ソフトバンク―付加価値創造指向の経営戦略―


インターネット財閥―企業戦略から群戦略へ―

要旨
 ソフトバンクはパソコンソフトの流通においてナンバーワンの位置を確立した後、現在、インターネット事業におけるナンバーワンの位置の獲得に向けて経営活動を展開中である。
 ソフトバンク孫社長の経営戦略は常にナンバーワン指向であり、パソコンソフトの流通においても創業当初から当時日本最大であった小売事業者の上新電機J&P及び日本最大のソフト開発業者のハドソンとの独占契約を実現している。
 日本ソフトバンク(以後ソフトバングと改名)立ち上げ時代は知名度の向上に奔走しており、創業直後に大阪で行われたエレクトロニクスショーにおいて最高位置のブースを800万円を投じて買いつけ、ブースでの契約獲得はならなかったが、その後の上新電機J&P、ハドソンとの独占契約の布石としている。
 ソフトバンクの経営戦略の本質はターゲット市場における絶対的優位となる地位を確立する点にあり、顧客獲得の積み重ねではなく市場参入の時点から絶対的なシェアの獲得に向けて経営活動を集中させている。
 しかし、絶対的なシェア獲得のためのマーケティング戦略は無謀なものではなく、むしろ着実で正当なものである。
 ソフトバンクにおけるマーケティング戦略は最終顧客、サプライヤーに対する付加価値の最大実現によるサプライチェーンにおける地位確立にある。
 ソフトバンクの取り扱う製品・サービスは質量とも同業他社を寄せ付けず、価格・品質とも最大の付加価値を最終顧客、サプライヤーに提供している。
 ソフトバンクの強みは、最大の付加価値の実現による顧客関係及びサプライチェーンの強化によって、将来におけるキャシュフローを最大化するという経営方針が社内トップマネジャに浸透していることであろう。
 サプライチェーンにおける中間業者は納期及びコストにおいて冗長性を生み出すだけの存在として排除される運命にある。
 しかし、ソフトバンクはサプライチェーンマネジメントを最大経営課題としてとらえており、事実、パソコンハードウェア及びソフトウェアの流通だけをとってもソフトバンクの地位は年々高まっており、小売業者、メーカーの多くがソフトバンクの持つ流通ノウハウに依存している。
 ソフトバンクがサプライヤーと最終消費者とをインターネットでダイレクトに結ぶダイレクト・マーケティングの動向が進む中で、中間業者として排除されない理由は明確である。
 ソフトバンクは「モノ」の仲介ではなく、「情報」の仲介をめざしているからである。
 たとえ、インターネットによるダイレクト・マーケティングが進展しても、最終消費者は商品の選択においてナビゲータを必要とし、サプライヤーは最終消費者との関係強化においてナビゲータを必要とする。
 ソフトバンクでは、現在、リセラ−及び取引先にインターネットを利用して以下の情報サービスを提供している。

 ○ソフトバンクオンライン
  リセラー向け/商品(価格、特徴など)情報の提供、オンライン見積・受注機能
 ○SB-NET
  リセラー向け/リテイルサポートを目的としたマーチャンダイジングデータの提供
 ○MB-NET
  サプライヤー向け/マーケット情報、出荷推移・在庫情報の提供、商品情報・納期回答の問い合わせ

 さらに、最終消費者向けの情報サービスとしては、「ComputerShopperJapan」などの情報誌の発刊をはじめ、「YahooJapan」などインターネットを利用した情報提供を行っている。
 特に、ソフトバンクにおいてはインターネットを利用した情報提供をマーケティング手段として位置付けるのではなく、パソコン関連製品の流通にかわる新たな事業ドメインとして位置付けており、インターネット情報サービスにおけるナンバーワン地位の確立に向けてインターネット関係企業のM&Aをはじめとする経営戦略を展開中である。
 孫社長は6年間の米国留学時代に、今後の主要ビジネスは情報産業となり、情報産業の進展はAIT、AIS、DIT、DISの四つの段階を経るであろうと予測している。
 AITはアナログ・インフォメーション・テクノロジー、AISはアナログ・インフォメーション・サービス、DITはデジタル・インフォメーション・テクノロジー、DISはデジタル・インフォメーション・サービスを意味し、AITの企業は松下やソニー、NEC、AISの企業はディズニーやニューズ・コーポレーション、フォックス、DITの企業はマイクロソフト、インテル、シスコ、そしてDISの企業としてソフトバンクを位置付けている。
 サプライヤー側の製品開発努力が重要なマーケティング戦略となるAIT、DIT企業とは異なり、AIS 、DIS企業では顧客ニーズの把握、サプライヤーシーズの把握に基づくニーズとシーズのコーディネート力が重要なマーケティング戦略となる。
 さらにDIS企業においては、AIS企業の時代における顧客及びサプライヤーとの関係構築がマス・コミュニケーション中心であったのに対して、顧客一人一人のニーズに合ったシーズを提供するサプライヤーをリンクするワンツーワン・コミュニケーションが必要となってくる。
 ソフトバンクは現在、このワンツーワン・コミュニケーションビジネスにおけるナンバーワン企業となるべく事業展開を行っているところであり、現時点において、世界のウェブサイトにおけるページビューランクのトップ12位まででグループ企業が四つ入るなど(ヤフーUSA、ジオ・シティーズ、ヤフーJAPAN、ZDネット。いずれもソフトバンクが筆頭株主)、着実にその目標を達成してきている。
 さらに、今後、インターネット証券取引所NasDaqJapanやインターネット証券会社E*Tradeを始めする電子商取引ビジネスにおける主役を演じることが予測される。
 しかし、ソフトバンクの主たるビジネスドメインがパソコン関連流通からインターネットビジネスにシフトしたとしても、マーケティング戦略の基本は最終顧客及びサプライヤーに対する付加価値提供にある。
 顧客重視、サプライチェーン指向のマーケティング戦略はあらゆる事業分野において参考となるものであると考える。
 ソフトバンクにおける経営課題は良質のサプライヤーの選別と関係強化であり、最良のサプライヤーとのパートナーシップによる最終顧客に対する最大の付加価値を実現することが全社的に要求されている。サプライチェーン全体の付加価値創造を演出できる有能な社員やパートナー企業の育成が孫会長の最大関心時であると予測できる。

