フィンローダのあっぱれご意見番

第78回:ふぁんきぃでグルーヴなアレ

初出: C MAGAZINE 1998年12月号
Updated: 1999-05-24

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既にホームページとか見ている方はご存知かもしれないが、PlayStationのビートマニアというゲームにハマっている。 曲に合わせて画面に出る表示に合わせてキーを叩いたりターンテーブルを回す、というもので、ゲーセンではかなりヒットしている有名なゲームである。 叩いたキーには音が対応していて、ドンピシャのタイミングで叩けばいいノリで曲にシンクロするが、外せばいくらでも外れて熱くなる、という仕組みだ。 ターンテーブルというのは今は昔使われていたアナログレコードを置く台のことで、スクラッチという奏法のために用意されている。 レコードを置いて手でテーブルを回せばキュイッという音がするというアレだ。

このゲームのポイントは異様な達成感にある。 最初は無茶苦茶で全然曲にならないが、慣れたらどんどん曲になっていくのだ。 楽器をやっている人なら経験があると思うが、難しいフレーズを練習して、やっと弾けたという時に舞い上がるというか、そういう感じなのである。 選曲はかなり偏っているので、好みの問題があるかもしれないが、ゲームと割り切ればかなり広いプレイヤー層に受けるのではないか。

PS版のビートマニアにはトレーニング機能があって、練習してから本番にハマることができる。 例えば指定した小節だけを速度を落として練習することが可能だ。 ただ、残念ながら、速度を落とした場合は音楽は出ないので、メトロノームのような単調なリズム音に合わせて操作することになる。 CDの音質を維持したい場合、44100Hzのサンプリング周波数なら1秒間に1回のサンプリングにLR合わせて4バイト消費するとして、4×44100=176400バイト。 圧縮しなければ、これが1秒の録音に必要なメモリとなる。 1分の録音で10,584,000バイト、約10MBと思えばよい。 MP3のような圧縮を使えばかなりメモリの節約になると思うのだが、もしかするとメモリが激安になって、次の世代のゲームマシンはメモリが64MB程度標準で使える、というような感じなら、案外いい分量かもしれない。 PlayStationの現在のスペックで無理なのは仕方ない。

もちろん、単にメモリ上にサンプリングしたデータがあればよいというものではない。 これを2/3の速度で再生するにはどうすればよいか、考えてみればすぐ分かる。 単にサンプル間隔を間延びさせたのでは、音の高さが狂ってしまうからだ。 しかし、PCMのデータのテンポやキーを変更する機能は、ハードウェアで実現しておけば、カラオケマシンとしても効果的に使えるわけで、そのうちゲーム機に標準装備するのが当たり前という時代になるのかもしれない。


ところで、トレーニングモードのユーザーインターフェースが、はっきり言っていまいちよくない。 特に、STARTと間違えてEXITを選択することがよくある。 この選択はターンテーブルで行うのだが、STARTを選んだつもりなのに勢いが付いていて次の項目のEXITまで移動してしまい、反射的に押したキーは取り消すこともできず、もう後には戻れないぞ、という状態になってしまうようだ。 その結果トレーニングモードからトップメニューに移動して、苦労して設定したオプションが全て無効になり、戦意喪失するのである。

ゲーム中の操作だと、ベスト6に入った時にイニシャルを登録する所で同じ状況が発生する。 例えば「P」を指定するには、「A」から一つずつアルファベットを先に送り、「P」の所で止めようとする。 ところが惰性が付いていて、実際に選択されるのは次の「Q」になることが多い。 これは「O」が現れた所で止めるのが正解で、それなら次の「P」の所まで進んでうまくいく。

早い話が、わざわざSTARTのすぐ隣にEXITというメニューを置くという感性に問題があるような気がするのだ。 もちろん、そのような設計が絶対にいけないとは言わない。 場合によっては隣接させた方が合理的かもしれない。 しかし、間違ってEXITを押した時に設定内容が全滅してしまうことに注目すれば、この設計は、やはり少しおかしいのである。

もちろん、現実的な想像としては、開発期間が短すぎてそこまで細部検討に手が回らなかったとか、その種の事情があるのかもしれない。 これはまた別の話として十分に納得できる。 製品の全てを完璧にするよりも、肝心な所の完成度が高ければ、些末な処理は多少荒い出来でも問題ない、という発想はよくあるし、現場では採用されるものである。 ビートマニアの場合、音楽に合わせて画面の表示をシンクロさせたり、叩かれたキーをただちに処理するという処理が重要で、それさえ完璧なら、他の機能は多少まずくても許せるのである。


UIがおかしいというだけでは無責任だから、どうすればよかったのかを考えてみた。 メニューの選択をターンテーブルで行うというのは大前提とする。 言い換えれば、入力デバイスのノリが良すぎてオーバーランする性質があるとする。

