uCOM-8

NECは、他社の開発したマイクロプロセッサの仕様を入手して、ほぼ同じプロセッサを開発するという行為を何回も行っています。その最初期のプロセッサが、このuPD753です。

uPD753

ソフトウェア的にはIntel社の8080と互換性がありました。ところで、お暇な人は写真のパッケージのピン数を数えてみてください。そう、後のuPD8080Aと異なり、ハードウェア互換性はないのです。このパッケージは42ピンDIPで、40ピンではありません。増えた2ピンにはどんな機能の信号が追加されているのか気になるところですが、実はNC、なにも使われていません。信号の意味やタイミングは8080と同じですが、ピン配置がかなり異なっています。どうやら、当時の日本では次世代の多ピンパッケージの標準は42ピンにしようという考えがあったようで(そう、この種の多ピンパッケージは使われ始めたばかりでした)、同時期に東芝なんかでも42ピンパッケージのICをいくつか発表しています。ついでに、このピン配置、本家の8080と比べてもなかなか論理的で、関係の深いピンが隣同士になっているなど使い易くなっています。以下にそのピン配置を。

RDY   1      42 RESET
WAIT  2      41 VDD (+12 V)
SYNC  3      40 VCC (+5 V)
INT   4      39 HLD
INTE  5      38 HLDA
WR*   6      37 AB15
DBIN  7      36 AB14
CK1   8      35 AB13
NC    9      34 AB12
NC   10      33 AB11
CK2  11      32 AB10
DB0  12      31 AB9
DB1  13      30 AB8
DB2  14      29 AB7
DB3  15      28 AB6
DB4  16      27 AB5
DB5  17      26 AB4
DB6  18      25 AB3
DB7  19      24 AB2
VSS  20      23 AB1
VBB  21      22 AB0
(-5 V)

こんな形で、データとアドレスはきちんと順序良く並んでいますし、RDYとWAIT、INTとINTE、WR*とDBIN、HLDとHLDAは隣り合っています。NCを挟んでいますがCK1とCK2も揃っていますね。8080のピン配置と比べてみてください。自分たちの方が優れているものを作れるという誇りのようなものを少し感じてしまいます。もっとも8080とピン互換でないわけですから、uPD753を用いた装置はuPD753が何かの事情で手に入らなくなれば製造できなくなりますし、他社がいくら8080Aを量産して価格が下がっても安価な8080Aに差し替えてコストダウンできなくなってしまいます。他の有力半導体メーカが8080Aの互換品を生産してuPD753では商売が危ういとわかると、じきにNEC自身もハードウェア互換のuPD8080A (uCOM-80)を生産するようになりました。
結局、uPD8080Aが普通に使われるようになると、市場から姿を消していきます。ちなみに、1977年頃のこいつの秋葉原店頭価格は27000円くらい。当時はすでにuPD8080Aが1万円を切りはじめていた頃でした。
なお、フラグ関係でIntelの8080に追加があり、減算時のBCD補正がuPD8080Aと同様に可能になっています。

タイトルのuCOM-8は今風にいえばuPD753を中心に構成したコンピュータアーキテクチャを指すものです。uCOM-8というアーキテクチャ(ハードウェア・ソフトウェアの両方を含む)があって、それを具現化したもののひとつがuPD753としたほうがよいかな。1980年以前のNECのラインアップを並べると、こんなにありました。

uCOM-4 : uPD751
uCOM-41 : uPD541 + uPD542 + uPD543
uCOM-42 : uPD548, uPD555
uCOM-43 : uPD546, uPD556
uCOM-43H : uPD553
uCOM-44 : uPD547
uCOM-44L : uPD547L
uCOM-44H : uPD552
uCOM-45 : uPD550, uPD554
uCOM-45C : uPD652
uCOM-46 : uPD551
uCOM-47 : uPD766
uCOM-8 : uPD753
uCOM-80 : uPD8080A
uCOM-80F : uPD8080AF
uCOM-82 : uPD780 (Z80 CPU)
uCOM-84 : uPD8048, uPD8035L, uPD8049
uCOM-85 : uPD8085A
uCOM-87 : uPD7800, uPD7801
uCOM-16 : uPD755 + uPD756
uCOM-1600 : uPD768
8 bitのところがuCOM-87を除いて互換品ばかりになっていますね。uCOM-87は8080に似たアーキテクチャの組み込み用シングルチップマイクロプロセッサファミリで、この後に大成長します。マイクロコンピュータが出現してから10年経っていない時期ですし、その半分はマイクロコンピュータが何の役に立つのか、ほとんどの企業ではっきりと認識されていなかったような年月です。その間にCPUだけで(上のリストにはI/O関係やメモリ関係はありません)これだけ開発するとは、NECの力の入れ具合がわかります。

Return to IC Collection