4 Kbit S-RWM

2114とTMS4044に代表される4 Kbitのスタティックメモリは、マイクロコンピュータにおけるダイナミックメモリの利用が普及する前に広まり、主記憶としてS-RWMがもっぱら使われた初期の時代の最後を飾りました。
2114は4 bit×1024 WordでI/O共通構成で、1 Kbitメモリの2112と似た制御方式になっています。2個で1 KByteのメモリを構成できます。基本的には4 KByte未満のメモリシステム用です。
あぁ、2114が2個で7000円で買える。メモリが安くなったなぁ、と思ったのは1978年頃だったかなぁ。あー、もうはるか昔の話だ。

2114
左からNEC、日立、沖電気のセカンドソース。沖のだけ300 nsのアクセスタイムで、他は450 ns。

本来2114は小容量メモリ用だったはずですが、大量に使われたために安くなり、安くなったために大量に使われるというサイクルが成立して安価になった結果、32 KByte程度の大容量のメモリボードにも使われました。本来、大容量メモリ用に開発されたのがTIがオリジナルのTMS4044系で、1 bit×4096 Word構成でI/O分離タイプです。1 Kbitメモリの2102Aと同じような回路構成で使用できます。

TMS4044
これは三菱の互換品。

ところでS-100 Busシステムなんかで実際に32 KByteメモリボードが2114を用いて作られていたけれども、2114の最大の問題点は消費電力でした。初期のものは1個で100 mA以上流れていて、最悪で600 mWも消費します。まぁ、仮に100 mAとしても、32 KByteのメモリボードには64個使われ、TTLバッファの消費電流と合わせて7 Aくらい消費します。S-100 Busの場合、ローカルレギュレータ方式という電源管理のため、ボードには約8 V供給されていますから、なんとメモリボード1枚の消費電力が56 W。S-100 Busの基板なんてそんなに大きなものじゃないので、1101以来の熱破壊の恐怖が再発しました。
なお、上に掲載した写真のICはすべてローパワー化された2114L相当品で、多くても70 mAの消費電流です。仮に50 mAでも32 KByte分で3.2 Aの電流を消費しますから、n-MOSのスタティックメモリは大食いです。8080Aのシステムの場合、ダイナミックメモリはリフレッシュ調停回路が必要だったりして、あまり使われませんでしたが、Z80はダイナミックメモリを使えるように最初から設計されていますし、MC6800/MC6809はバスタイミングの都合上、ダイナミックメモリが使いやすくなっていました。ダイナミックメモリの初期は使用するための付加回路が複雑だったため、大型コンピュータでもっぱら使われていましたが、4 Kbit D-RAMから16 Kbit D-RAMへの移行期には、マイクロコンピュータでも大容量メモリを使う場合はD-RAMを採用するようになってきました。大容量のD-RAMを使えばシステムが小型化するというのはもちろんですが、D-RAMのメモリシステムは2114のものよりずっと少ない電力で動作するというのも好まれた理由のひとつだと思われます。

2114とピン互換のCMOSメモリであるM58981。1978年に発売のCSクロックタイプのメモリLSIです。

M58981

じゃ、ここでCSクロックタイプのメモリについて。
CMOSメモリ、いや一般にCMOSプロセスのICは、信号が変化する瞬間に大きな電流が流れます。消費電力の大半が信号変化にともなって流れる電流に起因するといっても過言ではありません。2102やら2114もそうなんだけれどもスタティックメモリの大半は、チップセレクト信号やアウトプットイネーブル信号が有効な期間、アドレス信号を変化させれば対応するアドレスの内容が出力されます。だからこそ使いやすいところがあるのですが、前述のCMOS ICの性質を考えると、消費電力の点で不具合が生じます。たとえばCPUが出力するアドレス信号がすべて同時に、一瞬に変化して、それがそのままメモリICのアドレスピンに伝わるならば、問題はありません。しかし、各アドレス信号の負荷条件が異なるなどして、あるアドレスはすぐに出力されるのに別のアドレスは50 nsくらい遅れてから確定するというようなことが起きるかもしれません(当時のメモリサイクルは500 nsくらいありました)。すると、アドレス信号が個別に変化するたびに別のアドレスを読みだそうとしてメモリICの内部回路がばたばたと切り替わり、その際に消費電力が増大してしまいます。当時、高価なCMOSメモリをわざわざ使用するのは消費電力を下げたいからに決まっているというわけで、これでは具合が悪い。そこでチップセレクト信号が有効になった瞬間にアドレス信号を取り込み、読み出し回路は取り込まれたアドレス信号をもとに動作するような構成が工夫されました。チップセレクト信号が有効になっている間にアドレスが変化しても、先に取り込まれたアドレスの内容にアクセスするだけで変化したアドレスをアクセスすることはありません。また、チップセレクト端子が有効になってからメモリICが動作しはじめるため、それ以前にアドレス信号が変化しても内部は何も応答しません。通常の2114のようなスタティックメモリICではチップセレクト信号が有効になってからのアクセスタイムを稼ぐため、チップセレクト信号が無効でも、アドレスが変化すると特定のビットを選択する回路は対応する動作を行っていました。
このように、アクセスタイムや使用法に制限がついても消費電力を下げようとしたメモリがCSクロックタイプのCMOSメモリです。同程度の消費電力で動作させるのなら高速化できます。動作の基準タイミング、すなわち動作クロックを与えるのがCS信号のため、この名称が使われています。256 bitから4 KbitのCMOSメモリの大部分がこの形式でした。16 Kbit以降のCMOSメモリでは少なくなってきます。使いにくいのと、これは動作時の消費電力を減らす技術であってバッテリバックアップ時の消費電力には無関係でしたので、内部のトランジスタの性能が向上していくに従って、すたれたのでしょう。

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