあります。圧倒的に多いのは、 急性のものですが、これは非常に進行が速く、ひどいものになるとその兆候に気 づいてから、数時間のうちに息をひきとってしまうケースなどもあるようです。
 それだけ、迅速な対応が必要となってきます。
日単位ではなく時間単位で治療せよ。場合によっては、分単位で行動せよ。
というふうに書かれている医学書も多いです。逆に、慢性のものと違い、治癒も 速いのが特徴です。瀕死の状態から、奇跡的に回復したという報告もありますか ら、希望をもって看病(治療)にあたりたいです。

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呼吸器感染症の症状

●(粘性のある)鼻水や唾液を出す。
●開口呼吸(口を開けて呼吸をする)
●呼吸困難、頭を上げて、不自然な体勢で呼吸をする
●喘ぐような呼吸音を立てる。
●(ヌマガメの場合)平衡感覚のマヒ。泳ぐときに、身体が傾く。
ヌマガメは、左右に肺を持ち、双方の空気の量の釣り合いによって、泳ぐときのバランス をとっています。そのため 肺炎を起こし、片方の肺が細菌によって侵され、つぶれてし まうと、バランスが取れなくなります。

初期症状は、まず鼻水(鼻ちょうちん、泡状)と思っていていいでしょう。 くしゃみもします。
小さなカメですと、鼻の穴も小さくて、始めは気づきにくい場合もあります。朝起きぬけな どが顕著でわかりやすいです。
 ほとんど病気がそうであるように、この呼吸器感染症も早期発見早期治療 が要となりますので、飼い主として、一番大切なのは毎日の観察です。少しでも妙に思うと ころがあったら、何かの対策を練りましょう。

上記以外にも、元気がなく、寝ている時間が長くなったり、手足に力が入らなくなるなどの 症状が見られる場合もあります。食欲は、個体によってまちまちで、一概には言えません。 食欲があるからと言って、安心できません。
中には、目が見えていないのではないか、と思えるほど異常に元気に歩き回る個体もいるそ うですが、これは、自分で代謝を促進しようとしていたり、または、呼吸を楽にしようとし ていたりする行動で、かなり末期的症状です。早急に、専門医に相談し、何らかの 手を打つ必要があります。
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原因と対策


 直接の引き金となるのは、ほとんどの場合、不適切な環境です。 具体的には、
●温度・湿度が不適切:とくに低温による場合が多い。

●過密などによるストレス:多くの爬虫類がそうであるように、カメもストレスに弱い動物です。過密飼い、とくに違う種類との混在は、避けるべきです。

●不衛生:食べ残しの餌、糞尿の始末、飲み水の換えは、まめにしましょう。

・ビタミンA不足:ビタミンAは、上皮保護ビタミンとも言われ、表皮や目、鼻などの粘膜などの角化や荒れをおさえる働きをします。これが不足すると、呼吸器系の粘膜に悪影響が出て、 免疫力も弱まり、細菌に侵されやすくなります。過剰症がありますから、日頃の餌では、ビタ ミンAの形ではなく、野菜などに多いカロチンの形で摂取させ、体内で必要量をビタミンAに 換える方がいいでしょう。
・寄生虫:とくに蛔虫などが寄生している場合、細菌による発病もしやすい。

などが挙げられますが、特に●印のものが原因となっているケースが圧倒的に多い ようです。
何より、上記のような環境をつくり出さないようにし、病気の予防をすることが大切です。どんな病気でも、治療よりは、予防をすることが大切です。
 それでも、症状が出てきた場合には、まず、次のような対策をたてましょう。
●感染(したと思われる)個体の【隔離】:細菌によるものは、伝染します。
ケージを別にし、餌なども別に与えます。また、病気の個体の看病をしたあとは、人間も手を石鹸などでしっかり洗いましょう。

●ケージの温度を上げる:夜25℃、昼30℃、スポット35℃
これは、うちでの経験的な数値です。
地中海リクガメの適温は、夜間は15℃前後と言われていますが、これは、病気の個体には当てはまりません。通常より、高めに温度を設定しましょう。感染したと思われる個体の抵抗力も上げることができます。

●水分の補給:脱水しているケースが多いので、水分をとらせてあげる必要があります。(温浴をさせるか、拒食していて水も飲まない場合は、チューブで水分を注入してあげる。)
温浴の際、鼻の周りの粘性のある排出物を取り除いてあげましょう。身体が浸かった汚れた水は、顔にはかけないように注意しましょう。湯冷めしないに、あとは、よく乾かしてあげましょう。
冬場はとくに乾燥しているので、加湿器などで、部屋(ケージ)全体の湿度をあげるのもよいです。うちでは、発病時40%弱→60%に上げたら、効果がありました。

●ケージの清掃:とにかく清潔に。
不衛生にしていると、再感染する可能性があります。ケージの床材などは、全部、入れ替えます。カメが冷えないように注意して、部屋の換気も行うとよいです。

●ビタミンAの補給:ビタミンA剤の投与。
ただし、ビタミンAは、脂溶性のビタミンなので、過剰に摂取した場合に、水溶性のビタミンのように尿に溶かして対外に排出することができません。そのため、過剰症になることも知られていますので、注意が必要です。
餌をとる個体でしたら、かぼちゃ(茹で)ニンジン(茹で)モロヘイアなどを与えると、ビタミンAの先駆物質のカロチノイドが摂取できます。

