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G企画「脳10」

サカイさま「G企画」に参加。
「脳10」は「脳内再生が可能なほど愛しているアルバム10枚」のこと。
満員電車で身動きが取れない時、飲み会で孤立してしまった時、ツマラン会議がダラダラと続いている時、スポーツクラブでひとり泳いでいる時。自分は、そんな居たたまれない時間を踏み潰すために好きなアルバムを脳内再生しているのです。「寂しいヤツ」とか「かわいそうな子」とか「ニロネラハンチャ」とか言わないで下さい。




アリス・イン・チェインズ
『アンプラグド』


ニルヴァーナ以前から、ヘヴィでダークなハードロックでその名を轟かせ「グランジ」なんて呼ばれていたアリス・イン・チェインズ。
このアルバムは、アメリカのバンドにありがちなドラッグのトラブルでボーカルが歌えなくなり、ズルズルと活動停止が続いていた時期に、いきなりMTVの『アンプラグド』に出演した時の音源です。
『アンプラグド』はアコースティック・セットでのライヴを放送する番組で、彼らのようなメタルバンドには相性が悪いように思えますが、アコースティック曲を集めたミニアルバムを『ビルボード』のトップに送りこんだ実績を持つだけあって、まったく問題ナシ。
彼等の魅力が重い音にあるという事は、有名だし自分にも良くわかるのですが、そんな事よりも、むしろリズムとボーカルの独自性こそが彼らの強みであると、アコースティック・セットの演奏が雄弁に物語っています。それを喧伝したいがためにオススメする一枚です。まとまりの無い印象を受けるベスト版よりも、よく聴いています。これに、“アゲイン”が入っていたらベスト版としても完璧だったのに…と要らないことまで思ってしまいます。
結局、ボーカルはドラッグ(おそらくは、ヘロイン)の過剰摂取で死亡。自分は『ダート』でも『ナッシング・セーフ』でもなく、『アンプラグド』を聴いて、哀れなボーカリストの冥福を祈りました。



キュアー
『キス・ミー・キス・ミー・キス・ミー』


70年代から現役のベテランであり、ヴィジュアル系バンドの数少ない元ネタでもある偉大なバンド。今作は、素晴らしい曲を無秩序に詰め込んだだけで傑作になってしまった奇跡のアルバムで、そういう意味ではスマッシング・パンプキンズの『メロンコリーそして終わりのない悲しみ』の直接の先祖であるとも言えます。
とにかく8曲目の"ジャスト・ライク・ヘヴン"を聴いて欲しいです。全ての音がキラキラと輝きながら、生まれたばかりの愛を祝福する超傑作!コレで心を動かされない無粋な人間とは口もききたくないです。
しかし、自分が一番スキなのは冒頭の"ザ・キス"。冒頭の狂ったようなギターソロとロバート・スミスの「欲情した猫のような声」で綴られるのは、愛する者を求めながら同時に「おまえなんか死んでしまえ」と吐き捨ててしまう混乱した自我!もう、素晴らしすぎます。唇フェチな詞もサイコー!



デヴィット・ボウイ
『ロウ』


ボウイの数多い傑作群の中で、自分が最も愛するアルバムです。今作は、ロックスターの生活に疲れたボウイがベルリン(当時は、“西ベルリン”)に隠遁して作り出したもので、非常に無愛想で素っ気ない作りになっています。単発のメロディに言葉の断片を放り込んだ前半の短い曲は、情緒のカケラもなくあまりにも刹那的です。また、陰鬱なオーラをこれでもかとばかりに放射している後半のインストゥルメンタル部分は、美しくもどこか閉塞感を覚えるものになっています。そして、どちらも当時ボウイの住んでいた荒廃した都市の情景をあまりにも完璧に描ききっています。
ここからは余談。ネット歴の長い方がサイト運営に疲れ、無愛想で素っ気ないサイトにシフトしてゆく光景を見ると、何となくこのアルバムを思い出してしまいます。


Violator
デペッシュ・モード
『ヴァイオレーター』


自分のサイトでデペッシュのコンテンツを作ってしまうほどスキモノなので、大抵のアルバムは脳内再生できてしまいます。オススメも多いのですが、ここでは『ヴァイオレーター』を紹介。
デペッシュ・モードは、初期の頃はアイドルグループとして消費されている部分も有りましたが、キャリアを重ねるにつれて硬質な音と潔癖な世界観を構築してくようになり、初期の頃から冴え渡っていたメロディと相まって、とんでもない傑作を連発するようになりました。
『ヴァイオレーター』は、最小限に削られ研ぎ澄まされた音が、これまで埋もれがちだった美しいメロディを引き立てる、そんなマジックを実現させてしまいました。
これほど地味でストイックなアルバムが、傑作として評価され、しかも、バカ売れしてしまった例は本当に稀で、今作の他にはREM『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』ぐらいしか思いつきません。