ソフトバンクの事業内容と業績―企業戦略から群戦略へ―
 ソフトバンク株式会社(東証一部:9984)は昭和56年(1981年)9月3日に資本金1,000万円で創立され、平成11年(1999年)5月31日現在、資本金107,377,805,286円、発行済株式数:105,641,259株を有する巨大企業に成長した。事業としてソフト・ネットワーク事業の他、ファイナンス事業、メディア事業、展示会事業、インターネット事業、サービス事業を展開している。
 ソフトバンクが自社ウェブサイトのインベスター・リレーションズページ上で公開している最近の業績をみると、単体決算では、1994年度が売上高964億円/経常利益46億円、1995年度が売上高1,402億円/経常利益130億円、1996年度が売上高1,968億円/経常利益234億円、1997年度が売上高2,050億円/経常利益262億円、1998年度が売上高2,034億円/経常利益212億円と推移しており、また連結決算では1994年度が売上高968億円/経常利益45億円、1995年度が売上高1,711億円/経常利益143億円、1996年度が売上高3,597億円/経常利益278億円、1997年度が売上高 5,133億円/経常利益 242億円、1998年度が売上高 5,281億円/経常損失154億円と推移している。
 実は、ソフトバンク自身は売上高や経常利益よりも、保有株式など将来受け取りが予想できるフリー・キャッシュフローを重視している。一年間にどれだけ株主の価値を増やすことができたかを示すEVA(エコノミック・バリュー・アデッド、経済付加価値)の将来期待額、未来のEVAを総合計したMVA(マーケット・バリュー・アデッド、市場付加価値)の向上を経営使命としているのである。
 MVAは将来における株価の推移によって変動する可能性があるため、未実現の期待利益で経営判断を行うことは不安があるが、ソフトバンク孫社長には現在展開しているインターネット事業分野に対する投資について長期的な収益逓増の法則を確信している。インターネットにおける情報サービスが当初巨額な投資が必要でもつくればつくるほど利益が生まれる事業であるという経営信念である。
 ソフトバンクはこの経営信念にもとづき、1995年米国の赤字ベンチャー企業であったYahooに対して115億円を出資し、日本でのYahooJapanの設立から始まり、GeoCities、E*Trade、Ziff-Davis、USWeb、CyberCashなど次々とインターネット・情報サービス会社に的を絞り積極的な投資活動を行ってきた。
 最近では、デジタル衛星放送SkyperfectTVへの出資、マイクロソフトとの共同出資によるインターネット自動車販売会社CarPointの設立などインターネット事業分野における投資活動を強めている。
 ソフトバンクは1999年2月10日に臨時株主総会を開き、1999年4月から事業持株会社に移行することを決めた。(税制改革に合わせて将来純粋持株会社に移行する。)
 その理由を孫社長は臨時株主総会において、以下のように述べている。

「インターネット業界は変化が著しく、サービス・コンテンツも世界各国にまたがって広がっています。
 このような状況においてトップのポジションを取っていくためには、一つのブランドで一つの器であらゆる事業をやるというの限界があります。自己増殖し、自己進化することで企業価値を極大化できるような組織体系が必要です。
 デジタル情報サービス産業において世界一になるためには、インターネットのソフトバンクであるというほどまでにインターネットに集中していきたいと考えています。
 そのためには、分社化を進めるとともにインターネット情報サービスにおけるナンバーワン企業に積極的に出資し、ヤフーのソフトバンクであり、ジオシティのソフトバンクであり、Eトレードのソフトバンクというようにそれぞれの分野での世界ナンバーワンの企業をグループ化してまいります。」

