ASP活用による中小企業のITマネジメント戦略


【今、何が起こっているのか】
 A社はグループウェアの社内導入を検討していたがやめることにした。
インターネット上のグループウェアASPサービスを利用することに急きょ路線変更したからだ。
自前でシステム構築すればハードウェア、ソフトウェアの他、インストールなど関連サービスを含めると総額500万円ほどかかる投資額が、このグループウェアASPサービスを利用すれば月額数千円の出費で済むのである。
A社は、インターネット上でソフトウェアの利用を提供するASPサービスが他にもあることを知り、今後、販売管理や会計、人事、給与などの業務システム、SFA営業支援システムや電子店舗システムなど社内の情報システムをこれらのASPサービスを使って構築して、同業他社に比べて遅れていたIT化を一気に進めたいと考えている。
しかし、一人の取締役が役員会で問題提起した。
「多数の企業が共同利用するASPサービスを使うことが、我が社のITマネジメント力の強化につながるのか?」
「インターネット上に社内の重要情報を流すことに問題はないのか」
「故障時や不正アクセスによって発生した損害に対する補償はあるのか」
これらの質問に答えることができる役員は一人もいなかった・・・

【ASPとは何か】
 ASP(Application Service Provider)の定義は非常にあいまいである。
 ASPの推進団体であるASPインダストリアル・コンソーシアムではWebサイトからソフトウェアをダウンロードして使うことができるサービスまで含んでおり、またASPベンダー各社のサービス説明をみると既存のアウトソーシングサービスと変わらないようにも思われる。
 しかし、ASP先進国の状況をみると、「ASPとは低価格化によって常時接続が可能になったしたインターネットを利用して標準的なアプリケーションサービスの利用をソフトウェアレンタルの形式で提供するビジネス」であると考えるのが妥当であろう。
 ユーザ企業にとっては、コンピュータなど固定資産を購入するのではなくリースやレンタルするのと同じように、ソフトウェアも所有するのではなく利用しようという経営戦略であるといえるだろう。
 したがって、ASPの利用者は設備投資余力の小さいベンチャー企業や中小企業が多くなるのは当然であり、ASP先進国である米国でも発展途上国である我が国でも同じ状況にある。ベンチャー企業や中小企業にとっては、ASPは短期間でかつ低コストで最新・最強のIT武装を実現できる必見のサービスであることは間違いないだろう。
 次の画面はベアネット社が月額1万円で提供しているASPサービス「TEAMWeb」の初期画面である。

 

【ASPで何ができるのか】
 では、ASPによってどのようなサービスが利用できるのだろうか。
 現時点で利用できるASPサービスの中で最も多いのがグループウェアであり、電子掲示板やスケジュール管理、電子メールなどの機能が利用できる。
 ただし、こうしたグループウェア機能についてはサイボウズやiOfficeといった購入できるパッケージ製品も低価格化(数十万円程度)し、また導入が容易(ハードウェア込みで購入してすぐに利用開始できる製品もある)であることから、サービス事業者側が期待するほど利用企業が増えているわけではないようである。
 グル−プウェア以外のASPサービスも急増している。
 Web対応の業務パッケージソフトが増えてきたことによって、販売管理や経理、給与計算といった業務システムをASPサービスで提供する事業者も増えてきているのだ。
 また、インターネットの特徴をフルに活用したEC電子商取引アプリケーションのASPも登場してきている。
 しかし、いずれのサービスもユーザ企業が自社で構築する場合と比べてサービス品質保証がどこまで確保されるのかが問題となっている。
 以下、現時点で利用が可能なASPサービスの種類を列記しておく。
 ASPの利用価格はサービスの種類や事業者ごとにまちまちだが、1ユーザの月額費用が数千円という場合が多いようである。

