HM6116 16 Kbit Static RWM

16 KBitスタティックメモリが出現する少し前から、マイクロコンピュータの世界でも大容量メモリにはダイナミックメモリが普通に使われるようになりました。4 Kbitダイナミックメモリの初期は大型計算機用の特殊なメモリICというイメージで取られていましたし、マイクロコンピュータの応用として必要なメモリはせいぜい8 KByteくらいでしたから、1 Kbitのスタティックメモリで実装されることがよくありました。4 Kbitスタティックメモリは1 Kbitスタティックメモリの延長として16 KByteや32 KByteのメモリ実装に使われることもありました。しかし、16 Kbitのダイナミックメモリが安くなる頃には、Z80 CPUを用いたパーソナルコンピュータが出現しはじめて、16 KByteから64 KByteの容量のメインメモリが使われるようになります。しだいに4 Kbitスタティックメモリがメインメモリに使われることがなくなります。
CMOS 16 Kbitスタティックメモリのサンプル出荷を各社が始めたのは1979年末から1980年始めでしたが、その頃には64 Kbitダイナミックメモリが発表されていました。16 Kbitダイナミックメモリを単に大容量化しただけでなく、より使いやすくなっています。つまり大容量メモリにスタティックメモリを使用する理由がなくなってきていました。では、従来の4倍の容量のスタティックメモリが実現しても無意味になってしまったのでしょうか。
この頃から主流スタティックメモリのビット構成が変わります。従来は1チップのデータ幅は1 bitだったり4 bitだったりするのが主流でした。たとえばTMS4044なら4096×1 bit構成で、2114なら1024×4 bit構成です。これは、複数のICを組み合わせて大容量メモリを構築するときに有利になる構成です。
HM6116の場合、2048×8 bit構成の16 Kbitメモリです。8 bitプロセッサなら1個だけで2 KByteのメモリになります。従来は数個のICを組み合わせて2 KByteのメモリにしていたのを、1個で実装できます。これが16 Kbit以降の戦略です。1個ないし数個で充分な容量のメモリを提供する。それ以上必要ならダイナミックメモリを使えば良いという割り切りです。
しかも、端子配置をROMの2716と互換性を持たせました。組み込み用コンピュータで24ピンのICソケットを4個ほど用意して、プログラムが長くてデータは少なめでよいなら2716を3個とHM6116を1個使用し、プログラムは簡単だけれどもデータが多く必要なら2716を1個とHM6116を3個というような組み合わせにしたりできるようになりました。
パーソナルコンピュータは大容量メモリが必要ですからこの種のメモリは使われず、組み込み用コンピュータで小さなメモリを使うときに便利にしようという考え方で、合理的にできています。

表題のHM6116は日立製のCMOSプロセスの16 Kbitスタティックメモリです。これ以降、日立が8 bit構成のCMOSスタティックメモリの主導権を握った感があります。2716とピンコンパチでスタティックメモリですから、ちょっと2 KByte必要なときにはぴったりでした。
2 KByteあれば小規模な組み込み用コンピュータのスタック領域と作業領域には充分でしょう。たとえば、Z80 CPU + 2716 + HM6116 + 8255 * 2といった構成や、MC6802 + 2716 + HM6116 + MC6821 * 2といった構成の組み込みシステムが考えられます。これらの構成なら葉書サイズ以下の基板で実装できます。
n-MOSプロセスで作られたのももちろんあります。n-MOSプロセスでも非アクセス時には消費電流を減少させる工夫が取り入れられています。

HM6116, TMM2016
左はバッテリバックアップ可能なHM6116L-3でアクセスタイム150 ns。右はn-MOSプロセスのTMM2016P-1でアクセスタイム100 ns。

あと、16 Kbitになって標準品の(特別な高速品でなくても)スタティックメモリでもアクセスタイムが速くなっています。2102ALや2114Lの標準的なアクセスタイムは450 ns程度だったのですが、これらのメモリのアクセスタイムが200 ns以下になっています。ただし同時に併用されることの多かったUV-EPROMの2716や2732の標準的なアクセスタイムがあいかわらず450 ns程度だったので、あまり活かせる場面はありませんでしたが、CMOSプロセスでも比較的高速のLSIが作成できるということは感じられました。

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