ポストインダストリアル・ソサイティーを生き抜く
―バイオ的発想からみた脱工業社会の意義とニュービジネス展望―


【要旨】

 蒸気機関技術による機械生産と活版印刷技術によるマスコミュニケーションによって始まった大量生産大量消費の工業社会はその後さらに、石油・電気・ガスといった新しいエネルギー、ラジオ・テレビによる放送技術を獲得して世界中に拡大していった。
しかし、工業社会における顧客ニーズを画一的にとらえて少数派を無視するプロダクトアウトのマーケティグスタイルは、特定の利益実現の名目において自然資源の無計画な消費や廃棄物の不法投棄による自然破壊、あるいは一方的な製品便益の押し付けによる顧客の慢性的な不満足や買い替えによる浪費といった負の資産を増やし続けていった。
こうした工業社会の問題点を反省して1970年代頃から脱工業社会への動きが新しい技術革新の動向とあいまって強まってきた。
大量生産大量消費がもたらした環境問題、物質経済だけでは決して得ることのできないゆとりや豊かさへの注目といった社会動向と歩調を合わせるように、コンピュータによる家電や機械設備のインテリジェント化、電話による双方向通信の実現など初期の脱工業社会における技術革新を経て、特に昨今におけるインターネットの普及やバイオ・テクロノジーなど、ちょうど工業社会における機械生産と活版印刷技術にとってかわるような人間の持つ高度な情報や知識が主役となる新しい脱工業社会時代の技術が活躍しはじめている。
脱工業社会においてはビジネスのスタイルも大きく変わらなくてはならない。
一人一人の顧客にとって最大の顧客満足を実現するためには表面的な物質的商品の提供ではなく、顧客が有するより本質的な課題を洞察し将来に向けてより望ましい解決策を提案していくワンツーワン・マーケティングとソリューションセリングが必要となってくる。
また、製品開発の分野においても、試行錯誤の時代から既存知識の活用による効率的な研究活動が求められてくるだろう。
脱工業社会におけるビジネスでは、顧客、流通事業者、生産者、研究者などあらゆる立場の人達がインターネットというネットワークによって生物組織的に連結し、各器官が有機的に調和し相互的に働き合うという特徴をしっかりと認識することが必要である。
 脱工業社会にふさわしいニュービジネスは、事業プランの全てを自らで企画・製作して一方的に展開するのではなく、社外リソースを積極的に利用して顧客価値をいかに最大化するか全体指向で考えるセル(細胞)的企業ではないだろうか。
ITやバイオといったニューテクノロジーに関連する企業であっても工業社会的な利己主義的な発想による事業を展開する限り、セル(細胞)的企業にとって代わられる可能性が高いだろう。
全てのものが平均的に画一化され、異質で少数のものを否定してきた工業社会は、今、一つ一つがそれぞれ個性を持つセル要素が多次元なネットワークを形成し、様々な多様性を実現する脱工業社会にとって代わられる運命にある。
人や企業が独立的な価値を持つセル要素として尊重され、ダイレクトにいくつもかついく重にもネットワーク結合して組み合わせによる新しい価値を生み出していくことだろう。
遺伝子が塩基やアミノ酸の組み合わせによって様々なタンパク質を生み出しているように、人や企業が持つ多様な価値をどのように組み合わせるかというマネジメント、すなわち「知識」、「知恵」が脱工業社会における最大の価値物となるのではないだろうか。

【工業社会の意義と限界】

■物理と化学テクノロジーに基づく大量生産―浪費と不満足を生み出す不完全市場―

工業社会は物理と化学テクノロジーに基づいて大量生産を展開する社会であった。
石油やガスといった天然資源を利用してエネルギーを獲得し、大規模機械設備や化学プラントを駆動して規格化された製品を大量生産する工業社会スタイルは、人力、家畜力のみをエネルギー源としていた前工業社会が生産能力の限界から苦しんでいたモノ不足の状況から人々を開放した。
しかし、その一方でエネルギーや原材料となる天延資源を消耗し続けただけでなく、製品のつくりすぎによる廃棄物の増加や規格品が溢れることによる不満足感の増大という新たな問題を生み出した。
工業社会は生産力の劇的な増大という大きな前進を実現したが、逆に環境破壊や慢性的な不満足感、機械設備の事故リスクなど前工業社会に比べて大きく後退した点について見落とすことはできないのである。

