Z280 MPU

Zilog社はZ80ファミリで大成功しましたが、それに続くZ80ファミリ直系の高性能マイクロプロセッサはなかなか発売されませんでした。もちろん、Z8000ファミリはありましたがZ80と少し似ている程度の新規アーキテクチャですし、1981年くらいまではそこそこのシェアも確保していましたが、8086系列やMC68000系列がその後に発展していくスピードと比べると取り残されてしまった感があります。そういえば32 bitプロセッサのZ80000もはたしてどれくらい販売されたのかわかりませんねぇ。Z80に一番近いレベルではZ800というのもうわさレベルでいろいろとささやかれていました。Z80 CPU命令互換の16 bitプロセッサだとかPascalのPコードを直接実行できる機能がついているとか。結局、vapor wareになってしまったみたいですが。
そんなZilog社がついに発表して、実際に販売にまでこぎつけたZ80ファミリ直系プロセッサがZ280です。Z80 CPUとオブジェクトコード互換の16 bitプロセッサで、メモリ管理ユニット(MMU)を内蔵していて物理アドレス空間が16 MByteに拡張され、キャッシュメモリを内蔵し、クロックジェネレータやカウンタタイマ、UARTなどの周辺回路も付いています。MMUやキャッシュメモリを内蔵というと、まるで32 bitプロセッサ並みの重装備ですね。
バスインターフェースの信号やタイミングについては、Z80互換とZ8000互換のどちらかを選べます。つまり従来の周辺LSIを利用できるようになっています。
 

Z280
最大クロック周波数12 MHzのZ280。伊藤様よりの頂きものです。

しかし、すでに8086, V30, MC68000などが2000円程度で購入できる時代に、生産初期とはいえ3万円を越える価格ではなかなか採用する気にはならないでしょう。量産すれば急激に価格が下がるとはいえ、MC68000並になるにはMC68000並に売れなくてはならないわけですし。少し性能が低くてもよければ、Z80 CPUオブジェクトコード互換のHD64180がやはり安価に供給されています。内蔵周辺回路まで含めて性能的には同格の80186やV50とも競合します。本格的なMMUを内蔵したのも少しはずしていた感があります。当時、このクラスのマイクロプロセッサで64 KByteを越えるメモリが必要な場合といえば、音声再生用データとか漢字フォントデータのような巨大な定数データが必要な場合とか、大容量のデータバッファメモリが必要とか、そんな場合がほとんどです。複数のプログラムを同時に並行して実行して、しかもそのコードの合計が64 KByteを越える規模ということはめったにありませんし、そんな応用ならさっさと使いやすい16 bitマイクロプロセッサを採用します。単に大きめのデータ空間が必要なら、バンク切り替え的アドレス空間拡張をおこなったり(HD64180)、特別なアドレッシングモードの場合だけ大きなアドレス空間にアクセスしたり(TLCS-90の一部)する方がプログラムしやすいと思います。1987年では、もうZ280クラスをパーソナルコンピュータ的なものに応用するにはちょっと時期が遅いですし。
そんなわけで、あまり使われなかったのでしょうね。
 

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