UART各種

調歩同期式、あるいは非同期式のシリアル通信は、マイクロコンピュータ出現以前から存在しました。いや、コンピュータと独立に使用されていたというべきでしょうか。電話回線や無線回線で文字情報をやり取りするテレックス、機械電信装置で使われていたのです。通信回線では、同時にいくつものビットを送ることはできません。ある瞬間に送る情報は1か0かの1 bitに限られます。しかし、文字情報は英文字だけでも5 bitは必要です。そこでシリアルに1 bitずつ送受信する装置が発明され、使われていました。
その送受信装置は最初は機械的なものでした。キーボードのある文字を押すと、モータでたくさんの接点のついたドラムが回りだして1回転します。ドラムの一番右側の接点は、たとえば0000011というオンオフパターンを作り出し、その次の接点は0000101というパターンを作り出し、その次が0000111というパターンでオンオフするようになっています。押された文字キーに相当する信号パターンを通信回線に送り出せば、特定のビット列を送信したことになります。受信側では通信回線から0が受信された瞬間に複雑な歯車の組み合わせがモータで駆動されはじめ、その後のビットパターンに応じて特定の活字が選ばれて紙に文字が印字されます。装置は小型の机くらいあり、動作音は会話がしにくいくらいうるさいものでした。
デジタル回路が普通に使われるようになると、だんだんと装置の中身が電子化していきます。ダイオードの組み合わせでキーボードのスイッチに応じた(パラレル信号の)2進数表示の文字コードを作り出し、シフトレジスタでシリアルに直して送信すれば、送信時にうるさいモータと接点の駆動音を聞かなくて済みますし、小型軽量になります。受信側ではシフトレジスタでパラレル信号に直し、それを解読して、電動タイプライタのキースイッチの文字コードに対応した場所をオンにしてやれば、文字をタイプライタ出力できます。電動タイプライタといっても、機械式タイプライタのキーを押す力の部分を電磁石のソレノイドで駆動して、紙送りをモータで電動化しただけのものです。それでもポータブルな10 kg以下のテレタイプライタができそうです。
そうなってくると、共通に使われる部分をLSI化してワンチップにしてしまえば、小型に安く作ることができます。パラレル信号とシリアル信号の変換部分はシフトレジスタだと簡単に説明していましたが、実はいつ文字コードが送られはじめたか検出する部分とか、エラーなく文字コードが送受信できたか判定する回路とか、結構複雑になっています。半導体産業が未成熟で小規模な集積回路しか作れない時代には20個くらいのICが必要だったかもしれません。しかしLSIを製造できるようになれば話は別です。完全ワンチップのLSIにしてしまえということで開発されたのがUniversal Asynchronous Receiver Transmitter (UART)です。
開発経緯がそういうことですから、送信回路と受信回路は独立していて、送信データを与える8 bitのデータ入力と、受信データを出力する8 bitのデータ出力も個別になっていて、双方向データバスのようなものは使われていません。(内部構造の図を描いてなくてごめん。)マイクロコンピュータと接続することなど考えられていなかったからです。ただし、マイクロコンピュータのファミリLSIでシリアル入出力LSIが手に入りにくかったり高価だったりした時代には、マイクロコンピュータに接続して使用した例もたくさんあります。

UARTs

いちばん下のIntersil製のIM6402がCMOSプロセスなのを除くと、すべてp-MOSプロセスで製造されている。特にIM6402はIM6100シリーズCMOSマイクロプロセッサファミリの一員として開発されたため、単一電源で広い動作電源電圧範囲を保証されている。p-MOSのUARTは+5 Vと-12 Vの2電源が必要なものが多い。電源条件を除けばUARTはピン互換。

しかし、最初からマイクロコンピュータと一緒に使うことを考えると話は別です。コンピュータの双方向データバスに接続することにすれば、パラレルデータの入出力に16本使う必要もありません。新しい文字を受信したとかエラーがあったとかいうステータス情報も、独立した端子に出力するのではなく、内部レジスタからの読み込みという形にしてデータバスを通して入力すれば、さらに端子が減ります。そうやって合理化して小型化した周辺LSIが、たとえばIntel社の8251だったりMotorola社のMC6850だったりしたわけです。
マイクロコンピュータが普及してしまうと、テレックスのような通信機器の中にも必ずマイクロプロセッサが使われるようになります。そのため、早い時期にマイクロプロセッサの流れとは独立していたUARTは姿を消すことになるのです。

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