 現在のソフトバンクは創業時代におけるパソコンソフト流通から、完全にインターネット・情報サービスへ事業ドメインをシフトしている。
 過去に実施してきたパソコンのハードウェア・ソフトウェアの販売や出版事業といった事業は全てインターネット・情報サービスという事業ドメインの中で統合されている。
 そして、臨時株主総会における孫社長のコメントにみられるように、ソフトバンク単独による単独企業戦略ではなく、他社ナンバーワン企業に積極的に出資、提携する群戦略と呼ぶ巨大なグループ戦略を指向している。
 ソフトバンクがインターネット関連で出資している会社は百社を超えており、その多くは株式未公開企業である。またソフトバンクは出資の程度を30パーセントの支配に限定している。
 株式を保有する企業の自己努力による自己進化を求めるため、対等のパートナーシップを形成するためである。
 ソフトバンク孫社長の口癖は「オープンライクなインターネット財閥を築くこと」である。
 過去の財閥が中央集権指向で閉鎖的・階層的であるのに対して、分権指向でオープン・フラットな起業家の集合体としてのインターネット財閥の実現をめざしているのである。
 なお、現在、インターネット業界の株式時価総額40兆円のうち、約20%、時価総額で8兆円相当の会社にソフトバンクは出資し、1998年中にかかった資本コストの200億円を差し引くと1兆4,440億円の投資有価証券の含み益を得ている。

業界構造と傾向
【需要要因】―インターネット情報サービス産業の急成長、物販から金融まで―
1.爆発的に急増するインターネット利用者
 インターネットは各国のコンピュータ・ネットワークが互いに接続し合った世界規模のネットワークである。
 1969年米国防総省で始まったコンピュータ・ネットワークが母体で、1990年代に入って商用用途にも飛躍的に増大した。
 電子メールをやりとりできる国は約150ケ国、接続されているコンピュータは約1,000万台、利用者数は推定1億人以上といわれている。
 わが国のインターネット利用者数も急増しており、日経BP社が1997年9月に実施した第2回全国インターネット普及率調査によると、インターネット利用者は860万人,WWW(ホームページ閲覧)利用者は555万人となっている。
 また、調査会社のIDCジャパンはパソコンやモデムの出荷台数や各種アンケート調査などからわが国のインターネット利用者の数を推測して、インターネット利用者数は2000年には3000万人を越えると予測している。
 インターネットの利用は性別での格差がまだ大きく、WWW(ホームページ閲覧)のうち,女性比率は14.6%にとどまる。
 女性全体の人口比では,WWW(ホームページ閲覧)利用比率は1.5%に過ぎない。しかし、1年以内にインターネットを利用したいとする人の数は,全国で男性が約500万人、女性が約400万人になり、女性が半数近くを占めるという数字が出ている。
 野村総合研究所と東京大学社会情報研究所橋本研究室が共同で行った『インターネット利用者アンケート』の結果によると,1997年7月までの1年間にインターネットに加入した人は,女性回答者では52.4%と過半数を占めたのに対して,男性では3割程度と低かったという結果も出ている。
 インターネットに対する認知度は非常に高く、パソコン通信事業者のニフティーサーブが1996年10月に実施した調査では、「インターネット」という言葉の認知率は東京圏で92%、大阪圏で90%という数字が出ている。
 1995年の認知度64%(東京圏のみ調査)から大幅に上昇したことが報告されている。
 また、郵政省の平成9年版『通信白書』によると、日本におけるサイバービジネスの1996年度の市場規模は約285億円であり、前年度の7億円から約40倍に拡大していることがわかる。

2.インターネット情報サービス産業の急成長
 ソフトバンクのインターネット戦略を成功に導く需要要因としてもう一つ、インターネット情報サービス産業の急成長があげられる。
 インターネット利用者の急増を受けて、ヤフーなどホームページ検索サービスをはじめとして、各種オンラインショッピングサービスが急増している。
 オンラインショッピングで購入される品目も多様化しており、従来対象外と思われていた自動車や旅行、金融商品といった高級買回品まで購入されるようになってきている。
 ソフトバンク孫社長は、日本のインターネット市場の動向は米国のあとを追いかけるように進んでいくことに着目し、タイムマシン戦略と呼ぶ事業戦略を展開している。
 タイムマシン戦略とは、米国で成功した企業が日本でも成功することを予測してその企業に先行投資したり、米国で成功したサービス事業を日本で事業化するものである。
 ホームページ検索サービスのヤフージャパンにはじまり、直近のインターネット証券取引所ナスダックジャパンの開設まで、ソフトバンクの積極的な事業展開はこのタイムマシン戦略によるインターネット需要の予測に裏打ちされたものである。
 米国ナスダックの時価総額上位20社のうち、情報通信関連のベンチャー企業は16社に上り、マイクロソフト、シスコシステムズ、オラクル、サンマイクロシステムズ、ノベルといった情報通信分野において圧倒的シェアを誇る企業が名を連ねている。
 我が国においても、ナスダックジャパンがベンチャー企業に対する資金獲得のチャンスを与え、インターネット情報サービス産業の成長に加速力を与えることが期待される。
 ソフトバンクの事業戦略の優れた点はインターネット事業の展開がまた、需要要因として機能していくところにある。