 軽度の感染症の場合は、上記のような処置を施すだけで治ることもあります。上のような処置をしても尚且つ、状態がよくならない場合は、

●獣医師へ連絡:どんな病気でもそうですが、発病してから獣医さんを探したのでは間に合わないこともあります。とくに、爬虫類には詳しくない(あるいは診ないという)獣医さんもいるようですから、日頃から信頼できる獣医さんを見つけておきたいものです。

 鼻水を垂らしている場合でも、それが細菌感染によるものかどうか、また、どの細菌によるものか、ということは、その個体からサンプル(鼻汁、唾液など)を取り、培養などしないと正確には分かりません。あやしいときには、大事をとって獣医師に連絡をとるといいでしょう。鼻水の粘性が強い、または呼吸音が聞こえるなどといった症状が出てきたら、一秒でもはやく、獣医師に連絡をとり、薬を処方していただきましょう。

治療には、抗生物質を使うことが多いようです。カメの呼吸器感染症に使用する抗生物質は、獣医さんの処方箋がないと、私たちは、薬局で購入することができませんので、薬のリストを載せても意味がないかとも思いましたが、たとえば、これを獣医さんの診断を受けるときの資料として、役立てることもできるのではないかと思い、アップすることにしました。実際、私たちも病院へ行くときには必ずこの手の資料を持参し、獣医さんと薬などの相談をしています。
 薬の量は、資料によってばらつきがありました。あくまで、参考資料として、載せましたが、実際の投与は、必ず信頼できる獣医師の支持に従ってください。

●バイトリル(エンロフロキサシン)   15〜25mg/Kg、毎日
●アンピシリン             50mg/Kg、毎日5日間
●テトラサイクリン系
 (塩酸ミノサイクリン、オキシテトラサイクリンなど) 同 上

 抗生物質は、注射する方が効果的です。経口投与を長期にわたり続けていると必要な腸内細菌を殺してしまうなどの副作用が生じますので、注意が必要です。腸内細菌を取り戻すには、治療終了後、生ヨーグルトを与えるといいと言われています。

 抗生物質は、細菌の種類によって効き目が違うので、本来は、感染した個体の鼻汁や唾液などを取り、効果があるかどうかの試験をしてから、使用するものを選ぶべきなのですが、そこまで、やってくれる病院もあまりないです。大抵は、経験的に予測をたてて、薬の処方をするようです。
 ですので、効果があらわれない(病気が治癒しない)こともあります。このような場合には、抗生物質の種類を変える必要があります。前にも書きましたように、急性の感染症の場合は、正しい処置をすれば、治るのも速いのが特徴ですから、1、2日(数時間と書いてある資料もある)経っても効果がない場合は、薬が効いていないものと考えられます。
 いずれにしろ、この辺りのことは、素人判断は危険ですので、獣医師と密に連絡をとって、迅速に対応することが大切です。
 抗生物質の効果を速めるためにも、温度を高くしておくことが大切です。これにより新陳代謝がはやまりますし、また、その個体の免疫力を高めることができます。
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RNS


一方、同じような呼吸器の症状をしめすものとして、リクガメの飼育書によく名前が登場するRNSがあります。
 RNSとは、Runny Nose Syndrome の頭文字をとったもので、鼻水を垂らすなどといった症状のことを指します。RNSと言われるものには、細菌感染によるものと、それ以外のものがあります。
細菌感染によるものは、いままで述べてきた呼吸器感染症の初期症状で、鼻孔に炎症が起きている場合をいいます。放っておくと、肺炎などに移行することもありますから、前述の環境改善を行うことが大切です。抗生物質などを含む点鼻薬を、鼻孔に吹きかけるのも効果があるようです。これは、粘液などを洗いながすことに主眼があるようです。

 さて、RNSですが、これは鼻水を垂らす症状全般をさすものであり、中には、細菌以外のものが原因になって、引き起こる以下のものもあります。以下は、いすれもリクガメに見られる症状です。

1)沿岸部に生息するギリシャリクガメに多いもので、【乾燥】のし過ぎにより鼻をたらす症状が 出ます。飼育下で、乾燥すると特に出やすいです。
乾燥する冬場には、注意しましょう。特に電気器具で保温をしていると、乾燥しがちです。
対策→保湿につとめる。温浴なども効果的です。
加湿器などの導入も効果的です。

2)ほこり、花粉などの異物が鼻孔に入って起こるもの。
人間でいうところの【アレルギー性鼻炎】のようなものです。細菌感染のものと違 い、鼻汁に粘性がなく、透明で、水っぽいことが特徴です。
北カルフォルニアでは、マツやアカシアの花粉が飛来する春ころに、この症状が出て、病院に連れて来られるリクガメが多いようです。この時期は、この地域での、人間の花粉症の時期とちょうど一致するのだそうです。
季節が過ぎれば治まり、次の年にまた、症状がでます。
同じように、ハウスダストや太陽光線による症状もあります。

3)ビタミンA不足
細菌感染のところでも述べましたが、粘膜の角化が生じて、鼻水がでます。
これは、放っておくと、荒れた粘膜から二次的に細菌に感染する場合がありますので、細菌感染の場合と同様の対処が必要です。

 抗生物質などの投与をする前に、まず、上記の1、2ようなものが原因になっていないか、をよく見極めておく必要もあります。
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