顧客の目線で自社の営業活動を考えるCRM顧客関係管理マーケティング
【とるかとられるか】
ビジネスは売り手と買い手の二者から成り立っている。
営業担当者は顧客に自社の商品をいかに優れているかかを語り、顧客はその話を疑いながら聞いている。
営業側はいかに自社にとって有利な商売ができかを顧客はいかに自社にとって有利な買い物ができるかを考えて相手の出方を探っている。
売る方は甘い言葉で買う方はときには脅したりして駆け引きを戦わせる。
そう、今までの商売はどちらかが得をしてどちらかが損をする戦いだったのだ。
【天国と地獄の法話】
仏教にこんな法話が伝わっている。天国と地獄があり、どちらにも同じように食事が出される。
しかし、どちらの住民とも両手を縛られている上、長い箸しか使うことができない。
地獄の住民はそれでも長い箸をなんとか手にとって食べ物を口に持っていこうとするけれども、箸の先は自分の口よりはるか先にいってしまい食べることができず、結局日に日にやせ細っていく。
ところが同じ境遇のはずの天国の住民は皆楽しく食事をとっているというのである。
彼らは箸でつかんだ食べ物を自分の口ではなく隣人の口に運んで食べさせているのだ。
天国も地獄も違いは人の心の持ち方次第というこの法話は私自身の心に深く刻まれている。
【顧客のために働くということ】
営業活動も同じではないだろうか。
バイヤーが高飛車にセールスをたたき、セールスが顧客をはめる。
これでは地獄の住民と同じである。結局、顧客はいいものを買えず、営業担当者は顧客に逃げられる。
地獄の住民は相手をくるくる変えながら損得を繰り返しているのである。
これに対して天国の住民は売り手も買い手もお互いに幸せである。
どちらも損をしていない。WinWinの関係なのである。
営業担当者は顧客が望みに対して最大の努力をし、顧客はそれに対して最大の謝礼をする。
お互いの信頼関係はますます強くなり地獄の住民とは正反対でその関係はまるで永遠に続くかのようである。
【CRM顧客関係管理マーケティング】
実は、上に示した内容こそ最近、注目されているCRM顧客関係管理マーケティングの意味するものだ。
多くの顧客に広く売って利益を上げるのではなく、一人一社の顧客から継続的に多くの取引を実現することによって顧客の貢献利益を高めていこうという戦略である。
新規顧客よりも既存顧客が大切であり、利益は搾取するものではなく顧客とともに創造していく。
資本主義はマルクスが考えもしなかった血も涙もある暖かみのある段階に移ってきたのである。
信頼関係で結びついた企業と顧客が増殖していく中で、地獄の住民達は居場所を狭めていかざるを得ないのではないだろうか。
【顧客からみた自社を意識する】
顧客志向という言葉はもう耳に新しくない。
にもかかわらず顧客志向によって成功した企業とそうでない企業との間には決定的に埋まらない溝があるように思える。
言葉で表せばみな、顧客を第一に考えているというだろう。
しかし、本当の顧客志向が持つ凄みはもっと質の違うものである。
テーブルをはさんで顧客と対面している光景をイメージして欲しい。
あたかも顧客側の社員としてテーブルの向こう側に座っているかのように振る舞うことができるだろうか。
それが天国の住民と地獄の住民との違いなのである。
【顧客の目線でものを考えるということ】
大人が子供の気持ちを理解するのは難しい。子供の時にみえていたものが大人になっていくとともに失っていく。
いつしか子供を上から見下ろしてるのだ。子供の背の高さだからこそ目に入ってくるものもある。
視線の高さを子供と同じにして見なければ彼らと共感することはできない。
同じことが顧客との関係でも言えないだろうか。顧客の目線で商売を考え直してみると全く違った世界観が目の前に広がってくる。
相手の立場にたって考えることが人間関係の中で一番崇高で困難なことであり、どうしても自分中心にものごとを考えてしまうように、顧客との関係も顧客第一といいながら本当に顧客の相談を親身になって聞く人は少ない。
実は優秀な営業担当者は皆、顧客から人間的に信頼されているのである。
【売るのではなく補充するアスクル流】