【供給要因】―インターネット情報技術・応用サ−ビスの進展―
 コンピュータ業界は高価な大型コンピュータの時代から廉価なパーソナルコンピュータによるネットワークの時代へと移行してきた。
 現代におけるコンピュータの主役は廉価なパソコンであり、パソコンは企業や学校、家庭など至る所に導入されている。
 ソフトバンクはまず、創業時代にこのパソコンのソフトウェアに着目した。
 コンピュータはソフトウェアがなければただの箱であり、パソコンの普及とともにパソコン用のソフトウェアに対するニーズが高まっていった。
 パソコンはハードウェア自体が廉価であることから、パソコン用のソフトウェアも廉価である必要があり、機能を標準化したパッケージソフトの登場は必然的であった。
 ソフトバンクはソフトウェアの不正コピーや劣悪ソフトウェア業者などと戦いながら、良質のソフトウェア業者の発掘とパッケージソフトの流通を進めてきた。
 そして、ソフトバンクは現在、パソコンソフトウェアの供給から、インターネットサービスの供給へと移行している。
 インターネットというネットワーク機能を獲得したパソコンはさらに進化し、パーソナルなコンピュータからインターネットを通じて様々な情報サービスを受けることのできるサービス利用機へとその姿を変貌させた。
 パソコンは単体で利用することもできるが、インターネットを通じて情報や機能を共有する形で利用する形態が急増している。
 ソフトバンクではやくからパソコンを取り巻くこの変化を察知しており、事業使命をパソコンソフトの供給からインターネットサービスの供給へとシフトしてきた。
 従来、良質のソフトウェア業者の発掘とパッケージソフトの流通を進めてきたのと同じように、現在では良質のインターネットサービス業者の発掘とインターネットサービスの普及を進めている。
 パソコンソフトの側においても、インターネット対応は再重要課題であり、ワープロや表計算ソフトだけでなく、業務パッケージソフトにおいてもBtoB(企業対企業)の電子商取引への対応を進めるなどインターネット対応が急ピッチで進んでいる。
 また、インターネットを通じて企業間の取引データをやりとりを盗聴されることなく確実に伝達するため、暗号化や認証などのセキュリティ対策機能が強化されてきている。
 現在では、注文にはじまって出荷依頼、納品通知、請求、そして金融機関への支払指示までインターネットを通じて行うことができる。
 パソコンを中心とするコンピュータ業界の動向は高価な大型コンピュータの時代から、パソコン単体利用の時代を経てパソコンインターネット時代へと展開してきた。
 ソフトバンクは常にコンピュータ業界のトレンドを明確にとらえて、情報技術関連の商品・サービスを一貫して供給してきたといえるであろう。

【競争状況】―インターネット財閥による群戦略―
 ソフトバンク孫社長はインターネット財閥の形成をめざしている。
 しかし、ソフトバンクの目指すインターネット財閥は従来の財閥とは全く性質の異なるものである。
 ソフトバンクの目指すインターネット財閥は閉鎖的で中央集権的な階層構造体ではなく、開放的で分権的なフラット構造の起業家の集合体である。
 ソフトバンクは開放的で分権的なフラット構造の起業家の集合体によるインターネット財閥の形成戦略を群戦略と呼んでおり、ソフトバンクは各企業の株式のうち30%前後を保有することだけを目指している。
 各企業はソフトバンクに支配されているのではなく、ソフトバンクとパートナーとしてアライアンス関係にあるだけである。
 ソフトバンクはインターネット事業を展開していく中で、単一企業による競争力を確保は困難であると考え、ナンバーワン企業との提携によるインターネットの企業集団化を目指した。
 株式30%前後の保有というゆるやかな支配によって、財閥を構成する企業は独自性を失うことなく、自己増殖・自己進化を続けていくことができる。
 ソフトバンクの群戦略は他社に負けないコアコンピンタンスを有するナンバーワン企業同士が戦略的アライアンスを結ぶことによって、最強の仮想企業体の実現を目指すものである。
 また、インターネットの企業集団化は結果として、全産業にまたがる提携を生み出し、様々なシナジーをもつくり出した。
 Yahooなどホームページ情報サービス事業者がEyeBallと呼ばれるEyeBallトラフィック(目玉の交通量)を押さえ、E*Tradeなどインターネット金融関連事業者がFinanceトラフィック(金融の交通量)を押さえ、さらにONSALEなど電子ショッピング事業者がE-Commarceトラフィック(財布の交通量)を押さえはじめている。
 EyeBallトラフィックとはWebサイトのアクセスページ数であり、YahooやZDNet、GeoCitiesなどの筆頭株主であるソフトバンクはインターネット上で人が集まる最高の繁華街として一等地を押さえたことになる。
 Financeトラフィックにおいても、株式・投信等の取引・マーケット情報サービスを提供するE*Tradeをはじめとして、電子決済のCyberCash、インターネットファイナルシャルアドバイザー事業のE-アドバイザー、金融商品比較情報を提供するMORNINGSTAR、消費者金融のE-LOAN、外為及び海外送金のFOREXBANKに加えて、インターネット証券取引所のNasdaqJapanなどとインターネット上の金融街を構成するまでに至っている。
 また、E-Commarceトラフィックにおいても、インターネットを利用したパソコン関連商品や家電商品、日用雑貨などのオークションを行うオンセール社(会員67万人)をはじめ、マイクロソフト社との合弁によるインターネット自動車販売仲介サービス会社カーポイント社の設立、書籍のインターネット通販を行うeS-Booksの立ち上げなど、EyeBallトラフィックとFinanceトラフィックの優位性を生かした事業展開を行っている。
 以上のように、ソフトバンクは一般的な競争戦略を実施するのではなく、ナンバーワン企業とのWinToWin型の戦略的提携を結ぶことによって、サプライチェーン全体の付加価値を高める戦略をとっている。
 インターネット情報サービスに特化したパートナーシップ型の経営を行う事業者としてソフトバンク社に匹敵する企業は見当たらず、今後ますますソフトバンクを中心としたインターネット財閥は成長していくものと思われる。

