Am29000

AMD社はIntel社の8080Aのセカンドソースになったり、16 bit時代はZilog社のZ8000ファミリのセカンドソースやIntel社の8086のセカンドソースとなったりして、それほどオリジナルのマイクロプロセッサには力を入れていなかったみたいですが、32 bit時代になって突然オリジナルのマイクロプロセッサを発表しました。それがAm29000です。ビットスライス方式のLSIセットで有名な、かつてのAm2901ファミリを連想させる型番ですね。
しかし、その中身は集積化が進んだビットスライス型のマイクロプロセッサではなく、実にRISCの王道を行くようなRISC方式のマイクロプロセッサでした。

Am29000
169ピンPGAパッケージのAm29000で1988年製です。鈴木様よりいただきました。しかし、パッケージ左上のAMDのロゴマークは別にして、右下には京セラのロゴマークが。セラミックパッケージメーカとしての主張なんでしょうか。

内部は1 umプロセスのCMOS構成で約21万個のトランジスタを集積しています。
32 bit汎用レジスタを192本内蔵していて、3オペランド形式の命令体系となっています。命令は4段パイプラインで処理され、できるだけ1サイクルで1命令を実行できるように工夫されています。分岐命令はRISCプロセッサによく見られる遅延分岐方式で、32ロケーション分のブランチターゲットキャッシュも内蔵しています。乗除算命令はハードウエア規模から1サイクルで実行可能な演算回路を内蔵するのをあきらめて、乗除算処理の1ステップ分を実行する命令が用意されているだけです。つまり32 bit同士の乗除算が必要なら、乗除算命令を32個並べる必要があります。
デマンドページ方式のMMUも内蔵していて、64エントリのTLBも内蔵しています。
浮動小数点演算に関しては外部に浮動小数点アクセラレータAm29027を接続することで高速処理できますが、Am29000内蔵命令として特に対応はしていません。

初期のPostScript対応プリンタの中身には、Adobe社が最初に提供したPostScriptインタプリタがAm29000で書かれたものだったこともあって、かなり使われていました。ひところは、RISCアーキテクチャのマイクロプロセッサの中ではもっとも販売数量の多かったことで有名です。ワークステーションより、プリンタへの組み込みでシェアを伸ばしたのですね。

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