川村渇真の「知性の泉」

評価目的を適切に作成するのが最初


製品の評価目的なら性能中心で簡単

 評価方法を設計するための最初の工程は、適切な評価目的の設定である。良い評価方法を求めるなら、評価目的も良い内容で規定しなければならない。
 評価目的の設定では、何のために評価を実施するのか最初に考える。設計した製品の評価なら、目標とした性能を満たしているかどうかが調べる目的となる。営業成績の評価では、利益への貢献度を明確化するのが目的となるだろう。評価の対象がどんなものであっても、何かの目的があって評価するはずだ。それを改めて考えると、評価の目的がハッキリする。
 評価目的の設定が最も簡単なのは、設計した製品の評価である。目標となる特性が設計する前に定められていて、それを満たすかどうかが評価目的となるためだ。評価目的を改めて考えるケースは非常に少ない。製品の評価方法の設計では、具体的な評価方法を決めるのが中心的な作業となる。
 目標となる特性が事前に決まっていても、評価方法を設計する際には、評価目的を考えてみたほうがよい。その製品の性能だけに限定せず、使われる状況や売れる要因を考え直し、評価目的として取り上げられないかを検討する。もし発見できれば、製品の設計前には予想もしなかった評価項目を加えられる。そのとき評価する製品には間に合わなくても、次回の製品では設計前の目標として組み込める。

評価対象の利用者を考えて評価目的を導き出す

 製品以外の評価では、目的を自分で設定しなければならない。適切な評価目的が見付からないときは、次のように考えてみるとよい。
 評価対象が良いとは「誰のために、何が、どうなれば良いと評価するか」と。このうち、まず最初に「誰のために」を考える。一般的には、評価対象の利用者が該当する。選挙制度の評価は特殊で、選挙で選ばれた政治家の活動により、最終的な恩恵を受ける「住民」が該当者となる。「誰のために」が決まったら、続いて「何が」と「どうなれば」を一緒に検討する。選挙制度の例では、「意見が」と「反映される」が考えられる。一緒に考えて詰まるようなら、「何が」だけとか「どうなれば」だけを考えてみてもよい。
 このように考えて得られた評価目的は、1つでないこともある。「誰のために」が1つでないか、次に「何が」が複数あるかどうか、最後に「どうなれば」をという具合に、前から順番に別な候補がないかを検討する。評価対象を多面的に評価したければ、複数の評価目的を設定するのが一般的だ。

組織を活性化する評価目的もある

 製品の性能を評価する場合には、対象となる製品を評価すれば、評価の作業が終わる。しかし、組織の活動に大きく関係する評価方法には、もっと別な役割がある。たとえば、社員の業績を評価する方法の場合だ。評価方法の善し悪しによって、社員のヤル気を大きく左右する。この種の評価方法は、企業組織という仕組みの一部であり、重要な役割を持っている。
 仕組みの一部として活用する評価方法では、評価目的の設定方法も難しい。販売員の営業成績を評価する場合を例に考えてみよう。普通なら、営業成績の値だけで単純に評価してしまう。すると、営業成績が良い上位の数人だけが、高い評価を得る。営業成績は各人の能力で決まる部分が多く、高い評価を得る人はほぼ決まってしまいがちだ。すると、それ以外の人はヤル気をなくし、営業部全体で見ると効率は低下する。
 この問題を解決するためには、営業成績の評価方法の改善が役立つ。たとえば、前の月と比較して向上度合いが一番大きな人を評価する方法ならどうだろうか。これなら成績が上位でなくても該当する可能性があり、より多くの人が関係するので、自分も頑張ってみようと思う人が増える。もちろん、もっと別な評価方法でもよい。重要なのは、組織全体での成績を高めることだ。
 このような考え方を、評価目的の設計に当てはめてみよう。営業成績の値だけで評価する方法では、評価目的が「営業成績の善し悪しを判定する」となる。次に出てきた改良案では、さらに「上位以外の人が頑張った部分も高く評価する」が加わる。また、この2つの評価目的の上位にあるのは、「組織全体での営業成績を高める」だといえる。
 これらを総合すると、最初に「組織全体での営業成績を高める」があって、それから「営業成績の善し悪しを判定する」と「上位以外の人の頑張った部分も高く評価する」が導き出されたと解釈できる。この手順こそが、評価目的の設計である。最初に全体の評価目的があって、それから細かな評価目的を求める。より細かな評価目的を段階的に導き出し、評価目的全体が階層構造になっている。評価目的を細かく分割し続けるのは、次の工程である評価項目を作れるレベルまでである。
 この中で一番重要なのは、最初に設定する評価目的だ。「組織全体での営業成績を高める」のように適切な目的が見付かると、より細かな評価目的を導き出しやすい。組織の運営目的と照らし合わせれば、適切な評価目的が見付かるはずだ。