【外部要因】―規制緩和の進展とセキュリティ技術の進歩―
 ソフトバンクが展開するインターネット情報サービスにおいて、外部的な影響要素として法的制度及び情報技術に関して変化が生じてきている。
 創業時代におけるソフトウェアの流通事業においても著作権法保護という追い風が吹いたように、インターネット情報サービスの展開においても、規制緩和という形で追い風が吹き始めている。
 しかし、著作権法保護のときも規制緩和の場合も、行政はソフトバンクの起こした旋風を後追いで追認する形となっているだけであり、結果的にソフトバンクが時代の最先端を突き進んでいたことが見えてくるだけである。
 しかし、規制緩和はソフトバンクの考えるインターネット先進国である米国情報サービスの遅延輸入というタイムマシン戦略を推進するものである。
 規制緩和はソフトバンクが支援するインターネット企業集団に有利に働く。規制緩和によって、インターネット金融サービスなど新たなエレクトロニック・コマースが登場しやすくなるだろう。
 もうひとつの外部的な影響要素である情報技術の発展はドッグイヤーと称されるように、他技術ならば3年から5年かかる技術進歩が1年で実現してしまう。
 インターネットを取り巻く情報技術についても数年前と比べると格段の進歩があり、特にエレクトロニック・コマースの世界において安全で確実な商取引を確保するために必要となるセキュリティに関する情報技術が大きく進歩している。
 データの暗号化や本人認証などのセキュリティ技術の向上によって、データ盗聴やなりすましなどの不正行為から利用者を確実に守ることが可能となった。
 インターネット証券会社であるE*Tradeなどでは、セキュリティ最高水準の128ビットの暗号キーを使用することによって利用者に安全性を訴えている。
 以上のように、規制緩和の進展とセキュリティ情報技術の進歩はソフトバンク孫社長が予測した今後におけるインターネット情報サービスの発展局面と動きを一致するものとみることができる。
 インターネット企業は規制緩和と情報技術の追い風を受けながら、情報システムの活用によるコストの圧縮と取引スピードの光速化(CALS)を図るとともに、Yahooなどのポータルによる顧客の獲得と、電子メールを利用したワンツーワンマーケティングによって顧客ロイヤルティを高めていく。
 規制緩和は結果的に、情報技術を活用する勝ち組みと情報技術を活用できない負け組みに明確に区分けすることになるだろう。

ソフトバンクのマーケティング戦略―インターネットによるバリューチェーン改革―
【デジタル・インフォメーション・サービス】
 孫社長は6年間の米国留学時代に、今後の主要ビジネスは情報産業となり、情報産業の進展はAIT、AIS、DIT、DISの四つの段階を経るであろうと予測している。
 AITはアナログ・インフォメーション・テクノロジー、AISはアナログ・インフォメーション・サービス、DITはデジタル・インフォメーション・テクノロジー、DISはデジタル・インフォメーション・サービスを意味する。
 AITはテレビやラジオのメーカー、印刷機械メーカーなどアナログの情報テクノロジーを提供している企業が主役であったステージであり、松下やソニー、NECなどが該当する。
 AISはAITを使って情報を提供する新聞社、テレビ局、映画会社などのメディアが主役であるステージであり、ディズニーやニューズ・コーポレーション、フォックスなどが該当する。
 DITはパソコンのハードやソフトのメーカー、ネットワーク・インフラなどのテクノロジーを提供する企業が主役となっている現在のステージであり、マイクロソフト、インテル、シスコなどが該当する。
 そしてDISはDITを道具として使いこなしてデジタル情報サービスを提供する企業が主役に踊り出る将来のステージであり、ソフトバンクはこのDISにおける主役を演ずることを目指して事業を展開しているのである。
 DISは現代においてインターネットという具体的な形となって生まれてきた。
 DISがAISと同様にメディア的な役割を演じることができるかについてここに興味ある数字がある。
 米国の調査によると、メディアが5千万世帯まで普及するまでに要した年数で新聞が100年、ラジオが38年、テレビが13年、ケーブルテレビが10年、インターネットが5年という数字が出ている。
 それぞれのメディアが登場した時代背景が異なるという点を差し引いてもインターネットの利用人口は爆発的に増加していることに疑う余地はない。
 しかし、DISはAISと決定的に異なる点がある。
 メディアとして機能するだけでなく、チャネルとしても機能する点である。
 つまり、利用者は商品やサービスについてインターネット広告を通じて認知するだけでなく、そのまま購入することもできる双方向性を有しているのである。
 しかも、AISと比べてみると、24時間いつでも好きなときに好きな場所からいつでも利用者側から検索サービスなどを使って情報を好きな形で取出すことができる。
 さらに情報発信側は利用者側と電子メールを使ったワンツーワンのサービス提供や販促活動が可能となる。
 また、今後、利用者側の利便を高める情報サービスが次々と登場してくる。
 利用者側は複数のエレクトロニック・コマースサイトにそれぞれ個人情報を登録しなくても、利用者エージェントと呼ばれるサイトが利用者の個人情報の公開を管理し、プライバシーの保護と利便性の両者を同時に達成してくれる。
 ソフトバンクでは、将来、全ての産業において企業価値の多くがインターネット上に実現されると予測している。
 そのとき、ソフトバンクはDISフェーズにおける主役の座を完全に獲得することになるのであろう。
 創業時代、孫社長はソフトバンクの事業を将来性のある情報産業にターゲット化し、その中でもソフトウェアの重要性に着眼した。
 しかし、パソコンOSについては世界市場の半分を握る米国からデファクト・スタンダードが出ることを予測し、将来、質量ともに需要が大きくなることが推測されるアプリケーションソフトの流通に事業を絞り込んだ。
 DITにおいてもインターネット先進国である米国からデファクト・スタンダードが出る可能性が高く、DITを活用するDISの分野での事業展開を行う現在のソフトバンクの経営戦略はまことに的を得たものであると思われる。
 しかも、マイクロソフトのWindowsに振り回されていたアプリケーションソフト流通ビジネスとは違い、DIS側が主役となってDITを活用することができるのである。