■試行錯誤による技術の単独発展―技術のエゴと対立による矛盾と停滞―

 従来の発明、発見は少数の専門家が単独の研究によって実現してきた。
発明・発見された技術間における関連性も事後的に考慮されたものであり、場合によっては技術間で対立が生じたり個々の技術の持つエゴによって他の技術の発展を阻害するといった技術発展史上における矛盾と停滞をもたらしてきた。
デファクトスタンダードをめぐるメーカー間の技術闘争はより早い時期における技術普及を遅らせ、発明・発見された優れた一部の技術を活かすことなく取捨選択してきた問題は大きい。

■プロダクトアウトのマーケティグ―顧客ニーズの平均化と画一的押し付け―

工業社会においては、最も売れると思われる平均的な製品が企画され店頭に陳列された。
そこでは、顧客ニーズが平均化され、画一的な商品やサービスが押し付けてきたといえる。
しかし、本来、人間社会は多様性に富んだ性質を持つものであり、多様な性質を有する人や企業がそれぞれの強みを活かして連携することによって、新しい発見や発明を生み出したり困難とも思える事業を成し遂げてきたのではないだろうか。
技術の主役が物理や化学からITやバイオに代わろうとも、社会のニーズを平均的にとらえて画一的なアプローチを進める人々や企業は決して脱工業社会の一員ではない。
ITを受け付けない、あるいは原始農業にこだわる人々、第一次、第二次産業に携わる企業など多様性の中でその存在を認めて、ますます多様化する多次元要素をいかに組み合わせて新しい価値を生み出すか知恵を絞る人々や企業こそ脱工業社会の一員として資格があるといえるのではないだろうか。
無形化やデジタル化、知識化、分散化といった傾向が脱工業社会の絶対的特徴であるとすれば、有形化、アナログ化、物質化、集中化といった工業社会への回帰、あるいは脱脱工業社会へのシフトが生まれてくるはずである。
脱工業社会の本質は、我々自身の精神レベルがこうしたこだわりから脱却してより高度な次元へとステップアップすることではないだろうか。

【脱工業社会とは何か】

■情報ネットワークによるジャストインタイム生産―顧客指向のマーケティングと効率的な流通システム―

 脱工業社会においては、平均的な商品・サービスを画一的な方法で提供するスタイルをとらない。
 個々人の価値観を尊重し、一人一人のあるいは一社一社の価値要求に対応できるしくみを考えることが必要である。
その実現方法として、すでにデル・コンピュータなどが実践しているBTO(受注組立方式)を例にあげることができる。
BTOでは顧客ごとのオーダー要求を受けてカスタマイズ組み立てしたパソコンを受けた注文の数だけ生産し販売することによって顧客満足を最大化するとともに、構成部品を標準化して綿密な需要予測を元に計画的に生産することによって、廃棄物の発生も最小限化することに成功している。
デル社では部品生産を自社生産しておらず社外から調達しているが、自社の受注実績や在庫状況に基づく生産計画を調達先企業にインターネット上で公開している。
デル社と部品調達会社は単にインターネットによって情報共有しているだけでなく、強いパートナーシップ(信頼関係)にもとづくサプライチェーン(企業連合体)を形成しているといえる。
 脱工業社会ではさらに、リバースロジスティクスもより有効に機能するだろう。
つくりっぱなし売りっぱなしの工業社会の流通システムから、脱工業社会では不要となったものの回収、再利用のための逆流通システムが連動しトータル的な循環流通システムが完成するだろう。
 以上のように、脱工業社会は情報ネットワークによって必要なものが必要なときに必要な程度連結するという生物のセル(細胞)間の関係のようなネットワーク体としての性質を有すると思われる。

