『腐女子的日語工口50音』がすごすぎる

 2011年1月にプライベートで台湾へ旅行に行った。台湾のおたくな本屋に入って面白いモノはないかと、あれこれ棚をチェックしていて見つけたのが、この『腐女子的日語·工口50音』。ホテルで抱腹絶倒していた気持ちを皆さんにも分かち合ってもらいたく、ここに紹介してしまおう。ちなみに、筆者は、中国語も全くできないので、このページの中国語におかしいところもあるだろうし(なのに、この本の日本語に一部ケチつけてます、スイマセン)、中国語圏のおたく事情にも詳しくないので、的外れなことを言っていたら、ご指摘いただけると幸い。

この画像は、発行元の『腐女子的日語·工口50音』のページにあるもの

 奥付やサイトの情報からするに、発行は2010年12月とつい最近。(このページによると、2010年12月26日に香港の九龍灣國際展貿中心で開かれた同人誌即売会RAINBOW GALA6の企業ブースが初売りみたい)。香港の萬聯文化事業有限公司という会社の出版。大陸(Mr.ghost、George)・香港(柳宫燐、Bee*、时草)・台湾(MOTO(人物设定)、NEMOH、K.I奇艾、appu、LA)の合計10人のまんが家や絵師を集めてイラストを描いてもらった腐女子向けの日本語教材という体裁を取っている。なので……。

この画像は、購入した『腐女子的日語·工口50音』の裏表紙をスキャニングし、説明を付加した。

 という感じで、「本屋で棚に並べるときは、まんがの棚か、日本語学習の棚に」と書いてある模様。一方で、サイト上には『此書內容並不適合未成年人士觀看*』と「未成年が見るにはふさわしくない内容」とも書いてあって、こりゃ、書店員さんは大変だぁ。で、「日本語基礎入門」などというコピーもあるのだが、内容はかなりディープで、正直とても「基礎入門」ではないよ。

 さて、五十音に関する日本語教材ということなので、10人の描き手さんが、それぞれ思い思いのキャラクターを描き始めたら、本全体の印象が発散してしまうということなのだろう、「あ(亞)」くん、「い(伊)」くん、「う(烏)」くん、「え(誒)」くん、「お(奥)」くんの5人が母音擬人化で登場する(笑)。おおー、今どきじゃないですか。しかも、「あ」くんは熱血、「い」くんは鬼畜眼鏡、「う」くんは隻眼オヤジ、「え」くんはニヒル、「お」くんはショタ(でも、腹黒ドS)、という属性づけまでなされている!

この画像は、http://goods.ruten.com.tw/item/show?21011276165428にあるもの

 芸が細かいことに、各キャラクターごとの頁もある。それぞれがどういう性格なのか、そのキャラクターが他の4人にどういう印象を持っているのか、キャラクターの身長・体重、好きな色、好きな食べ物、攻・受どっちなの? まで造り込んである(スゲー)。

この画像は、http://item.taobao.com/auction/item_detail.htm?item_num_id=8560988649にあるもの

 傑作なのは、特約店さんで事前予約すると、5人の内1人のミニイラストの特典がつくという!! 同人誌即売会RAINBOW GALA6の企業ブースで購入の場合は、会場限定のプレゼントもあったみたい(日本となんにも変わりません)。

この画像は、発行元の『腐女子的日語·工口50音』のページにあるもの

 ようやくの本の内容だけど、日本語の五十音ひとつひとつから始まる「ボーイズラブ的セリフ」ひとつをイラストと中国語の対訳で説明するという形式。メインのセリフだけでなく、もう二つのセリフの中国語訳も載っている。加えて、同じ五十音から始まる「BL用語」(一部違うモノもあり)4つについて、中国語による解説が付いている。

この画像は、発行元の『腐女子的日語·工口50音』のページにあるものに説明を付加した

 まあ、中にはお茶目な翻訳ミスがいくつかあるんだけど(例えば、下記イラスト参照)。「照らしてる」じゃなくて「照れてる」と言いたいのね。まあ、それはご愛敬ということで……。