【バリューネットワーク】
 ソフトバンクはDISの展開において、従来のバリューチェーンではなく、インターネットを前提とした新しいバリューネットワークが形成されると考えている。
 インターネットを前提とした新しいバリューネットワークにおいては、Yahooなどのポータルサイトとが重要な役割を果たす。ポータルは顧客と供給者に対するサイバースペース(インターネット上の情報流、商流)への入口及び出口となる。
 ポータルはサイバースペースにおいて需要(顧客)や供給(サプライヤー)を発見できることを裏付けるものである。
 ポータルにアクセスすることによって、顧客もサプライヤーも従来ならば発見できなかった相手方を時間と距離の制約を越えてサイバースペース上で探すことが可能となるのである。ソフトバンクはポータルサイトにおいてYahooなどで圧倒的シェアを獲得している。
 ポータルを通じて顧客とサプライヤーが接触するのがエージェントである。
 エージェントは顧客とサプライヤーの代理人として、購買や販売の意思決定に必要な情報を収集したり検索、集約、通知等を行う。
 洋書販売のアマゾンコムがサイト上で提供している売れ筋ベスト情報や書籍情報やユーザからの書評のデータベース検索サービス、電子メールによる新本紹介などがエージェントとしての活動にあたる。
 エージェントを通じて顧客とサプライヤーから出された購買や販売意思は、マーケットメーカーに伝達される。
 マーケットメーカーは膨大な数の需要と供給とのマッチングを行い、価格形成と取次を行う。
 バリューネットワークは、これらのポータル、エージェント、マーケットメーカーに加えて、相手の認証と代金の決済を確実に行う認証・決済インフラプロバイダーと、実際の物流を受け持つロジスティクス・インフラプロバイダーから構成される。
 実際にはアマゾンコムのように、マーケットメーカーの機能とエージェント機能とを同時に提供する企業もあれば、デルのように、サプライヤーがマーケットメーカーの機能とエージェント機能を全て行い顧客にダイレクトにつながるケースもある。
 しかし、その場合でも自社で全てを行うのではなく、市場競争力のある強いパートナーとネットワークを形成し、一つのバリューネットワークすることが可能となるのである。
 得意分野を持つ強い企業同士が提携することによって、ベスト価格及びベネフィットを提供することがバリューネットワークの狙いである。
 また、バリューネットワークを構成する要素企業同士の情報共有もインターネットを利用することによって、情報の時間差を生じることなく機能連携していくことが可能となる。
 デルにおける部品サプライヤーや物流会社との情報共有がそれにあたる。
 ソフトバンクのバリューネットワークに対する戦略は少し複雑である。
 自社自身もバリューネットワーク化を図ると同時に、既存バリューチェーンのバリューネットワーク化の推進によるDISの展開を目指していること、ポータルや認証・決済インフラプロバイダーなどバリューネットワークにおけるインフラ部分の事業を展開していること、そして、インターネット上のナンバーワンバリューネットワークを株式30%前後の支配によるインターネット財閥の実現を究極の経営使命としていることが挙げられる。
 自社におけるバリューネットワーク化については、ソフトウェア流通などの分野において販売店やメーカーとの情報共有、関係強化をサプライチェーンマネジメントシステムの見直しも含めて推進している。
 既存バリューチェーンのバリューネットワーク化の推進については、エレクトロニック・コマースやサプライチェーンマネジメント情報システムの構築において、資金支援をソフトバンクが技術支援をソフトバンク・テクノロジー社がそれぞれ行っている。
 ポータルや認証・決済インフラプロバイダーなどバリューネットワークにおけるインフラ部分の事業の展開については、YahooやCyberCashなどナンバーワン企業への出資によるバリューネットワークにおけるインフラ部分のソフトバンくブランドの確立を狙っている。
 最後のバリューネットワークのゆるやかな支配を実現するために、ソフトバンクは純粋持株会社への移行を進めている。いずれにしても、良質のバリューネットワークを構築推進していくことは、DISフェーズにおける主役の座を獲得するために不可欠な戦略である。
 良質のバリューネットワークの増殖がインターネットの魅力を増し、さらにインターネットユーザ数を増やしていく。
 バリューネットワークにおいてもはや国境は無意味となるため、ソフトバンク社としてはバリューネットワークの要素企業が国内企業である必要はない。
 逆に国内企業がバリューネットワークの要素企業となる場合、パートナー企業を海外に求めてもおかしくない。
 より良質のバリューネットワークを実現していくためには、グローバルなバリューネットワークの構築が必要となってくると推測できる。
 国際的な戦略的アライアンスの在り方について明確なフレームワークを準備してくことがソフトバンクにとって、将来、重要な意味を持つと思われる。
 ソフトバンクが良質のバリューネットワークの構築にこだわる理由はインターネット市場の拡大だけではなく、将来拡大したインターネット市場における絶対的なソフトバンクブランドの確立にある。
 現時点においても、Yahoo、GeoCities、E*Trade、Ziff-Davis、USWeb、CyberCash、CarPoint、NasdaqJapanなどインターネット市場におけるソフトバンクブランドの育成は成功過程にある。
 良質なバリューネットワークの提供こそ、ソフトバンクにとっての顧客満足なのであり、ソフトバンクにとっての顧客とはインターネット利用者に他ならないと言える。
 また、良質なバリューネットワークを維持することはインターネットにおけるソフトバンクブランドを維持するために不可欠であるが、良質のバリューネットワークを発掘し育てていくノウハウについては、パソコンソフトの流通ビジネスで養ってきた選択眼がコアコンピタンスとして引き継がれているようで興味深い。
 バリューネットワークの構築においては、要素企業は皆、最終顧客を共有するパートナーとして戦略的アライアンスを結ばなくてはならない。
 ソフトバンクのバリューネットワーク戦略は最終顧客も含めてメンバー企業全てが付加価値を交換することによって、誰もが損をしないWinWinの関係を実現するものである。
 ソフトバンクのマーケティング戦略はインターネット全体におけるインターネット利用者のニーズとサプライヤーのシーズを把握し、インターネット利用者のニーズとサプライヤーのシーズとを最適にマッチングさせるための良質のバリューネットワークの構築していくことにあると考えられよう。