■知識の体系化による技術の派生的発展―技術の関連と調和による生物組織的な増殖―

 脱工業社会においては、知識が物質以上に重要な資源となり、知識の生産、蓄積、流通において効率的なシステムが登場するだろう。
具体的にはインターネット上においてWebシステムがあたかも一つの頭脳のように世界中の知識の生産、蓄積、流通の場となることが推測される。
知識が高度に体系化された脱工業社会では、知識同士が関連することによって新たな知識が生まれるだろう。
単発的で非連続的であった工業社会における技術革新に対して、脱工業社会では技術もまた派生的に発展し、技術の関連と調和によって生物組織的な技術増殖が期待される。

■多様性の組み合わせによる無限の可能性の獲得―独立と提携による自信と豊かさの時代―

 全てのものが平均的に画一化され、異質で少数のものを否定してきた工業社会は、今、一つ一つがそれぞれ個性を持つセル要素が多次元なネットワークを形成し、様々な多様性を実現する脱工業社会にとって代わられる運命にある。
人や企業が独立的な価値を持つセル要素として尊重され、ダイレクトにいくつもかついく重にもネットワーク結合して組み合わせによる新しい価値を生み出していくことだろう。
遺伝子が塩基やアミノ酸の組み合わせによって様々なタンパク質を生み出しているように、人や企業が持つ多様な価値をどのように組み合わせるかというマネジメント、すなわち「知識」、「知恵」が脱工業社会における最大の価値物となるのではないだろうか。

【脱工業社会におけるニュービジネスの着眼点】

■近視眼的行動から本質洞察的行動へ―根本問題の追求と将来可能性の予測―

 全てのものが平均的に画一化され、異質で少数のものを否定してきた工業社会は、今、一つ一つが 脱工業社会においてはビジネスのスタイルも大きく変わらなくてはならない。
一人一人の顧客にとって最大の顧客満足を実現するためには表面的な物質的商品の提供ではなく、顧客が有するより本質的な課題を洞察し将来に向けてより望ましい解決策を提案していくワンツーワン・マーケティングとソリューションセリングが必要となってくるだろう。
全てのものにはそれが発生した原因の連鎖があり、またそれが発生したことによる結果の連鎖が生まれていく。
工業社会における商品やサービスは断片的なニーズやシーズのみを拾い出しマッチングしていた。
しかし、上流をさかのぼればニーズの元になったニーズがその奥にあるはずであり、またシーズの元にあるシーズもあるだろう。
逆に下流を下ればニーズがさらに新たなニーズを生み出し、シーズが新たなシーズを作り出すことを発見できるかもしれない。
脱工業社会におけるニュービジネスの着眼点の一つとして、ニーズとシーズを時系列で連続的にとらえてマッチングさせることが考えられるだろう。
あらゆるものは成長しあるときは衰退していく変化する細胞体である。
種をまき育て収穫するという農業的ビジネスが逆に新しい価値を生み出すだろう。

■ITマネジメントを活用した知識の生産と流通―無形資産のマネジメント―

製品開発の分野においては、試行錯誤の時代から既存知識の活用による効率的な研究活動が求められてくるだろう。
脱工業社会におけるビジネスでは、顧客、流通事業者、生産者、研究者などあらゆる立場の人達がインターネットというネットワークによって生物組織的に連結し、各器官が有機的に調和し相互的に働き合う。
研究開発部門に身を置く研究者の多くが実は閉鎖的で一方的断片的な工業社会的なアプローチのわなから抜け出せないでいる。
研究開発という頭脳活動のフィールドに別の観点から脱工業社会的なアプローチを適用することが可能ではないだろうか。
工業社会においてテーラーが専門職能技術者の手から生産技術を奪って標準化して管理化したように、知識や技術を特定の専門家や研究者しか取り扱えない代物からマネジメントの対象に移行していくことが必要である。
 現在、注目を浴びているITも商品や通貨、店舗、顧客といった物質のマネジメントに活用されているが、今後はその対象物を科学者など特定の人々の間だけでクローズされていた知識や技術といった無形資産に対するマネジメントに活用されるより高い次元へとステップアップしなければならないと考える。
具体的には知識など無形資産を対象とする生産管理、流通管理、販売管理システムなどが必要となってくるだろう。
研究所における工程管理システムや生産管理システム、知的財産を資産評価する会計システム、知識や知恵を調達するECシステムなど無形物がニュービジネスにおける主役となるのではないだろうか。

