RTC

パーソナルコンピュータ的な応用について時計が必要なのはおわかりと思いますが、たとえばたばこや酒類の自動販売機のように地域によって動作時間を指定されている装置に組み込まれるコンピュータにも時計は必要です。また、ビデオテープレコーダのように、タイマ動作が必要な機器というのもたくさんありますね。ただ、常時コンピュータに電源が入っている用途の場合、たとえば10 ms程度の間隔で割り込みをかけるようにして、コンピュータで時刻をカウントして管理する方法があります。こうすれば時計専用ハードウェアは不要になりますから、コストダウンが実現できます。しかし、コンピュータ本体の電源が切られている間でも時計を動作させておきたい場合、ほかの部分と独立した電池で動作を続けることのできる時計専用LSIを使用することになるでしょう。
 
 

代表的なものを集めてみました。

RTC Devices

uPD1990AはNECのPC9801シリーズ初期の製品に使われていました。時分秒、月日、曜日をシフトレジスタから読み出すことができます。ただし、年が入っていません。uPD1990に年情報が追加されたものが写真でuPD1990Aの右にあるuPD4990Aです。後期PC9801に使われています。
uPD1990Aがシフトレジスタ方式の入出力なら、4 bit単位での入出力の代表が沖電気のMSM58321です。時刻やカレンダ情報は小さな数値で表されることと、炊飯器のタイマーのように4 bitマイクロコンピュータが使われるような組み込み機器に内蔵されることが想定されたため、8 bit単位の入出力が可能なLSIの方が少数派です。
ほとんどの時計用LSIは32.768 kHzの水晶発振子を接続し、その発振周波数を基準に計時します。発振周波数が低ければ低いほど消費電力が小さくなりますし、腕時計を始めとする一般の時計に広く使用されて量産されている安価な水晶発振子でありますし、バイナリカウンタで分周すれば簡単に1 Hzパルスを作成できるためです。時計メーカとして有名な諏訪精工舎はDIPのICパッケージの中に水晶発振子まで集積する技術を持ちます。水晶振動子を外付けしなくてもすむ時計用LSIを作れるわけです。そこで沖電気のMSM58321に水晶発振子を組み込んだのがRTC-58321で、同じく沖電気のMSM62421に水晶発振子を組み込んだのが写真のRTC-62421です。インピーダンスが高くノイズに気を使わなくてはならない時計用水晶発振子を外付けしないですむ分だけ、使いやすくなっています。逆に、水晶発振子の端子がありませんから、可変コンデンサなんかで発振周波数を微調整することはできず、高精度に調整して合わせこむことはできません。まぁ、コンピュータ用の時計で精度にそんなに気を使っているようなのはあまり見当たりませんし、高精度が必要なら別の方法で校正できるので問題ないんでしょう。さらにRTC-62421はアクセスタイム120 nsを保証しているしデータ端子の低レベル出力電流が2.5 mA保証されているなど、小規模なコンピュータシステムのバスに直結するのに充分な性能があるのも見逃せません。
リコーのRP5C01は4 bit単位の入出力を行うICですが、タイマー設定ができるとか、26×4 bitの時計と同時にバックアップされるCMOSメモリ内蔵など、高機能になっています。時計には常にバックアップ電源が供給されているのだから、ついでにCMOSメモリも組み込んで主電源がオフになっている間も保持させようというわけです。1980年代始めはシリアル入出力のEEPROMのような、システムのパラメータ情報保持に便利なメモリが使いやすくありませんでしたから、結構便利だったかもしれません。これもCPUのバスに直結できるだけの性能がありました。
8 bit以上のマイクロプロセッサに接続することを前提にしている変わり種がMC146818で、写真には日立のセカンドソースを載せています。MOTELインターフェースを持ち、MC6801や8085なんかに直結できます。しかも50 Byteのメモリも内蔵していて、時計と一緒にバックアップ動作が行われます。これはIBM PC/AT系列で採用され、CMOSメモリなんて呼び名のもとになったICですね。

普通のCMOSロジックICを用いて時計の基準信号である32.768 kHzを発振させただけでも、腕時計などの時計用LSIの消費電流の10倍以上の電流が流れてしまいます。もともとのCMOS回路に使われているトランジスタの特性が汎用ロジック回路用と低消費電力の時計用と異なるためです。小さな電池で1年以上動作させたい時計用LSIは、汎用ロジック回路と異なり1 usはおろか10 us単位の時間で動作する部分などありません。ですから応答時間を思い切り遅くして、その分消費電力が少なくなるようにトランジスタレベルから設計しています。
コンピュータ用の時計では、電池でできるだけ長く動作してもらいたいけれども、コンピュータからのアクセス時に応答時間が遅すぎては困ります。そこで初期の時計用LSIでは、このバランスに苦労していた跡が見られます。
きわめて初期のuPD1990やM58321では、アクセスタイムの問題をあきらめた設計になっています。必ずコンピュータのI/Oポートから操作することにして、応答速度が数マイクロ秒でもI/Oポートを介せば当時のコンピュータにとって適当な時間になるだろうというわけです。
逆にMC146818はバスに直結できましたが、バッテリ動作時の消費電力はuPD1990などの数倍以上あり、不利でした。
さすがに最近のRTC62421Aなんかはバッテリ動作時の消費電力はuPD1990より1桁以上小さくなり、アクセスタイムはMC146818よりも速くなっています。同じLSIの中でも使用される回路によってトランジスタの特性をコントロールできるようになったためでしょう。

Return to IC Collection