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ボクとヤンバルクイナ

<其の1>

夢を見た。

ヤンバル!(ヤンバル!)クイナ!(クイナ!)
ヤンバル!(クイナ!)ヤンバル!(クイナ!)
ヤンバルクイナッ!(ヤンバルクイナ!)ヤンバルクイナッ!(ヤンバルクイナ!)
との勇壮な掛け声とともに、得体の知れない何かにひたすら小突かれ続ける夢を見た。

目覚めた後、無性にヤンバルクイナを奉りたい衝動にかられてドキドキする。


ところでヤンバルクイナって何だ?

一生知らないままでいいやと思った。


<其の2>

サッカー日本代表のメンバーになった夢を見た。

1回戦の相手はヤンバルクイナ王国。

GK ヤンバルクイナ
DF ヤンバルクイナ
DF ヤンバルクイナ
DF ヤンバルクイナ
DF ヤンバルクイナ
DF ヤンバルクイナ
MF ヤンバルクイナ
MF ヤンバルクイナ
MF ヤンバルクイナ
FW ヤンバルクイナ
FW ヤンバルクイナ


開始早々、いきなしヤンバルクイナ・ディフェンスをしかれた。




絶対かなわないと思った。


<其の3>

お見合いをした。

「こちら、沖縄出身のヤンバル・クイナさん」
「キョー」
「・・・・・・」

やっぱり緊張する。


「あ、あの御趣味は」
「クイナー!」
「休みの日は何をしていらっしゃるのですか」
「クイナー!」
「お料理とかは・・・」
「クイナー!クイナー!」

やたら飯ばっかくわされた。


一緒になったら絶対尻にひかれそう。


<其の4>

結婚することにした。

ハネムーン先の沖縄へ向かう飛行機の中で、妻のヤンバルクイナと、
将来の事について思う存分語りあう。

「新居はやっぱり木の上じゃなきゃ駄目?」
「やっぱ初めは共働きかなあ」
「こ子供は・・・あ、おかし食べる?」
「っていてててて! つつかないで!つつかないで!」
「キョー!キョー!」



初夜がすっげえ不安になってきた。


<其の5>

もうヤンバルクイナしか愛せない!
おお愛しのヤンバルよ!!



#とりあえず写真を持ち歩くことにした。
 これでボクも立派な愛妻家だ。




<其の6>

子供が生まれた。なんと双児だった。

上の子をヤンバル、下の子をクイナと名付けた。
性別? そンなもの分からない。
ただ、やたらとスクスク育ってることだけは確かだ。

休みの日には子供達とじゃれて遊ぶ。

今日は交互に名前を呼んで、反応を楽しんだ。

「ヤンバル〜〜」 「
クイナー!
「クイナ〜?」 「
ヤンバルー!

・・・・・

悪くない。なンかいい感じだ。


ええと、上手く言えない・・・
上手くいえないンだけど。

たぶン幸せってこういうことなンだろうなあ。


<其の7>

最近、家庭内の雰囲気があまりよくない。

ボクの稼ぎが悪いせいだろうか、ヤンバルクイナがよくボクをつつく。
ひどいときになると、子供ともどもトリプルでボクをつつく。

そンなことが続いたある日、遂にボクはキレてしまった。

「しょうがねえだろ人間だもの!
 ミミズとかオケラとか上手くとれねえよ!人間だもの!!
 お前だって飛べねえじゃん! 特別きどってな〜にが天然記念物だ!
 飛べねえ鳥はただの鳥だろ!

〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!

しまった! 触れてはいけないことに触れてしまった!
急いで謝らなきゃ!許してもらわなきゃ!



・・・とか思う間もなく、3羽によってたかって穴だらけにされた。


<其の8>

妻が子供達を連れて故郷の沖縄に帰ってしまった。

ガランとしてしまった巣の中。冷え冷えとした空気が漂う枝の上。
こうなるまでに一体いくつの選択肢を間違えてしまったのか数えようとして、その作業を思いとどまる。
そンなことの繰り返し。


外にでて荒川の土手に寝そべる。
目を閉じれば浮かんでくる妻と子供達の思いで・・

嗚呼、君のその赤いくちばしが。
君のその太くて赤いくちばしが。

自分でも気づかないほどの小さな溜め息にも似た言葉の断片が口から漏れる。

「ヤンバル・・」


小さな小さな思いでの水たまりはみるみる広がっていき、やがてボクをその圧倒的な水量で押し包む。

そして君のその体毛が!
太くて黒くて柔らかい君のその体毛がッ!

嗚呼ッ!ああっ!
そのダムの崩壊にも似た激情は明らかな言葉となって自然と口からほとばしる!

「ヤンバルクイナあ!」

「ヤンバルクイナああ!」

ヤンバルゥクイナああああ!