■経験経済によるコモディティの罠からの脱却―価値観の革新がもたらすビジネスの高度化―

 電子店舗や電子調達などECビジネスの拡大によって、顧客はより望ましい商品やサービスをより安く入手することができるようになった。
しかし、その一方で様々な商品やサービスがポータルによって比較可能となり、コモディティ化して企業は価格競争のわなに陥っている。
顧客もまたあらゆるものがコモディティティ化してしまった結果、ブランドなどより深い価値観を失い、新たな不満足感を抱くことになってしまっている。
インターネット上で容易にものが買える時代では、かえって消費者はリアルな体験を求め、他で得られない体験に新しい価値を見出すだろう。
全てをインターネットで、全てを情報や知識レベルで実現するのでは、新たな画一化を生み出しただけにすぎない。
より高次元な価値の実現をもたらす脱工業社会でのニュービジネスであれば、ITによるバーチャルな精神世界と、汗やにおい、音や振動などリアルな物質的な体験社会を組み合わせて、より高い顧客満足を提要することが発想として必要であろう。

■所有から利用への発想転換―ネットワーク型組織が獲得する無限の可能性―

 脱工業社会にふさわしいニュービジネスは、事業プランの全てを自らで企画・製作して一方的に展開するのではなく、社外リソースを積極的に利用して顧客価値をいかに最大化するか全体指向で考えるセル的企業と呼べるものでなければならない。
ITやバイオといったニューテクノロジーに関連する企業であっても工業社会的な利己主義的な発想による事業を展開する限り、セル的企業にとって代わられる可能性が高いだろう。
全てを自らが所有しできる限り強大化しようとする工業社会的発想から脱却し、社外にある高度なリソースを積極的に利用し自社のリソースも提供していくというネットワーク型組織へと発想していくことが不可欠である。
 仏教の考え方の中に、全てのものはカタカナの「コ」字の形をしているという考え方がある。
左側の開いている方をふさいで完全体になるためには、別の「コ」を探してきて連結することが不可欠であり、実は人はみなこのような「コ」字の形をしているというのである。
そして、最終端の「コ」が完全体になるためには、直線ではなく円となって端同士が連結して集団として完結することが不可欠なのである。
この考え方は生物の細胞に通じるものであり、我々は本来性質上、ネットワーク指向でなければならないことを意味しているのではないだろうか。