アスクルは事務用品をFAX、インターネットで販売している。
アスクルという社名は「明日来る」という経営ビジョンから名付けられたという。
アスクルは顧客からの注文を24時間受け付けている。
ほとんどの商品は顧客側が配送日指定しない限り、翌日配送か、長くても翌々日配送である。
しかし、これだけでは事務用品の通信販売にすぎない。実は今、アスクルは単なる通信販売から脱却していこうとしている。
顧客からの注文を受けてそれを販売するのではなく、顧客ごとの注文情報をデータベース化することによって顧客の購買傾向をつかんでアスクル側から補充提案をしていこうというのである。
そこには「販売」から「補充」への発想転換がある。
売ったらおしまいではなく、顧客先までをも自社の倉庫にみなして倉庫の状態から定番品の補充するとともに、さらに使用状況を分析してさらに新しい商品の新規仕入れを提案していくのである。
もはや社外の販売会社ではなく、顧客にとっては社内の購買部門をアウトソーシングしていることになる。
顧客側に立った購買エージェントなのである。
講演で「顧客指向」という意味を説明するのにいつも悩むのだが、「売る」のではなく「補充する」というこの表現は我ながら的を得ていると思っている。
工場から倉庫へ、倉庫から営業所へ商品補充するように、さらにその先の顧客のところまで「補充する」のである。
「売る」のではそれでおしまいだが、「補充する」場合は顧客先までも自社のサプライチェーンの範囲内であり、顧客の商品消費、つまり補充の目的を知らなければ最適な補充は実現できない。
これこそ真の「サプライチェーンマネジメント」であり、「ソリューションセリング」ではないだろうか。
顧客本意でものを売っているということは簡単である。
しかし、「顧客指向」の本当の意味する次元は「販売」を持ってビジネスエンドとしないのだ。
「補充する」という感覚こそITマネジメントの真髄だといっていいだとう。
顧客ニーズの源泉を探し求めて川上をさかのぼる、それがアスクル流なのである。
【一社に向けてホームページを発信するデルコンピュータ】
パソコンメーカーのデルコンピュータはプレミアホームページと呼ばれる顧客専用ホームページを発信している。
継続的な取引関係のある顧客に対してはプレミアホームページを作成して顧客の企業属性やニーズ、購買履歴などを考慮した商品情報の提供や見積、受注などのサービスを行なっており、その企業だけが利用するソフトウェアのインストールなども請け負っている。
不特定多数に向けた自社事業や商品の紹介が行なわれている一般的なホームページとは異なり、デルコンピュータのホームページは当初から特定少数―自社の既存顧客、特にお得意先―に向けて発信されていた。
インターネットは世界中の多くの人に向けて情報発信するものだという妙な先入観を持つ人が多いが、私はむしろ情報発信というのは自社と関係の深い人達を優先すべきであると考えている。
取引関係が多くなればなるほどサービスをよくしてくれる企業が評価されるのは当然のことではないだろうか。
新規顧客の獲得ばかりに目を向けて新規割引キャンペーンを展開する企業の既存顧客はどのような気持ちで傍観しているのだろうか。
私はデルコンピュータのプレミアホームページを特異とは思わない。
むしろ彼らこそ至極真面目、誠実にビジネスを展開しているだけではないだろうか。
実はデルコンピュータを事例として取り上げたのはこのプレミアホームページそのものを紹介したかったからではない。
もちろん、プレミアホームページがインターネットの華やかさに惑わされずに商売の基本を見事に貫いていることに感動しないわけにはいかない。
しかし、ITマネジメントの観点から注目すべき点はそのプレミアホームページがどのようにして運用されているかにある。
顧客ごとに作成されたプレミアホームページを誰が面倒を見るのか。
通常、企業のホームページは業者任せになっているため、最初に作成された後ほとんど更新されることないため忘れ去られていく。
社内に担当者がいる場合でもWebマスターが面倒な仕事をたった一人で背負わされ細々とホームページを更新しているだけである。
ではデルコンピュータは何千ものホームページをどうやって更新しているのだろう。