ジョージ・マイケル
『レディース・アンド・ジェントルマン』


“ラスト・クリスマス”で有名なワム!を解散させた後、“ファーザー・フィギュア”とか“アイ・ウォント・ユア・セックス”なんてエロ曲を出してソロでも大ヒットさせたジョージ・マイケル。その後に出したアルバムのタイトルは、『ガタガタ言わずに聴きやがれ!』(本当は『Listen without prejudas vol.1』)。
アイドル時代から2000人のオンナとヤったり20000人のオトコとヤったとウワサされるジョージ。それでも飽き足らなくて公衆便所(いわゆるハッテン場)でオトリ捜査の警官相手にチンコ出してタイホされてしまうジョージ。タイホされて反省したかと思いきや、
〜玄関や台所でヤるのは飽きた、さぁ!外へ出よう!〜
なんて歌いつつ、トイレを模ったディスコでガツガツ腰を振って踊るPVを出したジョージ。
自分は、そんなジョージ・マイケルが大スキです。
マーシーも、ハンパに覗き癖を矯正するぐらいなら、いっそジョージを見習うとイイかと思います。
このベストアルバムは、2枚のCDにそれぞれ「敬虔にバラードを捧げるジョージ」「性欲をビートに乗せてブチまけるジョージ」を配置して彼の2面性をわかりやすく伝えています。



マニック・ストリート・プリーチャーズ
『ゴールド・アゲインスト・ザ・ソウル』


ジェームス・ディーン・ブラッドフィールドは、ただならぬ力量を持つボーカリストです。もしも彼が望むならば、かのフレディ・マーキュリーのように、その声にあらゆる感情を乗せることができる人間なのです。しかし、彼は執拗に「怒り」と「悲しみ」の感情にフォーカスし続けるのです。なぜなら彼はジョー・ストラマーになりたかったシンガーだったからであり、マニック・ストリート・プリーチャーズはクラッシュになりたかったバンドだからなのです。
近年大ヒットした『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』は「悲しみ」の感情をフォーカスした作品としては傑作だと思うのですが、「怒り」の感情を凝縮した傑作としては、『ゴールド・アゲインスト・ザ・ソウル』以上のものはないと断言してしまいます。
たとえば“絶望の果て”。ボーカルのトーンが上がる部分に入ると、その声にこめられた怒気に思わず体が震えてしまいます。
たとえば“ローゼス・イン・ザ・ホスピタル”。「We Don't Want Your Fuckin' Love」と歌われる部分では、思わず声を合わせて叫ばずにいられません。



オール・ダーティ・バスタード
『ニガ・プリーズ』


オール・ダーティ・ダスタードは本物のキチガイです。
日本版のアルバムのライナーで「ラップで成功していなかったら、おそらく今でも生活保護を受け、女をダマし、酒とドラッグに溺れ、ブルックリンの街角でゲロまみれになりながら意味不明なことを叫んでいたんじゃなかろうか…」などと書かれる程、狂ってます。しかし、幸い彼はラップで成功。今では稼いだ大金を狙われ強盗に撃たれたり、金持ちのクセにナイキの靴を万引きしたり、無免許運転でタイホされ従兄弟の名前を騙ったり(すぐにバレた)、女をダマし、酒とドラッグに溺れ、裁判をバックレたりしています。
そして、いま現在はムショにブチ込まれ、獄中で作ったアルバム内で意味不明なことを叫んでいます。

才能は、人を救わないのですね。
それでも、このアルバムは凄い傑作で、 “アイ・キャント・ウェイト”は、思わず笑ってしまうほどギラギラしていているし、 “コールド・ブラデッド”のカヴァーは、ツェッペリンの“俺の罪”に匹敵するぐらい原曲をメチャクチャにしたカッコイイ曲ですし、 “アイ・ワント・プッシー”はもの凄いテンションで「タダでヤりたい」とマジ絶叫してます。
では最後に、日本版のライナーには彼のラップがすべて訳されているので、彼の名言を少しだけ紹介したいと思います。
「もし月曜日までに200万払えなければ アルマゲドンを起こしてやる」
「俺の名前を知ってるんだろ 金よこせ」
「タダでプッシーが欲しい 俺の金はやらねぇ タダでプッシーが欲しい」
「紳士淑女のみなさん この曲は俺さまに捧げる曲」
「オレはケツの穴に舌を入れてくるから女が好きだ」
や、マジでそう書いてあります。