【脱工業社会発想によるニュービジネスのプラニング】

最終章として、脱工業社会発想によるニュービジネスとして私がプラニングしたものを提示する。

■教育研究・コンサルティング連動による新事業育成投資プログラム―ビジネス養殖学校―

ナスダック・ジャパンの出来高の低さが問題視されている。
また、東証、大証においてもITやベンチャー銘柄の株価低迷が長引いている。
事業が成功するためには、アイデアとそれを実行するための組織と資金が必要となる。
ナスダック・ジャパンなどの証券取引所やインベストメント会社が新しい事業に対する資金面における支援だけを実現しても、肝心のアイデアと実行プログラムがぜい弱では事業の成功はおぼつかない。
また、電子商取引サイトの構築など情報システムの企画・設計に関してシステムコンサルティングを要請する企業側の経営戦略や事業方針が明確でなかったり不十分であることが少なくない。
従来における投資活動や情報化は、対象となる企業の現時点における資金面やシステム面という部分的な支援を提供するにすぎなかった。
これでは、根本的な問題にまで踏み込んでいないため、成功に結びつかない投資や情報化の事例ばかり増える一方である。
 成功する事業に共通するのは独創的なアイデアと、アイデアを実現するための綿密なプラニング、そしてそのプランを実行していくことができる人材の確保である。
投資家は将来性と実現可能性を兼ね備えた事業プランであれば喜んで出資する。
必要なことは、将来性と実現可能性を兼ね備えた事業プランを多く世に送り出すことを支援するしくみであり、事業を推進していく人材の育成である。
 しかし、現行の教育機関や教育事業は事業家を育成する教育システムとしては役不足である。
インベストメント会社のベンチャー支援プログラムも財務や経営管理など部分的な支援サービスの域を出ておらず、事業家自体の育成にはいたっていない。
そこで、事業家育成を目的とした教育研究サービスから、事業化プラン立案のためのコンサルティング及び投資・融資を含めた企業設立・運用支援サービスまでを一貫して提供する新事業育成投資プログラム―ビジネス養殖学校―の事業化を考えたい。
受身で投資や情報化機会を待つのではなく、事業家の卵とともに事業アイデアを育てて、投資すべきあるいは情報化の意義のある事業を養殖するという、本質的かつ全体的、さらには双方向な脱工業社会的アプローチである。
一方的に投資したり顛末を共有しない情報化では結局、ある場所から別の場所に価値が移動しただけであり、また場合によっては価値を消滅させる浪費にすぎないことも多かったのではないだろうか。
事業家を育成し、ともに事業の実現に向かって協業して価値創造のために投資や情報化に貢献するビジネススタイルでは、リスクとチャンスも共有して新たな価値を生み出すという社会貢献につながる。
そして、外部に存在するあらゆる多様なリソースを利用することによって、新しい価値となる事業を迅速かつ効率的により多く送り出すことが可能となる。
そして事業家として成功した人材がまた事業家育成プログラムに参画することによって、優秀な事業家の知恵や知識を遺伝子という形で伝達・継承していくことが期待できるだろう。
そして、将来的には、このビジネス養殖学校ともいうべき新事業育成投資プログラム自体が投資家に対して最も将来性と実現可能性を兼ね備えた事業プランを創出するビジネスとして投資機会を与え、脱工業社会におけるあるべき姿としてのインベストメント事業として定着するだろう。
 具体的な事業活動としては、事業家の卵として企業設立をめざすベンチャー人材だけでなく、大企業(社内ベンチャーの人材育成を必要とする企業)や、中小企業(経営革新が必要な既存企業)からも集めて、ゼミ方式による事業プラニングの研究課題を与え、最終的に事業プランのレポート提出と発表によって審査し、新人歌手養成番組と同じように投資家や事業家に対する事業プランのプレゼン機会を与えて事業家デビューのチャンスを最後に提供するという形態を考えている。