実はデルコンピュータのホームページは営業担当者は更新している。
顧客を担当する営業担当者がその顧客向けのプレミアホームページも担当しているのである。
ホームページも営業活動の一貫であり、営業担当者が担当顧客向けのホームページを受け持つことによって、顧客は担当営業がいない時でも24時間コンタクトをとれることになるのである。
デルコンピュータは顧客の目線で営業活動を展開するために組織体系にもきわだった特徴を持っている。
営業担当者が変わったら顧客対応が悪くなったという話は多い。
一般の企業では社員が昇進して管理者になるにつれて責任範囲が広がり、どんどん顧客から離れた存在になっていく。
デルコンピュータはこうした一般の企業の考え方も全く正反対で、えらくなるにつれて責任範囲が狭くなっていき顧客に近づいていくのである。
日本の企業であれば大阪を担当していた営業担当者が昇進すると関西担当となり、さらに昇進すると西日本担当になっていくだろう。
これに対してデルコンピュータでは日本担当の社員が昇進すると、西日本担当となり、さらに昇進すると四国担当に、大阪担当にと責任範囲が狭くなっていく。
能力が高まったのだから狭い範囲でより大きな成果を出しなさいという論理なのである。
そして、より重要な得意先顧客には最強の営業チームが編成される。
組織は対顧客のマンツーマンの組織となっている。
顧客や顧客グループに対して営業、生産、購買などのスタッフがチームを編成している。
営業、生産、購買などの機能別に組織が編成されている企業と違って、デルコンピュータの社員は誰もが自分の仕事がどの顧客に貢献しているのか理解しているのである。
一般に機能別組織がとれる理由は同一業務に人を集めることによって生産性の向上が期待できるからである。
デルコンピュータでは実組織は顧客別チームとなっており、機能別の串刺しはグループウェアを使ってバーチャルに実現している。
【アマゾンは書評を仕入れている】
インターネットで書籍を販売することで有名なアマゾンドットコムが他のインターネット書店と異なる特徴は何だろうか。
私は書籍検索の場合に表示される五つ星評価と読者からの書評こそアマゾンの特徴だと考えている。
アマゾンは顧客が書籍を購入する前の情報探索活動こそ支援すべきだと考えているのではないだろうか。
実はアマゾンは顧客から書評を仕入れている。
書評を送ってくれた顧客に商品券を贈呈しているのだ。
ただそれだけと言ってしまえばそれだけのことである。
しかし、多くの企業のホームページがコンテンツ不足と内容更新の遅さに苦しんでいることを考えれば、アマゾンの戦略は痛快である。
商品は仕入れても情報を仕入れない企業との差がアマゾンの競争優位をもたらしたのだから。


【顧客側の営業活動の観点から自社の営業活動を設計する】
アスクルにもデルコンピュータにもアマゾンにも共通するのは自社の営業活動を顧客側の営業活動の観点から設計していることである。
あたかも顧客にとっては自社の業務をサポートしてくれ留援助者のようである。
そう、彼らのビジネススタルは販売業者ではなく顧客エージェントなのである。ホテルでいえばコンシェルジュだ。
売るのではなく顧客の購買業務を支援している。
さらに購買ではなく、その先の顧客側の営業活動に貢献するように後方支援している。
営業担当者は天国の住民の心を持って活動しているのである。
CRM顧客関係管理マーケティングを実践する企業は必然的に顧客エージェント的になっていく。
販売による売上であっても実際の営業活動はサービスが主体である。
顧客も結果としてのものよりも過程としてのサービスにこそ価値を見いだす。
商品ではなくソリューションを売ることが必要なのである。
今、営業担当者に求められているのは商品知識ではない。
個々の顧客にとってその商品がどのように役に立つのかというソリューション知識である。
そのために顧客を知ること、そして顧客と自社商品との関係を知ること、つまりCRM顧客関係管理が重要になってきているのである。
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