プリンス
『戦慄の貴公子』


プリンスのアルバムで一番スキなのがコレ。ロックとファンクを最終的なアウトプットまで同次元で行うという当時のプリンスの特異性が存分に発揮されていた傑作です。前半の"戦慄の貴公子""セクシュアリティ""ドゥー・ミー・ベイビー"はそれぞれ違う傾向を持ちながら、どれも当時のプリンスを代表するような素晴らしい名曲です。しかし、このアルバムで本当にすごいのは、何と言ってもメドレー形式でアッパーに畳み掛ける後半部分なのです。豊富なアイデアを惜しげもなく垂れ流す様はビートルズの『アビー・ロード』の後半部分、いわゆる「アビー・ロード・メドレー」に匹敵する凄さを持っていると思います。もしも自分がプリンスのベストアルバムを編集するとしたら今作の後半部分と『バットマン』のメインテーマである"バット・ダンス"をブチこまないと気がすまないでしょう。



シックス・バイ・セヴン
『ザ・クローサー・ユー・ゲット』


いま現在いちばん好きなバンド、シックス・バイ・セヴン。デビュー作の時点で既に、美しいメロディーと色彩豊かな音が印象的でしたが、2作目であるこのアルバムでは更にハードな一面が押し出されていて異様に盛り上がります。ザラザラとした感触を持ちつつもどこか甘い余韻を残してゆく音と、その中で翻弄されつつも最後の一線でキッチリと自我を保っている声がステキすぎるのです。
アルバムとしても、最初の2曲でガツンとぶっ飛ばしたあと3曲目"テン・プレイシズ・トゥ・ダイ"4曲目"ニュー・イヤー"をじっくり聴かせ、6〜8曲目にかけて混沌とした音を次第にアッパーに展開させ、9曲目からラストまではロマンチックに締めくくられるという完璧な流れ。
今作でギタリストが脱退するも、最新作ではさらにハードなギターを前面に出し、したたかな一面を見せてくれたシックス・バイ・セヴン。最近は、一日一回彼らのアルバムを聴かないとココロがおさまらないのです。



トーリ・エイモス
『ストレンジ・リトル・ガールズ』


今回のセレクトの中では、一番新しいCDです。
日本ではあまり聞かない名前ですが、本国アメリカでは相当な人気を誇るシンガーということです。自分はマニアゆえ、名前は知っていたものの、これまで何となくスルーしてきたので、今作が初めての体験でした。で、聴いてみると、彼女の荘厳でありながら色っぽくもある声がとんでもなく気持ちよくて、最近ではビョークやPJよりもスキになってしまいました。
このアルバムはすべてカヴァーソングで構成されていますが、選曲のセンスがモロに好みで、まるで彼女が自分の為に歌ってくれたのではないか?と邪推したくなるほどです。以下、好きな曲を列挙してみます。
"'97ボニー&クライド"
エミネムが演じる「妻を殺害し、娘と共に死体を湖に投げ捨てた男」の詩。彼女はラップこそしませんが、替わりに艶かしい囁きでこの詩を語ります。殺害した妻を湖に落とすくだりは、彼女の声が急にかすれるように聴こえ、思わずギクリとします。ここで彼女は息を吸いながら言葉を紡いでいるのです。その時、彼女は湖に妻を投げ込む夫でありながら、同時に湖水に沈んでゆく妻をも演じていると思うのです。
"エンジョイ・ザ・サイレンス"
デペッシュ・モードの有名曲を、彼女の得意なスタイルすなわち"静謐さを孕んだバラード"で歌い上げています。タイトルやその歌詞から伺えるように、もともとオリジナルの原形もバラードであったのを、テンポを上げてダンス・ソングになったという曲なので、そうしたものを想像しながら聴くと味わい深いです。
"アイム・ナット・イン・ラヴ"
10CCを知らなくとも誰もがどこかで耳にしているに違いない超有名曲。彼女は原曲に忠実に歌いながら、原曲に有ったスイートな部分だけを徹底的に排除していて面白いと思いました。
他にも、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ストラングラーズ、ビートルズ、スレイヤーなどの曲を歌っています。先にも書きましたが、なにしろ声が素晴しいです。へヴィな感情を乗せ空気を震わせればそれだけ周囲の静寂が際立つような、そんな不思議な声にメロメロです。


後記
チマチマと追加してきたこの企画ですが、10作揃ったところで打ち止めにいたします。
本心としては、気分が乗ればいくらでも追加できるといったところなのですが、キリの良い数字でスッパリとぶった切るのが、この企画の持ち味だと思いますので。



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