■経験経済と電子商取引の融合―需要創出指向のサプライチェーンマネジメント―

 今後、常時接続の通信サービスが低価格化してインターネットがもっと普及すれば、消費者による購買活動の多くが電子店舗上で行われることになるだろう。
より多くの商品を比較し、さらに同じ商品を購入する場合でも価格やサービス面から購入先を比較検討することが可能となるからである。
オークションの利用ももっと一般化するだろう。
 その一方で消費者は新製品や消費者がこだわりを持つ商品やサービスを電子店舗で安易に購入することはないだろう。
より満足の得られる商品やサービスを選定するために、実店舗に向かうこともなくならないと考える。
社会的な観点から考えてみても、世の中の全てが電子店舗化し、町にあるのは日常品の販売と電子店舗の物流拠点としてのコンビニと大規模量販店しかない状況は非常に殺風景である。
多様な店舗が立ち並ぶ商店街を楽しみながらショッピングするリアルな世界に対するニーズがないはずがないだろう。
しかし、既存の専門店は消費者が望む方向に進んでいないと思われる。
限られた店舗スペースに最大限のベスト商品を陳列販売するだけの店舗が多いため、品そろえの点で大型店に負け、価格の面で電子店舗やディスカウントセンターに負けている。
そして、もっとも憂慮すべきは試食や試飲、プレゼントやゲームイベントなど店舗でのリアルな購買イベントも大型店や電子店舗の方がむしろ期待できる。
このような状況では専門店や商店街が生き残ることは難しく社会的にも必要性がないと考えられないだろうか。
 むしろ、専門店が向かうべき方向は専門性を活かした商品やサービス情報の発信やコンサルティングサービスの提供である。
アパレル小売業界におけるソリューションセリングの動きはこの考え方に近いものであり、価格競争に巻き込まれないマーケティング戦略が必要なっているのである。
 コモディティ化した商品の購入ならば、大型店や電子店舗で購入する方が消費者にとってメリットが高い。
リピート購買では消費者はより便利でより安価な購買方法を選択する。
では、専門店はどのような戦略をとるべきか。
陳列すべき商品を新商品や限定商品、特殊商品などに絞り込むことが必要と考える。
大量多種の商品陳列が不可能な専門店では、陳列商品の戦略的限定が不可欠となる。
むしろ、現在以上に陳列商品を絞り込み、その代わり試食や試飲、プレゼントやゲームイベントなど販促フィールドのエリアを広く確保して、消費者に新商品や特定の商品やサービスの経験を販売するのである。
在庫フィールドの狭隘さをカバーするため、実際の販売は昔の酒販店方式による宅配スタイルが考えられるだろう。
コンビニがECの物流拠点となっているように、特にリピート注文については電子店舗で注文を受け付け配送する方式が望ましいと思われる。
 しかし、ここで示した新しい販売方式を専門店が独力だけで実現することは不可能である。
現実的な方策としてはFCチェーン化を図って商品仕入を一本化し、リピート購買に対しては共同の電子店舗から受注し、各地域の販売点が配達するという共同事業化が不可欠となる。
その際、各店舗に共同のインターネットPOSを導入することによって、メーカーに対して店舗での販売時点データを提供することができる。
メーカーにとって、商品ジャンルに特化して地域に密着した顧客層を持つFCチェーンからの販売時点データの提供は魅力的なものとなるはずである。
逆に新商品や戦略商品の販売をFCチェーン側に委託することによって、一定期間その商品を販売する上で最も望ましいを販売促進活動を実施することが可能となる。
FC本部はメーカーとの連携によって、定期的に陳列限定した商品を入れ替えて、その商品に合うように店舗のディスプレイや店員のユニフォームを入れ替えるといったリニューアルを短期間サイクルで指示する。
店舗のディスプレイも容易に変更できるようにシステム的な什器などを準備することが必要である。
顧客にとっても魅力的な新店オープンやリニューアルによる体験の楽しみが増えるのである。
 店舗自体が利益をあげ、FC本部が利益をあげ、メーカーがこのFCチェーンを活用しようとする源泉は顧客の固定化、囲い込み、及び新商品や戦略商品販売における集客能力である。
顧客がたとえ、店舗で購入しなくてもイベントに参加したり新商品の試食や試飲に集まることが利益の源泉となる。
 結果的な販売によるビジネスから、販売促進などマーケティングフロントとしてのビジネスにシフトするのである。
また、実販売については、リピート購買時において消費者に利便性のある電子商取引方式を併用し、電子店舗での受注による管内顧客に対する商品の保管・配送を各店舗が行えばよいだろう。
顧客IDやカードによって、顧客を固定化することができれば電子メールを使った新イベントに連動した店舗のリニューアルを通知することや、顧客専用の受注サイトを提供することも可能となる。
顧客を囲い込むことができれば、リピート購買の需要や定番商品の需要をおさえて予測することが可能となることから、メーカーからの大量仕入による低価格化も可能となってくる。
 しかし、戦略的にはコモディティ化した商品やサービスの低価格化販売には手を出さずに、店頭でのソリューションセリングや経験経済指向の販売に特化することが望ましいだろう。
ワインの販売であれば、限定的に陳列したワインに合った店づくりを行い、試飲などのイベントの実施や専門的なアドバイスの提供に加えて、そのワインに望ましいグラスやチーズ、照明などをコーディネート販売する、さらにはそのコーディネートしたシチュエーションでワインを楽しめるライトカウンタバーを設置するなど消費者の最終的に獲得したい本質的なニーズまでアプローチすることが考えられる。
 こうしたソリューションセリングや経験経済指向の販売方式と、メーカーが売り出したい新商品や戦略商品とが合致すれば、消費者、販売店、メーカーの三者にとって望ましい販売・購買活動が実現できるだろう。
地場産業や地域名産など地域に特化したFCチェーンも面白いのではないだろうか。
バックは共同システムやサプライチェーンによって徹底的に効率化を図り、フロントはできる限り実体験性をアピールするという、リアルな経験経済指向によるリアルビジネスと電子商取引によるバーチャルビジネスの組み合わせがこの販売方式のポイントとなるだろう。
生物体における神経系や受容体系による情報伝達のしくみと、各器官による物理的な運動のしくみの関係に似ている。
 売り場志向のこうした販売店が多種多様に増殖すれば、大型店とコンビニなど企画化された店舗によって町が画一化されることなく、多種多様な専門店が建ち並ぶアメリカのような活気が町に踊ってくるのではないだろうか。