この画像は購入した『腐女子的日語·工口50音』をスキャニングした

 そして、用語解説が、とにかく面白い。

『やおい/801、無高潮、無低潮、無意味的故事。早期的BL的代名詞』

という真っ当なところから、

『やおい穴/801洞、一個不存在於真實男性身體神秘洞穴(不是肛門啊)』

というキワなところにもいったりする。

『二丁目/新宿二丁目、日本同志聖地』

は「日本の同性愛者の聖地」。ちなみに、「乙女ロード」は……、

『乙女ロード/位於池袋的腐女子聖地』

とこっちは、「腐女子の聖地」(このページの初公開時、「同志」という意味がわかっておらず、まちがったツッコミを入れてました。ご指摘ありがとうございました)。全般的にとてもいろいろなことをよく知っているなあという印象を受けた。例えば……、

『CHARA(本当は「Chara」)/清水向的BL漫畫雑誌』
『花音/清水系BL漫畫雑誌』

と呼ぶ一方で(<向的>と<系>」の違いがわかりません)、

『麗人/重口味BL漫畫雑誌』

と紹介している(紹介されている雑誌はなぜかこの3つだけ)。また……、

『魔性のゲイ/魔性的GAY・小野裕一』

と、キャラ名だけで説明がない。そうか、作品名がなくても、わかるんだなぁ(ちなみに言うまでもなく「西洋骨董洋菓子店」である。為念)。

『木原音瀬/小說界之神』、『よしながふみ/吉永史=神』

と紹介されているから、当然っちゃ当然か。ただ、何に驚いたって、日本との時間差がないこと。昨年末の発行とはいえ、もう「エルシャダイ」ネタが!!!

『ルシフェル/『萌天使路西法、最近憑「這様的裝備有没問題」得到流行語金獎、恭喜』


 ということで、『腐女子的日語·工口50音』の紹介を面白おかしくしてきた。日本国内でこんなたぐいの本が作られると、「なんか頑張り過ぎなんじゃね?」というビミョーな気持ちになったりもするのだけど、海外のファンが盛り上がっていると思うと、違うスイッチが入るから不思議。そして、日本的おたく的様式が、こんな形でも海外で受容されているということが、改めて衝撃。最後に、これに関連して、一昨年のコミケット77のシンポジウムで、外務省の中川勉氏が、こんな二つの発言をされているのを紹介しておきたい(一応、まじめに締めてみたい)。

「ポップカルチャー外交の基礎にある、パブリック・ディプロマシーというのと、ソフトパワーという考え方を紹介したいと思います。パブリック・ディプロマシーというのは、外交の相手は政府だけではなく、市民や国民も直接の対象としてアプローチしていくべきであるという考え方です。そのときに特に有望な働きかけの対象としてクローズアップされるのが、柔軟で吸収力の高い青少年層ということになります。これは日本で始まった考えではなく、もともとはイギリスで始まった考えです。パブリック・ディプロマシーを進める時に重要だと言われているのが、ソフトパワーです。ソフトパワーってなんなの? と言いますと、その源泉は、文化とか価値観といったものだと言われています。ハーバード大学のジョゼフ・ナイ教授の説明だと、ソフトパワーの重要な要素とは、強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を生む能力だということです。まさに憧れや魅力、これがソフトパワーの源泉なんですね。」

「ポップカルチャー外交を通じて、何が大きく変わったかをお話します。それは、今までの伝統文化を中心とした文化事業の中ではなかなか見えてこなかった人たち、つまり、潜在的な日本ファンというのが、世界中のいろいろなところにいろいろな形でいるんだというのが分かってきたということです。こうした従来の目からは隠れた日本ファンを掘り起こし、よりコアで積極的な日本ファンにしていくということが、私たちのこれからの最大の課題なのではないかと思っています。」

 まあ、これが米沢嘉博流だと「コミケットによる世界征服」になるんだけれど……(あっ、言ってるそばから締まらなかった……)。ともかくも、この本を肴に盛り上がれること必至なので、香港、台湾、中国(本土でこの本大丈夫なの?)へ行かれるBL好きの人は、是非とも入手をオススメします。

(2011/01/19)

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