ソフトバンクにおける今後の課題―バリューネットワ−クの強化−
【情報システム】
 良質のバリューネットワークを構築するためには、要素企業の資質が最重要となるが、道具としての情報システムの質も重要である。
 新たなバリューネットワークを構築する場合、ツールとして利用可能な情報システムが必要となる。
 デルやアマゾンコムなどバリューネットワーク先進企業は独自に高機能のERP統合業務管理システムやサプライチェーンマネジメントシステムを有している。
 ソフトバンクが今後、良質のバリューネットワークを増やしてインターネット財閥を拡大していくためには、バリューネットワークの構築ノウハウをツールとして標準化することによって、バリューネットワークへの取り組みを容易化していくことが必要と考える。
 インターネット企業による新しいバリューネットワークが、既存バリューチェーンを打ち破るためには、ツールとしての情報システムの品質が重要となる。
 また、バリューチェーンごとに情報システムの品質差があると、バリューチェーン間でのさらなるネットワークを実現することができなくなる。
 バリューネットワークの構築を支援するツールとしての情報システムをパッケージソフト化、あるいはサービスプログラム化することによって、インターネットビジネスに参入する企業が増えることが期待できる。
 また、ソフトバンクのインターネット財閥の戦略は株式30%保有という資本による支配をとるものであるが、バリューネットワーク構築のためのインフラを支配することによって、より強固なものとすることができるであろう。
 バリューチェーンの構成においては、要素企業間の密結合のために情報共有及び機能連携のしくみが不可欠である。
 そのためには要素企業間における業務及び情報の標準化が必要となる。
 ISO9000などグローバルスタンダードに基づくERP統合業務管理システムや、要素企業間における情報共有及び機能連携を実現するサプライチェーンマネジメントシステム、最終消費者やサプライヤーとのインタフェイスを担うエレクトロニック・コマースシステムなど、バリューネットワーク構築のために必要となるインフラ情報システムの重要性は今後ますます高まるだろう。
バリューネットワーク構築のために必要となる情報システムの構築を推進するのはソフトバンク・テクノロジー社と役割となると思われる。