■マネジメント発想によるバイオインフォマティクス―バイオ向け情報管理システム―

IT業界ではバイオテクロノジーの分野は特殊であり、敬遠する企業や技術者が多い。
しかし、DNAシーケンサやDNAチップを経てデジタル化された後の遺伝子情報は情報処理技術者が専門とする情報処理の世界である。
また、様々な物理や化学技術を駆使して製品製造を行う工場において、生産管理システムや工程管理システムが必要不可欠な情報システムとして稼働しているように、バイオ事業を展開する企業が今後、研究開発の段階から生産ビジネスの段階へ移行する時点において、効率的に遺伝子探索や解析作業を行うためのマネジメントシステムが必要となってくることは間違いない。
以下、マネジメント発想によるバイオインフォマティクスとして構築が考えられるバイオ向け情報管理システムの基本フレームについて立案した。

 @アノテーション
 これから分析する、あるいは分析しようとする遺伝子情報に関連する学術論文や医学論文をインターネットからキーワード検索し、関係情報を収集し関連つけるアノテーション活動を支援するITマネジメント。
バイオ関連のサイトのポータル化機能と、関連検索が可能な全文検索エンジン、収集した情報の体系的管理を行うナレッジマネジメントシステムが必須ITとなる。
これらを最適な形で統合化したシステムソリューションが求められるだろう。
 なお、アノテーション用に利用される主要なサイトとしては、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のEntrez(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)や、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)で開発された欧州130以上にも及びデータベースへのリンクを有する情報解析システムであるSRS(Sequencing Retrieve System 国立遺伝学研究所DDBJサイトから利用可能 http://srs.ddbj.nig.ac.jp)、京都大学化学研究所と東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンターが運営するゲノムネットDBGET(http://www.genome.ad.jp/dbget.links.html)などがある。

Aホモロジー検索
 抽出した遺伝子の塩基配列やタンパクのアミノ酸配列が既知のものか新規のものかを既知の配列情報を蓄積したデータベースと比較して相同性(ホモロジー)を調査する活動を支援するITマネジメント。
実際には、DNAシーケンサで得た塩基配列の断片情報をつなぎ合わせる「アセンブル」、ベクター配列を除去する「トリミング」の作業を経て「ホモロジー検索」が行われる。
ホモロジー検索においてもまた、インターネット上のサービスを利用することができる。
前述のNCBIやDDBJのサイトでホモロジー検索サービスが提供されている。
また、「アセンブル」や「トリミング」のためのソフトウェアも米国Washington大学のサイト(http://bozeman.genome.washington.edu)やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/VecScreen/VecScreen.html)からダウンロードして利用することができる。
 しかし、今後大量の遺伝子データを解析していくためには、自動化されたホモロジー検索システムが必要となるはずである。
「アセンブル」、「トリミング」、「ホモロジー検索」の各作業を自動化するシステムソリューションが求められるだろう。

