第13期
今期のテーマは「公団住宅」
文章と写真のコラボレーションでお届けします。 USE lomo
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公団住宅に住む彼女が僕のアパートを訪れた目的は、ボリス・ヴィアンの音楽だった。
僕はいそいそとCDをプレイヤーにセットし、録音を始めた。1分にも満たない短い曲だ。
あっと言う間に録音は終わり、テープを手渡そうと振り返った時、
彼女が僕のアパートを訪れた本当の目的を知った、、、
彼女は母と二人暮らしだ。年の離れた姉はいるが、男と同棲中だそうだ。
彼女いわく、姉は「もうすぐ結婚するのよ」と言い続けてもう5年目らしい。困ったもんだ。
父親の居ない理由は知らない。一度だけ聞いたような気がするが、忘れてしまった。
初めて家に上がった時、彼女と母と3人で食事をした。お喋りな彼女と違い、無口な母だった。
食事の途中、母は「またきてください、、」と一言残して仕事に行ってしまった。
苦手な香草のサラダを口に運んでいた僕は、苦笑いのような笑顔を返すくらいしかできなかった、、、
彼女は同じ公団内に住む、理工学部出の美容師見習いと付き合っていたはずだ。
彼は僕の兄の同級生で、大学を中退して美容学校に入り直した変わった奴だ。
僕は学生の頃、彼から誕生日プレゼントに越美晴のCDを貰った。
一緒に遊んだことがあるからって、友達の弟にプレゼントを送るなんてヘンなヤツだ、、、
彼女は「あたしね、ねこと話ができるの!」と、猫を見かける度に言う。
しかし、猫が近寄ってきた試しはない。そう指摘すると、
「ねこにはねこの都合があるのよ」と笑った。
また彼女の携帯が鳴り出した。
「うさぎはね、寂しいと死んじゃうの」どこかで聞いたセリフだ。
子供のような笑顔で笑う彼女に、
「自分のことをもう少し大事にしたほうがいいよ」とつまらない事を言ってしまった。
こんな恥知らずなセリフを言ってしまった自分に心底腹が立った。
「もうすぐこの公園も壊されて無くなるのよ」と彼女は寂しそうに呟いた。
僕はいとおしさで胸が一杯になってしまった。
TEXT 五味 みやび
PHOTO ボンド・トーキョー
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