「ヤンバルゥゥックイナアアア〜〜〜ッ!!」

  






警察に通報された。


<其の9>

おのれ国家権力め。
何時の時代も国家は純粋な愛の思想を弾圧しようとする、おのれ国家権力め。

そしてボクはと言えば、明けても涙、暮れても涙。
寝ても醒めても考えるのはヤンバルクイナのことばかり。

嗚呼ヤンバルクイナのことばかり。


<其の10>

正直なところ、いてもたってもいられなかった。
そしてボクは、なけなしの金を握りしめて沖縄へと向かった。



***********



沖縄は北部海岸の奥まったところにある小さな小さな入り江。
そこの浜辺にヤンバルクイナはちょこんと座っていた。

いろいろ伝えたいことがあった筈なのに。いろいろと聞きたいことがあった筈なのに。
そのふっくらとした後ろ姿を見たら、なにか胸がこう、一杯になってしまって。

ボク達は何かを話すわけでもなく、ひたすらよせてはかえす波を見つめていた。




・・・・・・・




15分後。
ボクは一言。 ただ一言しぼりだした。


「・・・結局のところ、意味はあったのかい?」


ヤンバルクイナはそれには答えず、そのずんぐりとした体を震わせながら前へ。
そして。


「・・・あ、 飛んだ・・・」








・・・・・・なんだ、飛べるんじゃん。


それはほんの少しの距離だったけれど。
それはいかにも不格好な飛び方ではあったけれど。



そのまま彼女は浜辺の向こうの森の中に姿を消した。






そして、ボクは少し救われたような気がした。





<外伝>

相変わらずの地獄の日々だ。
それもいよいよ来るべきものがきちまったって感じの煮つまりまくった日々だ。
昨日は遂に境界を超えた。遂にあのエルフェン・リートをオカズにしちまった。
にゅうううううう!にゅうううううう!だってよ、へへへ。なんかもう何でもアリだよな俺。
わらってくれよこんな俺をよ。堕ちるとこまで堕ちたこんな俺をあざ笑ってくれよ。
でもさあ。笑われようが蔑まれようが結局のところ毎晩うたい続けるしかねえってわけだ、コレが。
I JUST RHYTHM EMOTION〜♪ この〜竿の振動〜が〜♪ 至福へ〜と〜続いて〜るSO FARWAY〜!
シュっ!シュっ!シュっ!シュっ!あ〜きもちいいきもちいい!全然きもちいくねえけど気持ちいい!
腐った魚の目をしつつも気持ちいいっと。ギャーハハハ!歌え!騒げ!しごけ!ギャーハハハ!

・・・・・・

なあ、教えてくれ。俺はあと何回ヌケばいい?
俺はあと何回、このエルフェンとエイケンでヌケばいいンだ・・・
教えてくれ・・・・誰か・・・

そんな俺の問いに応えるようにポストがガチャンって言いやがった。
・・・・? ・・・なんだよ、新聞の宣伝チラシかよ。
??? 読まねえよ、こんな琉球新報なんつうクソ地方紙はよう。
なになに? ウチナーンチュ掲示板だと?

ハイサイっていいですよね
沖縄の人が踊ってる時の指笛かっこいいですね ぼくもあんな風(かぜ)になりたい
あこがれすぎかな


憧れすぎだ。むしろシーザーとかに憧れとけ。そンでもって1人で吼えてろバオバオってよう。

そンな感じで、視界に入るものみな傷つけていた俺の視線がある記事の上でピタっと停止した。

こ・・・この記事は!





・・・ヤンバル・・・・・

そうか・・・お前は今も相変わらずあの森にいるのか・・・
なんか元気そうだな。少し安心したよ。

そして・・・そうか、お前 飛べるようになったのか・・・・

・・・なあ、覚えているかい、あの日のことを。
ほら、俺が「お前 天然記念物のくせに飛べねえのかよ!」って怒鳴っちまった日のことだよ。
お前 凄まじくキレてさ、俺の頭蓋に穴ァ穿ったあと、物凄い勢いで家をでていったじゃんか。

俺 知ってたぜ。
お前があのあと裏の木の枝に止まって、ずっとキョーキョー鳴いてたの。
お前、思いつめたようなツラしてさ。時々 枝の上で小さくジャンプとかしたりしてさ。
その度に枝がユッサユッサってゆれて、葉っぱがパラパラ落ちるのを、お前は悲しそうな目ェして見てたっけ。

あれさ。いま思えば、お前、あそこから飛ぼうとしてたんだよな。
天然記念物のプライドとかさ。そういうのかなぐり捨てて素の自分で勝負しようとしてたンだよな・・・

でもさ、あの頃の俺さ。「本当の私を見て!」とかそういうのさ、死ぬほどキライでさ。
ちょっと斜に構えていたかった頃でさ。
本音とかさ、表面に出して語るのカッコ悪いとか少し思ってたんだ。
氷山の一角しか見せたくなかったんだ。氷山の一角しか見せられなかったんだ。自分に自信なくてさ。
だから木の枝の上でケーケー鳴いてたお前に何一つ優しい言葉をかけてやれなかった。

でもさ。今日さ。元気そうに飛んでるお前の姿を見たらさ。 
あの頃、枝の上でケーケー鳴くことしかできなかったお前がこんなにも立派に羽ばたいてるのを見たらさあ。

俺さ。俺もさ。まだ間に合うかも知れないって・・・少しそう思ったンだ。
それが叶わないのなら、せめてお前だけでも間に合ってくれればいいなあって。
あの頃 話していたあの楽園にせめてお前だけでも辿りついてくれればなあって。
そう思った・・・ 畜生なんで今更こんなこと思うのか分からねえけどホントなんだ・・・

今さ。今、家の窓から、あの木を眺めてる。 
ほら、お前がキョーキョー鳴きながら震えてとまっていたあの木だよ。
あの時お前がとまっていたあの枝のあの葉っぱな。今もまだ落ちずについてるぜ。

なあ。お前の住む南の島は、翼を持ってない俺にとっちゃあまりにも遠すぎるんだ。
でもさ。せめて極東のこの地より、お前の幸せを心から祈っているよ。

Dear ヤンバルクイナ 〜東より愛を込めて。From サカイ


























1ヶ月後にかえってきた返事。

お前 誰?



気が遠くなっていく。



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