Bデータベース
 上記の「ホモロジー検索」自動システムにおいて既知の核酸配列、既知のアミノ酸配列、既知のEST(cDNA内の発現配列タグ)配列をデータベース化しておくことが必要となる。
また、ホモロジー検索でヒットしなかった未知の配列を集めるデータベースも必要となる。
またこれら配列情報をデータベースに格納する際には類似性を有する配列データをまとめておくクラスタリングによるグループ化も必要である。
また、バイオビジネスにおいて必要となるデータベースはより広範囲なものとなる。
さらに、インターネット上にも有用なデータベースが数多く公開されており、これらを利用できるようにするだけでなく、内部のデータベースと連携できるようなデータリンクのしくみも必要となってくるだろう。
米国The Institute for Genomic Research(TIGR)のリンク集(http://www.tigr.org/links/)には世界中に分散するデータベースが分類されている。
インターネット上のデータベースを利用するだけでなく、専用のデータベースを構築するニーズも高いはずである。
核酸配列、アミノ酸配列、ESTなど研究・調査中の遺伝子データを蓄積しておく他、これら配列に関連するアノテーション情報や解析結果の報告書などの管理など統合的なデータベースシステムを構築するシステムソリューションが求められるだろう。

C解析及びモデリング
 ポストゲノムの時代においては、ゲノム各配列がそれぞれどのような機能役割りを担っているのかを調べる機能解析や、ゲノム地図作成のための連鎖解析、その他多型解析や受容体シグナル分析など、様々な応用システムが必要となってくる。
マネジメント指向のバイオインフォマティクスの観点からは、ポストゲノム時代においてどのような解析ニーズがあるのか把握して最適なITツールを検証・選定するコーディネートサービスが重要となってくるだろう。
ビジネスとしては利用カテゴリごとに利用可能なITソリューションを体系化し、その提供機能や価格、ユーザ評価などソフトウェアに対するナレッジを蓄積し、ユーザごとに最適なソリューションを選択し提案することが考えられるだろう。

Dプロジェクトマネジメント
 バイオビジネスにおいても、経営上のマネジメントが必要となるはずである。
インターネットを活用した受発注システムや人事管理システムなど、一般企業と同じように経営管理系のシステムも不可欠だろう。
しかし、それ以上に、高額な機械設備を使用し大勢の研究者がプロジェクトチームを編成して様々なタスクを実行していくバイオの研究機関では工場と同じように、生産管理や工程管理のシステムニーズが高いと思われる。
プロジェクト管理ソフトの「アルテミス」や「MSProject」などを利用した解析手順の立案・管理や解析作業の進捗状況、解析成果の集計、あるいはプロジェクトごとのコストやリソース(設備や部材及び要員)の使用状況など、効率的なバイオビジネスを実現する上で不可欠なシステムソリューションであると思われる。

【バイオ的発想で脱工業社会を生き抜くために】

 以上、バイオ的発想の観点から工業社会の限界と矛盾を解決して、新しい脱工業社会を切り開く方策について考察してきた。
生物の減数分裂では無限ともいえるほどの組み換えによって、完全に同一の性質を有する子孫が生まれることはありえない。
遺伝子は多様性の持つ意義を知っているのかもしれない。
人が新世紀に向かってライフスタイルの次元を高めるためには、まず様々なライフスタイルを認めることが先決ではないだろうか。
そして、多種多様なライフスタイルを持つもの同士がお互いを認め合い、ネットワーク化することによって新たな価値を創造していくことができるのではないだろうか。
自身とは異なる能力を持つ人や企業と数多く出会い、その中から価値観をともにできる同志を探し出してネットワークを作り出していくこと、そして自身の知恵と同志の知恵を組み合わせてより高度に社会に貢献できるアイデアを創出し実現してきたいと考えている。

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