幅広い視点で考えて評価目的を決める

 評価目的を設定する際には、いろいろな視点で考えなければならない。それを説明するために、サッカーリーグの試合成績の評価方法を取り上げよう。
 サッカーリーグの試合成績を評価する場合、試合の勝ち負けが大きく重要視される。Jリーグの評価方法を見て分かるように、得失点差も考慮されるが、それは勝ち負けが同じ評価ポイントだったときだけだ。試合成績の評価方法は、試合中の選手のヤル気に大きな影響を与えるので、その点も考慮して評価目的を設定する必要があるが、そうなってはいない。
 プロスポーツの場合は、お金を払って見に来てくれるファンを喜ばせなければならない。そのために大切なのは、試合の面白さである。5対0になった試合では、勝ち負けの決着が付いてしまったため、両チームともヤル気が減退しがちで、試合の面白さも低下する。それを防ぐには、1点でも多く取ると評価ポイントが上がるような評価方法が必要だ。試合の勝ちは10ポイントで、得失点差の1点分が1ポイントになるとか。そんな評価方法に変わると、勝っているほうは1点でも多く取ろうとするし、負けているほうでも、もう1点もやらない気持ちになって、ヤル気が最後まで持続されやすい。このような評価方法を作りたいなら、「ファンが喜ぶような面白い試合を多くする」という評価目的を加える。
 評価の公平さも重要な目的となり得る。5対0で勝った試合と、1対0で勝った試合が、同じ評価ポイントで良いのだろうか。得失点差は、評価ポイントが同じときだけ考慮されるので、実際には考慮されていないのに等しい。もっと公平に評価したいなら、別な評価方法を用いるべきであり、「試合成績を公平に評価する」を評価目的に加える。
 以上のように幅広い視点で考えると、いろいろな評価目的が出てくる。固定概念に縛られていると、「ファンが喜ぶような面白い試合を多くする」のような、重要な評価目的は浮かばない。評価目的は、評価方法を決める重要な出発点だけに、いろいろな角度から考えるべきだ。
 この例に関して、1つだけ補足しておきたい。「ファンが喜ぶような面白い試合を多くする」の達成は、試合成績の評価方法だけで考えるべきではない。成績が良かった個人を表彰するとか、別な評価と組み合わせて、全体として達成すべきである。評価目的を設計する際には、他の機能や仕組みも考慮に入れ、全体の効果が最大となる形にする。

評価目的の設定理由も記録として残す

 ここまで説明したように、2段階以上のレベルで評価目的が求まることもある。その場合には、すべての評価目的を入れて、階層関係を含めた形で確定する。そのようにすると、評価目的を求めた過程が少しでも明らかになる。
 評価目的が決まるまでには、いろいろな角度から考えるはずだ。評価目的の決定結果を書類として残すときは、思考過程も含めたい。それは、設定した理由の説明になる。誰の目にも明らかな評価目的以外は、設定した理由を説明する必要がある。また、理由を説明することは、適切でない評価目的の発見にも役立つ。
 評価目的を適切に設定できれば、続く工程で大きな間違いは起きにくい。それだけ重要な工程なので、十分に検討して求めたい。

(1998年4月20日)


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