 <ASPのサービス種類>

グループウェア系ASP

電子掲示板、スケジュール管理、伝言版、施設予約、電子メール、Webメール、アドレス帳、文書管理、ワークフローなど

業務パッケージ系ASP

個別業務系

 経理、総務、人事、給与計算など

SFA(営業支援)系

 活動管理、案件管理、顧客管理など

ERP(統合業務)系

 ERPSCMなど

EC電子商取引系ASP

 電子調達、電子決済など



【ASPに対する不安―SLA(サービスレベルアグリーメント)がASP普及のカギを握る―】
《多数の企業が共同利用するASPサービスを使うことが、我が社のITマネジメント力の強化につながるのか》
 多数の企業が共同利用するASPサービスを採用すべきかどうか答えを出すためには、まず企業における情報化の目的が本来何なのかについて考える必要がある。
 企業における情報化は大きく二つの目的に分けることができる。
 一つは業務の効率化によって生産性を向上させコスト競争力を高めるためのものであり、伝票処理など手作業による業務をコンピュータ化することによってスピードアップやミスをなくすことなどがこの目的にあたるものだと考えられる。
 もう一つは、業務自体を変革し独自な業務方法によって他社が実現できていない競争優位となるようなサービス品質の向上を図ろうというものであり、顧客の有する最終ニーズを探り出し提案営業するような従来SISと呼ばれたような戦略的な情報システムがこれにあたる。
 この二つの情報化が持つ本来上の目的から考えれば、多数の企業が共同利用するASPは競争優位となるような戦略的な情報システムではなく、業務の効率化によって他社と同じ程度の生産性の向上を実現するために利用すべきサービスであると考えられる。
 ワープロや表計算ソフトがもはやどこの企業でも使っていて競争優位となるようなものではように、グループウェアや一般的な販売管理システムであれば多数の企業が共同利用するASPサービスを使ってでも早く他者と同程度の生産性向上を図ることは意義があると考えられるのである。
 ASPサービスをカスタマイズして自社独自の情報システムを実現しようとする動きも一 性、導入スピードを殺してしまうことになってしまう。
 ASP本来の在り方から考えれば、個別企業ごとのカスタマイズは避けられるべきものであり、そのかわりにユーザからの要望を早期に吸収する形でバージョンアップが早い周期で行われるべきであろう。

《インターネット上に社内の重要情報を流すことに問題はないのか》
 インターネットを利用するASPの場合、セキュリティが問題となるのは当然のことであり、利用しようと考えるASPサービスのセキュリティ対策のレベルを調べておくことは不可欠である。
 一般的にはASPサービスが提供するセキュリティ対策はSSLによるパスワードによるユーザ認証と通信データの暗号化である。
 通常、ASPサービスを利用する場合、SSLがサポートされていれば問題はないと思われるが、より高いセキュリティ対策を実現するためには、インターネットプロバイダが提供するインターネット上の専用回線サービス(VPN)の利用などを考える必要がある。
 より高いセキュリティ対策を選択すればそれだけコストがかかるため、業務の重要度と情報化コストとのバランスの中で検討しなければならない。

《故障時や不正アクセスによって発生した損害に対する補償はあるのか》
NTT-ME社のASPサービスでは、ネットワーク故障時だけでなく不正アクセスによるデータ破壊や不正アクセスにょる第三者への賠償責任、サービス停止による売上減少に対しても補償する。
 こうしたサービスについての細かい条件をSLA(サービスレベルアグリーメント)と呼ぶが、SLAの内容が問題となるどころか規定すらされていない場合すらある。
 ASPの利用を考える場合には、ASP事業者が明確なサービス品質のレベルを明示しているか、明示されている場合はその内応(24時間365日運用可能か、障害時などシステム停止の際の対応方法など)について評価することが必要である。
 SLA の充実がASP普及のカギを握るといえるだろう。

【中小企業におけるASPの活用ポイント】
 最後に、中小企業におけるASPの活用ポイントについて述べておく。
 中小企業においてASPは、SLAについては十分注意が必要ではあるが基本的には前向きに利用を検討すべきであろう。
 特に、情報化が他社と比べて遅れている業務については一気に遅れを取り戻すことができるチャンスである。
 情報化投資を抑えながらかつできるだけ早く情報化を始めたいという企業であればASP導入の検討の価値があるはずである。
 自社の業務に適用したい情報化に合致するASPサービスを探し出し、サービス内容と価格について十分に比較調査して欲しい。
 中には「ツー・パート・タリフ」と呼ばれる遊園地のような二重課金を設定していて3年くらいを境目に買取による情報化よりもかえって割高だという悪徳なASPも存在する。
 また、提供機能についてもASP事業者ごとに格差が存在する。
 費用対効果上、最も有利なASPを選択するためには事前にASP事業者から提示されている契約条項についてしっかりと目を通すことが不可欠である。

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