【社員】
 ソフトバンク社の持株会社化によって、ソフト流通などの事業単位はグループ会社へと移行することになる。
 インターネットによるバリューネットワークの構築を推進するソフトバンク自身もバリューネットワーク化していくことになるのである。
 自社の強みとして同業他社に負けないコアコンピタンスをソフトバンクグループ会社も持たなければより強いコアコンピタンスを有する同業他社に取って代わられることも有り得る。
 ソフトバンク社員自体がバリューネットワークにおける自己の存在意義について理解し、行動することが要求されるのである。
 ソフトバンク社員の士気は一般的な企業と比べて非常に高い。
 ストックオプションの導入などによって、社員のモチベーションが高まってることもあるが、ソフトバンク社員に見られるもっとも大きな特徴は企業家精神であろう。
 ソフトバンク社員は歯車としての仕事をこなすのではなく、一人一人が業務目標を持ち、行動している。
 各部門における日次決算のしくみに代表されるように部門が一企業のように機能しており、各部門長は経営者のように責任と権限を有している。
 しかし、ソフトバンク社員には今後、さらに企業家精神が一層求められることになる。
 ソフトバンクが推進するバリューネットワークの考え方を進めていくと、アウトソーシングした方がより高いバリューを実現できるのであれば、社内の業務を外部パートナーに任せることが当然の結果として起こってくる。
 ソフトバンクが内部で行う方が全体のバリューチェーンにおいて高いバリューを実現できる業務のみがコアコンピタンスとして社内に残ることになる。
 したがって、コアコンピタンス業務を行える社員のみしか社内に残す必要がなくなる。
 逆に言えばソフトバンクにとっては社員と外部パートナーとを区別することはバリューネットワークの観点から見ればあまり意味がなく、自社にとってのパートナーが社内にいるのか社外にいるのかだけの違いとなる。
 社内にとどまる場合であっても、バリューネットワーク全体への貢献度が低い社員は評価が低くなり、貢献度が高い社員はますます評価が高くなるであろう。
 ソフトバンクにおいて必要な社員はコアコンピタンスとして機能してキャシュフローを生み出す資産である。
 バリューを生み出すナレッジ資産の実態である社員を育成・確保することが重要な内部戦略となると思われる。
 また、ソフトバンクのインターネット財閥戦略を推進していくためには、インターネットにおけるソフトバンクのブランドを強固なものにしていかなくてはならない。
 そのためには、ソフトバンク社員がDISの概念を理解し、DISの概念について積極的に内外で展開して理解者を増やしていくことが重要となるであろう。

【インベスター・リレーションズ】
 バリューネットワークの展開のためには、要素企業同士がお互いのことを十分に認識できるしくみが必要となる。
 特に、持株会社となるソフトバンクにとっては、ソフトバンクグループ企業に加えてインターネット財閥のメンバーとも言うべき投資先企業の事業状況をタイムリーに把握することが重要となってくるだろう。
 ソフトバンクは投資家に対して自社ホームページ上でアニュアルレポートの公開などインベスター・リレーションズを展開しているが、一般的にはインベスター・リレーションズを質量とも十分に行っている企業は少ない。
 ERP統合業務管理システムやサプライチェーンマネジメントシステムといったバリューチェーン展開用のツールの提供に加えて、インベスター・リレーションズについてもホームページなどによる情報公開を行うためのの標準テンプレートを開発し提供することが必要となると考える。
 また、バリューチェーンの展開においては、新たな企業との戦略的アライアンスを実現するために、相手先企業に関して十分に知ることのできるしくみが必要である。
 ホームページ上でのインベスター・リレーションズページの提供や、バリューチェーンを構成する候補企業をカテゴリ別にデータベースに登録しておき、企業情報の検索や問い合わせが可能な電子取引所のしくみも検討すべきであろう。

最後に
 将来、バリューチェーンを構成する企業あるいは候補企業は、ナンバーワン企業に絞られることになるだろう。
 有能な社員に裏付けられた強いコアコンピタンスを持ち、業務についてはISO9000やISO14000、あるいは国際会計基準などグローバルスタンダ−ドによって標準化され、さらにはインターネットによる情報公開や機能連携が可能な情報システムが整備されている企業同士が結合し、強いバリューネットワークを構成していく。
 ソフトバンクの投資に危険視する声もあるが、こうした強いバリューネットワークの構築に対して投資を行っていく限り、むしろ成功確率の高い投資であると言える。
 問題は投資先としての強いバリューネットワークの構築をただ待つのではなく、バリューネットワークに対する啓蒙や支援ツールの提供、電子取引所の設立など種をまく仕事を積極的に行っていくことである。
 その結果、インターネットにおけるバリューネットワークの推進者、あるいはDISフェーズの盟主としてソフトバンクのブランドは不動のものとなるであろう。
以上

参考文献
『孫正義インターネット財閥経営』(滝田誠一郎著 実業之日本社)
『孫正義ソフトバンク王国の挑戦』(霧生 廣著 日本能率協会マネジメントセンター)
『インターネットの超新星孫正義』(清水 高著 財界)
『eエンタープライズへの挑戦』(アンダーセンコンサルティング著 ダイヤモンド社)
ソフトバンク社ホームページ(www.softbank.co.jp)

関西学院大学院MBAコース研究成果に戻る関西学院大学院MBAコース研究成果に戻る
ホームページに戻る ホームページに戻る