まず「間違ってEXITすることがある」という前提で設計してしまう手がある。 この場合の基本は、選択した後に本当にそれでよいか確認することである。 つまり「(y/n)」を選ばせるのである。 PS版ビートマニアでは、メモリーカードへSAVEするメニューを選択したら、さらに確認メニューでYES/NOを選択させてから実行するとうい二段構えになっている。 これと同様に、EXITを選択した時にもYES/NOの選択をさせてから実行するようにすれば、間違った時にもそこから引き返すことが可能になる。 しかし、この設計には、頻繁にそれが繰り返される場合にはやはり煩雑であるという問題が残る。

応用としては「EXITしたら困るのは、オプション設定が消滅するからだ」という所に注目すれば、トレーニングモードに入った所で、前回トレーニングモードを終了した時の状態に復帰する、という方法もある。 これは間違った時の被害を低減させるという対応である。


次に、メニューの並びに問題があるという考え方をしてみる。 STARTの隣にEXITなんて置くから話がややこしくなるのだ。 頻繁に選択する項目の隣に危険な項目があるというのがおかしい。

ビートマニアのトレーニングモードでは、メニューにモード選択(練習するか、曲を聞くか等の選択)、曲選択、オプション選択、スタート、終了、の5つを配置する必要がある。 この条件で、どう配置したら「うっかりEXITする」という操作ミスを最小にできるか。 これは簡単な話で、最も選択しない項目をEXITの直前に配置すればよい。 実際はターンテーブルが逆方向にも回るので、逆回転させた時に同様の問題が発生しないように配慮することも必要だが、基本は同じなので今回は考えないことにする。

さて、どれをEXITの直前に持ってくるとよいか。 スタートは駄目だと分かっているから除外する。 残り3つだが、操作イメージとしては、まず曲を選んで、それに対してモードを選択したり、オプションを指定したりしながら練習する、という感じになると思う。 ということは、曲を選ぶという操作は他の操作に比べると頻度が少ないということが考えられる。 ならば、これをEXITの直前に持ってきたら事故は少なくなると思われる。

これで問題が解決すれば簡単だし、既にそうなっている筈だから、実はそう簡単に話がすむ訳がないのである。 つまり、曲選択というメニューがEXITの直前にあるというのはどう考えても無茶苦茶不自然なのだ。 ユーザーとしては、練習を始める時に、まず曲を選択するかモードを選択して、それからオプションで詳細を決めて、その後はスタート、という手順を踏むはずである。 製品のメニューの順序はその意味では合理的である。 ただ、手順を踏み損ねてオプションとかの時間のかかる煩雑な設定を全てパーにしてしまうことが割とある、という問題を除けば。 ということで、この問題は結構奥が深い。


もう一つ考えられるのは、間違って次まで選択してしまうのなら、それを選択しても同じ結果になるように設計するということである。 例えば、スタートを選択するボタンを二つ以上並べてしまえばよい。 すると、最初のスタートボタンの所でターンテーブルを止めれば、仮に次の所まで選択が進んでも、やはりスタートを選んだことになる。

この設計は現実には有り得ない。 画面上にスタートというボタンが二つ並んでいるというのはどう見ても奇怪だから。 スタートではなく何かダミーボタンを使えば、奇怪さは少し弱まる。 例えば「・」だけ表示した緩衝地帯を設けるのである。 これも実際そこでポインタが停まったらどうするのだという問題があっていまいちだが、妥当な仕様としては、これを選択しても何も起こらないか、この項目に限って選択された場合は直前の項目が選択されたことにするといったところか。

ここまでイメージを膨らませたら解にたどり着くのはたやすい。 つまり、スタートボタンが二つ並んでいるように内部処理を行い、画面上の表示はボタン一つだけにする。 内部処理でどちらのスタートボタンが選択されていても、画面上の同じ所が選ばれているように見せかけるのだ。 この設計の弊害は、他の項目からSTARTをまたいでEXITに移動する時に、STARTの所で一瞬ポインタの移動が間延びするというか、多少の違和感があるということである。 STARTをまたぐ操作が頻繁にあると違和感膨大だが、実際はそういう状況はあまりなさそうだ。


最後に究極の方法というか、ターンテーブルを使って完璧にメニュー選択できるようにプレイヤーが熟練するという手もある。

この位の操作ができなくてビートマニアが語れるか、という声もありそうだが、トレーニングモードで修行するレベルの話なのだから、語れなくて構わないのである。 もしかしてそれも修行のうちなのだろうか。 確かに楽器を演奏する時に、ちょっと早めにアクションを完了させるとか、そういった工夫は必要な時がある。 ピアノの鍵盤を叩く所をイメージすれば分かりやすい。 音は、鍵盤を叩き終わったあたりで出る。 つまり、鍵盤を叩こうという意識は、音が出る少し前に動作として実現されていなければならない。 これは慣れてくると無意識のうちに時間差を含めた動作として完結するようになるから、いちいち微妙な時間差を考えなくてもgrooveな演奏ができるわけだが、何もトレーニングモードのメニュー選択でそこまでやる必要があるとかいうとどうも疑問なので、むしろUIの設計にまだ工夫の余地があったような感じがする。

(フィンローダ ニフティサーブ FPROG SYSOP)


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